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政策評価法に基づく事前評価書

評価年月日:平成16年5月14日
評価責任者:無償資金協力課長 山田彰


1.案件名

1-1.供与国名
 インド

1-2.案件名
 「下痢症研究及びコントロールセンター建設計画」
2.無償資金協力の必要性

2-1.二国間関係
 インドは、旧ソ連の崩壊後、西側諸国との外交関係の強化にも積極的に取り組み、成果を上げてきたが、近年ではアジア諸国との外交関係強化にも強い関心を示している。特に、米国との間で、政治的、軍事的関係が急速に拡大している。また、アジア諸国との関係では、中国との関係に一層の改善が見られ、また、2002年11月には、初めてのインド・ASEAN首脳会議が開催された。インドは、今後10年以内にASEAN諸国との間で自由貿易協定を締結することを提案している。
 我が国との関係については、1952年の外交関係樹立以降、50年に亘り伝統的な二国間の友好協力関係を有しており、近年は、グローバル・パートナーとして、政治、安全保障、経済、文化、地球規模問題等広範な分野において、多面的な対話と協力関係を戦略的な観点から構築していくこととしている。
 2002年度のインドの対日輸出額は約19億ドルで、インドの輸出総額の3.6%にあたり、インドにとって第7位の輸出先となっている。主な対日輸出品は、宝石類、魚介類・エビ、鉄鉱石、綿糸・綿布、電機機器である。また、2002年度のインドの対日輸入額は約18億ドルで、インドの輸入総額の約3%にあたり、インドにとって第8位の輸入元となっている。主な対日輸入品は、一般機械、電子機器、専門機器、鉄鋼、有機化合物である。

2-2.対象国の経済状況
 インドは独立以来、混合経済体制下で重工業を重視し輸入代替工業化政策を進めてきたが、91年、外貨危機を契機として経済自由化路線に転換し、産業ライセンス規制緩和、外資積極活用、貿易制度改革、為替切り下げと変動相場制移行等を柱とした経済改革政策を断行した。その結果、危機を克服したのみならず、90年代中盤には3年連続で7%を超える高い実質成長率を達成した。2000年度以降、国際原油価格高や世界経済の減速等の対外的な要因の影響もあって、経済成長率は2000年度4.0%、2001年度は5.4%、2002年度は4.3%となっている。
 バジパイ政権は、経済改革に積極的に取り組む姿勢を示し、財政構造改革(補助金の削減、公営企業改革、税制の簡素化)や、国際競争力のある経済の構築(インフラ整備の推進、更なる外資参入の促進、WTO取極に対応した労働法規や知的財産権法の整備)を主要な課題として取り組んできた。
 2004年5月に実施されたインド下院総選挙では、バジパイ首相率いる人民党は、水、電気、道路、雇用、教育など、農村部の基礎生活水準の向上を掲げたソニア・ガンディー氏率いる野党コングレス党に敗北した。今後、コングレス党を中心とした連立政権により新たな政権運営がなされる見込みであり、右政権により更なる貧困削減、農村部の社会経済開発が推進されることと見られている。

2-3.対象国の開発ニーズ
 インドでは、「第10次国家5ヵ年計画(2002~2007)」により保健医療サービスの強化・向上等を進めているところであるが、依然として乳幼児死亡率が高く(67人/1000人)、その死亡原因の第1位が水因性急性下痢症疾患(2002年:約1,000万人)である。下痢症疾患が延している要因としては、上水道の未整備等のほか、その予防・診断・治療体制・技術が不十分であることがあげられており、特に近年は、新型コレラ菌、薬剤耐性赤痢菌等が更に顕在化していることから、適切な下痢症診断技術の導入及び普及が急務とされている。
 このような状況の下、インドにおける下痢症疾患の同定診断・管理の中枢的役割を担う唯一の機関であるコルカタの国立コレラ・腸管感染症研究所(NICED)では、我が国の「下痢症対策プロジェクトPhase I」(技術協力:1998~2003)の支援の下、医療技術者の研修及び共同研究を行いNICEDの基礎的下痢症診断能力の向上を図ってきたが、今後も、「下痢症対策プロジェクトPhase II」(技術協力:2003~2008)の支援の下、下痢症原因菌を特定するための技術(同定技術)の定着、診断用血清及び菌株の適切な管理・保存、下痢症病原体の監視体制の構築を目指すとともに、インド国内病院への診療・同定技術の指導、第三国研修を実施し、国内外の医師に対する技術移転を図ることとしている。しかしながら、現有のNICEDは、狭小な施設、機材の老朽化、衛生設備の不備等により、上記診断技術の導入を行うことができない状態にある。
 このような状況に鑑み、インド政府は、診断・管理・研究・医師研修等に必要な施設の建設及び関連機材の供与につき、我が国に対し無償資金協力を要請してきたものである。

2-4.わが国の基本政策との関係
 保健・医療分野等に対する協力を中心とした貧困削減は、対インド国別援助重点分野に合致している。

2-5.無償資金協力を実施する理由
 人口の約3分の1が貧困状態に置かれているなど困難な政治・経済社会問題に直面しながらも、積極的に経済発展のための諸改革に取り組んでおり、無償資金協力の必要性が高い。
3.案件概要

3-1.目的
 本計画は、下痢症原因菌の同定技術の定着、診断用血清・菌株管理体制及び下痢症病原体監視体制の構築を目指すとともに、インド国内外の医師に対し適切な診断技術の普及を図ることを目的としている。

3-2.案件内容
 供与限度額は21億3,400万円。下痢症研究及びコントロールセンターの建設及び下痢症診断・研修用機材一式の調達を行うもの。

3-3.環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
 本計画の実施に際しては、インド政府側が、維持管理経費、職員の増員等を適切に確保するとともに、医療廃棄物の適切に処理することが必要となる。

3-4.無償資金協力の成果の目標(アウトカム)
(1) 下痢症診断技術・治療法の定着・普及が行われる。このことにより、インド国内約1億8千万人の5歳未満乳幼児に対し適切な医療サービスが提供され、乳幼児死亡率等が改善される。
(2) 第3国研修により、下痢症同定・診断技術が周辺諸国に普及し、周辺国の乳幼児死亡率等が改善される。
(3) インドとの二国間関係が増進される。
4.事前評価に用いた資料、有識者の知見等

(1)インド政府からの要請書
(2)JICA予備調査報告書、基本設計調査報告書
(3)第12回無償資金協力実施適正会議にて検討。


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