地球環境
ラムサール条約
(特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約:The Convention on Wetlands of International Importance especially as Waterfowl Habitat)
1 背景・意義
湿原、沼沢地、干潟等の湿地は、多様な生物を育み、特に水鳥の生息地として非常に重要である。しかし、湿地は干拓や埋め立て等の開発の対象になりやすく、その破壊をくい止める必要性が認識されるようになった。湿地には国境をまたぐものもあり、また、水鳥の多くは国境に関係なく渡りをすることから、国際的な取組が求められる。そこで、特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地及びそこに生息・生育する動植物の保全を促し、湿地の適正な利用(Wise Use、一般に「賢明な利用」と呼ばれることもある)を進めることを目的として、1971年2月2日、イランのラムサール(カスピ海沿岸の町)で開催された「湿地及び水鳥の保全のための国際会議」において、本条約が採択された(1975年12月21日発効)。
本条約は、環境の観点から本格的に作成された多国間環境条約の中でも先駆的な存在であり、現在では広く用いられるようになった持続可能な利用(Sustainable Use)という概念を、その採択当初から適正な利用(Wise Use)という原則で取り入れてきた。現在は水鳥の生息地のみならず、人工の湿地や地下水系、浅海域なども含む幅広い対象の湿地を対象として、その保全及び適正な利用を図ろうとするものである。
(参考1)ラムサール条約における「湿地」の定義(第1条1)
この条約の適用上、湿地とは、天然のものであるか人工のものであるか、永続的なものであるか一時的なものであるかを問わず、更には水が滞っているか流れているか、淡水であるか汽水であるか鹹水(かんすい、注:塩水のこと)であるかを問わず、沼沢地、湿原、泥炭地又は水域をいい、低潮時における水深が6メートルを超えない海域を含む。
2 締約国の権利・義務
本条約は、湿地の生態学上、動植物学上等の重要性を認識し、その保全を促進することを目的としている。主な規定は、以下のとおり。
- (1)各締約国は自国の領域内にある国際的に重要な湿地を指定し、指定された湿地は国際的に重要な湿地の登録簿に掲載される(第2条1、2)。
- (2)締約国は、条約湿地の保全及び湿地の適正な利用を促進するため、計画を作成し、実施する(第3条)。
- (3)締約国は、条約湿地であるかを問わず、領域内の湿地に自然保護区を設けることにより湿地及び水鳥の保全を促進し、自然保護区の監視を行う(第4条1)。
- (4)湿地の研究、管理及び監視について能力を有する者の訓練を促進する(第4条5)。
3 締約国・条約湿地
2022 年12月現在、締約国数172か国、登録湿地数2,471か所、登録湿地の総面積は256,192,356 ヘクタールとなっている。
4 締約国会議
この条約の実施について検討し及びこの条約の実施を促進するため締約国会議を行うことが定められている(第6条)。具体的には、提出された様々な決議案をもとに、条約事務局や締約国などが同条約の枠組の中で何をすることができ、また何をすべきかを議論し、決議や勧告を採択している。
(参考2)締約国会議開催地
会議 | 日付 | 開催地 |
---|---|---|
第1回 | 1980年11月 | カリアリ(イタリア) |
第2回 | 1984年5月 | フローニンヘン(オランダ) |
第3回 | 1987年5月 | レジャイナ(カナダ) |
第4回 | 1990年6月 | モントルー(スイス) |
第5回 | 1993年6月 | 釧路 |
第6回 | 1996年3月 | ブリスベン(豪) |
第7回 | 1999年5月 | サンホセ(コスタリカ) |
第8回 | 2002年11月 | バレンシア(スペイン) |
第9回 | 2005年11月 | カンパラ(ウガンダ) |
第10回 | 2008年10月~11月 | 昌原(韓国) |
第11回 | 2012年7月 | ブカレスト(ルーマニア) |
第12回 | 2015年6月 | プンタ・デル・エステ(ウルグアイ) |
第13回 | 2018年10月 | ドバイ(アラブ首長国連邦) |
第14回 | 2022年11月 | 武漢(中国)及びジュネーブ(スイス) |
5 日本との関係
(1)日本の登録湿地
1980年6月17日に加入書を寄託機関たるユネスコに寄託し、同年10月17日に日本について効力発生。条約加入の際に「釧路湿原」を登録して以降、締約国会議が開催されるごとに、国内の湿地を条約湿地として指定し、登録湿地数を着実に伸ばしてきた。2002年の第8回締約国会議の時点で、日本の条約湿地は13か所となった。その後、日本は条約湿地登録に向けた動きを大きく加速させた。きっかけとなったのは、2005年までに条約湿地数を少なくとも2,000か所にするという第7回締約国会議(1999年)決議である。この決議を受けて、環境省が中心となり、日本の重要な湿地のリストである「日本の重要湿地500」の中から専門家による検討を経て候補地を選定し、自治体等との調整を行った結果、2005年10月に20湿地、2008年に4湿地、2012年には9湿地、2015年に4湿地、2018年に2湿地、2021年に1湿地を登録したことにより、日本の条約湿地数は合計で53か所となった。
(2)日本の貢献
- 1993年に第5回締約国会議を釧路で開催した。
- 第7回~第8回及び第8回~第9回締約国会議の2期6年連続して、東アジア地域の代表として常設委員を務めた。また第12回締約国会議(2015年開催)以降、東アジア地域の常設委員代理、第13回~第15回の常設委員となっている。
- 日本は、分担金以外に任意拠出金の拠出を行っており(2015年度:2万5千ドル、2016年度:3万8千ドル、2017年度:3万ドル)、その任意拠出金は、締約国会議及びアジア地域会合への途上国参加支援、アジア地域における湿地保全事業、キャパシティ・ビルディングに利用されている。日本のこのような貢献は条約事務局や他の国から高く評価されている。2017年度は、ラムサール条約の登録湿地であるパプアニューギニア政府のクツブ湖周辺での石油・ガス産業に対する健全な環境管理を推進するためのアドバイザリー・ミッション派遣のために3万ドルを拠出した。
- 国際協力機構(JICA)によって、「湿地における生態系・生物多様性とその修復・再生及び賢明な利用」、「サンゴ礁生態系の保全管理」、「マングローブ生態系の持続可能な管理と保全」の各研修が実施され、途上国から研修生を受け入れている。
6 最近の動き
- (1)締約国会議で議論されるテーマの範囲は近年特に拡大している。2002年の第8回締約国会議では、生物多様性条約や気候変動枠組条約等の多国間環境条約、環境と貿易、文化など幅広いテーマに及ぶ議論が行われ、過去最多となる46本に上る決議が採択された。
- (2)2005年11月の第9回締約国会議では、2004年末から2005年を象徴する自然災害、貧困削減、鳥インフルエンザなどに関する議論が行われ、25本の決議が採択された。また、わが国より提案した「ラムサール条約の効果的な履行に地域フォーラムが果たす重要性」に関する決議が採択された。さらに、わが国及び豪州がその発足を主導した「東アジア・オーストラリア地域フライウェイ・パートナーシップを含む、「ラムサール条約の枠組みにおける地域イニシアティブ」に関する決議が採択された。
- (3)2008年10月から11月にかけて開催された第10回締約国会議では、気候変動、水問題等も含む、合計32本の決議が採択された。また、日本と韓国が共同提案した「湿地システムとしての水田における生物多様性の向上」に関する決議が採択された。
- (4)2012年7月に開催された第11回締約国会議では湿地におけるツーリズム、湿地とエネルギー、農業と湿地の相互作用、湿地と持続可能な開発に関する決議が採択された。
- (5)2015年6月に開催された第12回締約国会議では、第10回締約国会議で採択された「ラムサール条約戦略計画2009-2015」の後継で、条約の実施のベースとなる「ラムサール条約戦略計画2016-2024」の他、湿地と防災・減災に関する決議等16本の決議が採択された。「ラムサール条約戦略計画2016-2024」は、「全ての湿地の保全及びワイズユース」をMission(条約の使命)とし、「湿地が保全され、賢明に利用され、再生され、湿地の恩恵が全ての人に認識され、価値付けられること」をVision(長期目標)としている。更に「湿地の損失及び劣化の要因への対処」、「ラムサール条約湿地ネットワークの効果的な保全及び管理」、「あらゆる湿地のワイズユース」、「実施強化」を4つのGoal(目標)とし、さらに19のTarget(個別目標)を掲げている。
- (6)2018年10月に開催された第13回締約国会議では、気候変動から大きな影響を受けるとされる都市化が進んだ区域等の湿地の保全等について議論が行われ、合計25本の決議が採択された。特に、森林より炭素蓄積の効果が高いとされる泥炭地等の沿岸生態系の価値について認識され、持続可能な開発と気候変動の緩和と適応のための行動を推進する決議案として採択された。
- (7)2022年11月に開催された第14回締約国会議では、ラムサール条約第4次戦略計画の見直しを含む合計21本の決議が採択された。戦略計画2023~2025においては、新たな課題等に対応するテーマ別附属書として、(1)SDGsの達成につながる湿地活動、(2)CEPA(Communication, Capacity building, Education, Participation and Awareness;交流、能力養成、教育、参加、普及啓発)の新しいアプローチ、(3)ジェンダーに配慮した湿地政策、に関する附属書が追加された。また、期間中に「ラムサール条約湿地自治体認証制度」に基づく認証式が開催され、我が国からは新潟県新潟市及び鹿児島県出水市が国内で初めて認証されました。
7 事務局・予算
(1)事務局
国際自然保護連合(IUCN)が、他の機関又は政府が指定される時まで事務局の任務を行っている(第8条1)。また、ラムサール条約の寄託者には、ユネスコが指定されている(第9条3)。
(2)予算
締約国会議では、この条約の財政規則を定め及び定期的に検討し、予算を採択するとされている(第6条5)。締約国は、締約国会議で採択する分担率に従い、予算にかかる分担金を支払うこととなっている(第6条6)。2021年の日本の分担金は、約42万スイス・フラン(拠出第3位)。