地球環境

東アジア酸性雨モニタリングネットワーク
the Acid Deposition Monitoring Network in East Asia:EANET

平成24年1月

1.酸性雨問題への国際的な取組の必要性

  1. (1)酸性雨問題は、国際的な関心を集めている環境問題の一つである。酸性雨は、その原因物質の発生源から数千キロも離れた地域にも沈着する性質があり、国境を越えた広域的な現象であり、特に、欧米においては、湖沼や森林等の生態系、遺跡・建造物等への影響が顕在化し、1979年には「長距離越境大気汚染条約(ECE条約)」が採択されている。
  2. (2)東アジア地域は、世界の三分の一強の人口を抱え、近年著しい経済発展を遂げていることに伴い、大気汚染、さらには酸性雨の問題に直面している。特に、エネルギー事情から石炭に依存せざるを得ない国も多く、硫黄酸化物や窒素酸化物の排出量が顕著に増加しており、事態は深刻になっている。こうした事情を踏まえ、東アジア地域において、酸性雨による影響の防止を目的として、地域協同の取組を推進することが急務となっている。

2.酸性雨対策の段取り

  1. (1)国際的な酸性雨問題の解決に向けては、汚染と被害の状況及びそれらの因果関係をある程度明らかにした上で、関係各国の参加が得られるような合理的な形での対策を進めていく必要がある。
  2. (2)そのため、具体的には、(ア)まず、共通の方法でモニタリングを実施することによりデータを収集・分析し、(イ)次に大気汚染物質の発生源の目録を整備し、(ウ)これらを踏まえて汚染物質がどのように変化し移動するのか等を予測する長距離輸送モデルを開発するとともに、生態系への影響を把握するなど科学的な検討を行うことにより、事実関係を解明していく必要がある。こうして解明された事実関係に基づき、東アジア各国の多様性を踏まえた国際的な排出源対策のあり方を探っていくことが可能となる。

3.東アジア酸性雨モニタリングネットワークの推進

(1)経緯

 我が国では環境庁(当時)が、東アジア各国において共通の方法による酸性雨モニタリングの実施及びそのネットワーク化を図る「東アジア酸性雨モニタリングネットワーク構想」を提唱し、その実現に向けて、1993年から専門家会合を開催していたが、1997年6月に開催された国連環境開発特別総会において橋本総理大臣(当時)が、「21世紀に向けた環境開発支援構想(ISD)」の行動計画の主要な柱としてネットワークの推進を表明した。ISDにおいては、ネットワークの具体化のため、開発途上国に対して、各国の要望に応じ、専門家派遣、モニタリング関連機材供与等ODAによる支援を検討することとされた。また、ISDの後継イニシアティブとして2002年8月に発表した「持続可能な開発のための環境保全イニシアティブ(EcoISD)」においても、EANETの推進の支援を明記している。

 1998年3月第1回政府間会合においては、ネットワークの設計及び試行稼働について協議し、ネットワークの試行稼働を1998年4月から開始することが合意された(インドネシア、日本、韓国、マレーシア、モンゴル、フィリピン、ロシア、タイ及びヴィエトナムが参加を表明。中国は1998年12月、カンボジアは2001年11月、ラオスは2002年11月より正式参加)。また、我が国よりネットワーク活動の中心となる暫定ネットワークセンターを新潟に置くこと及び試行稼働期間中の暫定事務局を日本(環境庁)に置くことを提案し、了承された。

 2000年10月第2回政府間会合(準備会合を右政府間会合の前に開催)においては、2001年1月から本格稼働を開始することを含む「共同声明」が参加国により採択された。また、事務局を環境省からUNEPアジア太平洋地域資源センター(RRC.AP)に移行させること、暫定ネットワークセンターとしての機能を果たしてきた新潟の酸性雨研究センターを本格稼働時のネットワークセンターとして指名することが決定された。

 2002年7月に財政措置に関する作業部会を新たに設立、EANETの今後の財政措置に対する検討を行い、2003年11月の第5回政府間会合においては、今後の資金分担ルール(財政的な枠組み)について、2005年から国連分担率をベースとして全ての加盟国が何らかのかたちで資金貢献できるような仕組みを目指す旨が合意された

 2005年1月の第7回政府間会合においては、EANETの将来展開に係る作業部会(2003年に設置に合意)においてEANETの設立基盤を強化するための文書及び法的性格に係る検討を開始し、その結果を第10回政府間会合に報告する旨の決定がなされた。 4年間にわたる議論の結果、2009年の第11回政府間会合において同文書の最終テキストが作成され、署名に向けて各国が国内手続きに付すことで一致。2010年の第12回政府間会合において、「EANET強化のための文書」が採択され、7カ国(カンボジア、我が国、モンゴル、ミャンマー、フィリピン、韓国及びタイ)の代表が署名、以後2011年5月にベトナム、同6月に中国が署名を済ませた。2011年の第13回政府間会合において、2012年1月1日(文書が自動的に発効する期日)以降の同文書の未署名国に対しては、早期の署名を促す決議を採択しつつ、引き続きEANET参加国としての活動に参加するよう勧める決定がなされた。

(2)科学諮問委員会(Scientific Advisory Committee: SAC

 参加国が指名するメンバー(科学者)によって構成され、モニタリングガイドラインや精度保障・精度管理(QA/QC)プログラムの採択、データ収集等に関する助言、東アジアの酸性雨の状況報告書の準備等を、科学的側面から行っている。SACの前身として、試行稼働期間中は暫定科学諮問グループ会合(ISAG)が開催されていた。

 2002年11月の第2回科学諮問委員会(於:バンコク)においては、データの公表手続き及び2000年データレポートが承認された他、2001年データレポート案について科学的な見地から精査が行われ、併せて最新の研究動向等について報告がなされた。2003年11月に開催された第3回科学諮問委員会(於:パタヤ)においては、モニタリング・データの評価プロセスに係る検討や2005年度予算と事業プログラムに関する提言が行われた。2006年の第8回政府間会合において、第一次定期報告書(PRSAD1)と共に、政策決定者用の要約(Executive Summary)が採択された他、2005年から2009年までの5年間に蓄積された酸性雨に関する情報を解析・評価する第二次定期報告書(PRSAD2)も2011年の第13回政府間会合において採択されている。

(3)EANETの将来展開に係る作業部会(WGFD: Working Group on Future Development

 EANET活動の今後の方向性及び地域協定化の可能性等を検討する目的で2003年11月の第5回政府間会合の合意に基づき設置された。毎年、政府間会合に数ヶ月先だって開催され、2012年まで計9回の開催が予定されている。2004年8月の第1回作業部会で、EANET活動の推進について各国とも積極的な姿勢を表明しつつ地域協定化については、まずは協定化の必要性・蓋然性の検討が必要等の意見が複数の国から表明されたことを皮切りに、EANET強化のための文書の検討が進められ、結果上記3.(1)のとおり合意に至っている。次回のWGFDにおいては、第13回政府間会合において合意に至ったEANETのスコープ拡大に向けた議論が行われる予定。

4.東アジア地域における他の酸性雨対策

日中韓大気汚染物質長距離越境移動(LTP)研究プロジェクト

 韓国国立環境研究院が中心となって実施している日中韓の専門家レベルでの共同研究プロジェクト。各国において航空機観測、大気汚染物質排出量データの整備、長距離移動モデル計算等の調査を行い、その結果を持ち寄って比較する作業が行われている。

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