地球環境
オゾン層保護
(ウィーン条約:Vienna Convention for the Protection of the Ozone Layer
モントリオール議定書:Montreal Protocol on Substances that Deplete the Ozone Layer)
令和5年11月10日
1 背景等
- (1)地球を取り巻くオゾン層は、生物に有害な影響を与える紫外線の大部分を吸収しているが、他方で、冷蔵庫の冷媒、電子部品の洗浄剤等として使用されていたCFC(クロロフルオロカーボン)、消火剤のハロン等は、大気中に放出され成層圏に達すると紫外線による光分解によって塩素原子等を放出し、これが分解触媒となってオゾン層を破壊している。
オゾン層の破壊に伴い、地上に達する有害な紫外線の量が増加し、人体への被害(視覚障害・皮膚癌の発生率の増加等)及び自然生態系に対する悪影響(穀物の収穫の減少、プランクトンの減少による魚介類の減少等)がもたらされている。 - (2)このようなオゾン層破壊のメカニズム及びその悪影響は、1970年代中頃から指摘され始め、その後、国際的な議論が行われ、
- ア 1985年3月22日に、オゾン層の保護を目的とする国際協力のための基本的枠組を設定する「オゾン層の保護のためのウィーン条約」が、
- イ 1987年9月16日に、同条約の下で、オゾン層を破壊するおそれのある物質を特定し、当該物質の生産、消費及び貿易を規制して人の健康及び環境を保護するための「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」が、
それぞれ採択されるに至った。
なお、条約及び議定書の事務局は、両者ともナイロビの国連環境計画(UNEP)に置かれている。
2 条約及び議定書の概要
(1)「オゾン層の保護のためのウィーン条約」の概要
本条約においては、締約国が、
- ア オゾン層の変化により生ずる悪影響から人の健康及び環境を保護するために適当な措置をとること(第2条第1項)
- イ 研究及び組織的観測等に協力すること(第3条)
- ウ 法律、科学、技術等に関する情報を交換すること(第4条)等について規定している。
(2)「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」の概要
ア 議定書に定める規制措置
本議定書において規定する主な規制措置は次のとおりである。
- (ア)各オゾン層破壊物質(ODS:Ozone Depleting Substances)の全廃スケジュールの設定(第2条のA~I)
- (イ)非締約国との貿易の規制(規制物質の輸出入の禁止又は制限等)(第4条)
- (ウ)最新の科学、環境、技術及び経済に関する情報に基づく規制措置の評価及び再検討(第6条)
- (エ)代替フロンとして使用されるハイドロフルオロカーボン(HFC)の段階的削減スケジュールの設定(第2条のJ)(2016年の議定書改正で追加)
イ 議定書の下での規制措置の強化
モントリオール議定書の採択後、議定書締約国の間でオゾン層の破壊状況と規制措置についてさらに検討が行われた結果、オゾン層の回復に向けてさらに強力な対策を行う必要性が認識されたこと等から、
- (ア)1990年6月 議定書第2回締約国会合(ロンドン会合)
- (イ)1992年11月 議定書第4回締約国会合(コペンハーゲン会合)
- (ウ)1995年12月 議定書第7回締約国会合(ウィーン会合)
- (エ)1997年9月 議定書第9回締約国会合(モントリオール会合)
- (オ)1999年12月 議定書第11回締約国会合(北京会合)
- (カ)2007年9月 議定書第19回締約国会合(モントリオール会合)
なお、規制措置の強化は次の2つの方法により行われている。
- (a)議定書の「改正」:新たな規制物質及び規制措置の追加等を行う。新たな国際約束の締結を行うこととなる。
- (b)議定書の「調整」:既存の規制物質の規制スケジュールの変更を行う。議定書が規定する機関決定方式であり、締約国の3分の2の多数決で採択され、すべての締約国を拘束する。
3 開発途上国援助
(1)経緯
- ア 1990年6月の議定書第2回締約国会合(ロンドン会合)において、モントリオール議定書に基づく規制措置を実施する十分な資金・技術を有していない開発途上国(議定書第5条1適用国。以下「5条国」という。)を支援するために、「モントリオール議定書の実施のための多数国間基金」(以下「多数国間基金」という。)を中核とする暫定的な資金供与の制度の設立につき合意され、同基金が1991年1月に暫定的に発足した。
- イ 1992年11月の議定書第4回締約国会合(コペンハーゲン会合)において資金供与の制度の正式な設立につき合意され、1993年1月に多数国間基金が正式に発足した。
(2)多数国間基金の概要
多数国間基金の予算は、国連分担率を基礎として、先進国(議定書第5条1非適用国)の拠出によって賄われる。
基金は、執行委員会(Executive Committee;締約国のうち先進国及び5条国から各7か国の計14か国で構成。我が国及び米国は事実上常任国として取り扱われている。)により運営され、UNDP、UNEP、UNIDO及び世界銀行が支援事業の実施機関となっている。
なお、基金事務局はカナダのモントリオールに置かれている。
(3)多数国間基金の資金規模
同基金は、3か年を1期として、締約国会合において資金規模が決定される。これまでの資金規模の推移は次のとおりであり、我が国は基金発足以来の累計額で米国に次ぐ拠出国となっている(括弧内は各予算期間における我が国の負担額)。
- 第1期(1991~1993年):2億4000万ドル(約3,300万ドル)
- 第2期(1994~1996年):5億1000万ドル(約6,500万ドル)
- 第3期(1997~1999年):5億4000万ドル(約8,500万ドル)
- 第4期(2000~2002年):4億7570万ドル(約9,900万ドル)
- 第5期(2003~2005年):5億7300万ドル(約1億400万ドル)
- 第6期(2006~2008年):4億7000万ドル(約8,800万ドル)
- 第7期(2009~2011年):4億9000万ドル(約8,073万ドル)
- 第8期(2012~2014年):4億5000万ドル(約6,394万ドル)
- 第9期(2015~2017年):5億750万ドル(約6,568万ドル)
- 第10期(2018~2020年):5億4000万ドル(約7,319万ドル)
- 第11期(2020~2023年):5億4000万ドル(約6,676万ドル)
- 第12期(2024~2026年):9億6500万ドル(約7,154万ドル)
4 今後の課題
2030年までに途上国における原則廃絶が予定されているHCFCについて、途上国における対策を促進することが課題であり、これに向けて多数国間基金が有効に活用されるよう、今後も我が国として国際的な取組に参画していくことが求められる。また、HFCは、気候変動対策の観点から生産消費の段階的削減の重要性が認識されており、キガリ改正に規定される削減スケジュールが着実に実施されていくことが重要である。
5 関連リンク
- モントリオール議定書締約国会合
- オゾン事務局(OZONE SECRETARIAT(英語)
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