平成21年2月
(1)有害な廃棄物の国境を越える移動は1970年代から欧米諸国を中心にしばしば行われてきた。1980年代に入り、ヨーロッパの先進国からの廃棄物がアフリカの開発途上国に放置されて環境汚染が生じるなどの問題が発生し、何等の事前の連絡・協議なしに有害廃棄物の国境を越えた移動が行われ、最終的な責任の所在も不明確であるという問題が顕在化した。
(2)これを受けて、OECD及び国連環境計画(UNEP)で検討が行われた後、1989年3月、スイスのバーゼルにおいて、一定の有害廃棄物の国境を越える移動等の規制について国際的な枠組み及び手続等を規定した「有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約」が作成された(1992年5月5日効力発生。2009年2月現在締約国数は172カ国・機関)。
(3)我が国は、リサイクル可能な廃棄物を資源として輸出入しており、条約の手続に従った貿易を行うことが地球規模の環境問題への積極的な国際貢献となるとの判断の下、1993年9月17日に同条約への加入書を寄託し、同条約は、同年12月16日に我が国について効力を生じた。
本条約は、前文、本文29カ条、末文及び9の附属書(ただし、附属書 VIIについては未発効)からなり、その主たる規定は次の通り。
(1)この条約に特定する有害廃棄物及びその他の廃棄物(以下、本資料において「廃棄物」という。)の輸出には、輸入国の書面による同意を要する(第6条1〜3)。
(2)締約国は、国内における廃棄物の発生を最小限に抑え、廃棄物の環境上適正な処分のため、可能な限り国内の処分施設が利用できるようにすることを確保する(第4条2(a)及び(b))。
(3)廃棄物の不法取引を犯罪性のあるものと認め、この条約に違反する行為を防止し、処罰するための措置をとる(第4条3及び4)。
(4)非締約国との廃棄物の輸出入を原則禁止とする(第4条5)。
(5)廃棄物の南極地域への輸出を禁止する(第4条6)。
(6)廃棄物の運搬及び処分は、許可された者のみが行うことができる(第4条7(a))。
(7)国境を越える廃棄物の移動には、条約の定める適切な移動書類の添付を要する(第4条7(c))。
(8)廃棄物の国境を越える移動が契約通りに完了することができない場合、輸出国は、当該廃棄物の引き取りを含む適当な措置をとる(第8条)。
(9)廃棄物の国境を越える移動が輸出者又は発生者の行為の結果として不法取引となる場合には、輸出国は、当該廃棄物の引取を含む適当な措置をとる(第9条2)。
(10)締約国は、廃棄物の処理を環境上適正な方法で行うため、主として開発途上国に対して、技術上その他の国際協力を行う(第10条)。
(11)条約の趣旨に反しない限り、非締約国との間でも、廃棄物の国境を越える移動に関する二国間または多数国間の取決めを結ぶことができる(第11条)。
本件条約を実施するため、1992年に「特定有害廃棄物等の輸出入等の規制に関する法律(バーゼル法)」を制定し、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律の一部を改正する法律」が第125回国会で成立。また、1993年9月には国内法の所管省庁である環境庁、厚生省、通産省(当時)において関係政省令等の整備を完了した。
なお、バーゼル条約上の「中央連絡先」としては外務省地球環境課が、「権限のある当局」としては環境省適正処理・不法投棄対策室が指定されている。
(1)締約国会議
締約国会議(COP)は2年毎に開催されることになっている(第15条及び締約国会議手続規則)。現在まで9回開催されており、次回は、3年後の2011年に開催予定である。過去の主な議題・決定等は以下の通り。
第1回(1992年12月 ピリアポリス(ウルグアイ))
環境上適正な処理のガイドラインの採択
第2回(1994年3月 ジュネーブ(スイス))
先進国から途上国への有害廃棄物の輸出禁止の決定
第3回(1995年9月 ジュネーブ(スイス))
先進国から途上国への有害廃棄物の輸出禁止の条約改正
第4回(1998年2月 クチン(マレイシア))
廃棄物リストの採択(新附属書 VIII及び IX)、附属書 VII(途上国へ廃棄物の輸出が禁止される国のリスト)を発効まで改正しない決定
第5回(1999年12月 バーゼル(スイス))
損害賠償責任議定書の採択、環境上適正な管理に関するバーゼル宣言の決定
第6回(2002年12月 ジュネーブ(スイス))
遵守メカニズムの採択及び遵守委員会の設立の決定
第7回(2004年10月 ジュネーブ(スイス))
残留性有機汚染物質(POPs)技術ガイドラインの採択
第8回(2006年11月 ナイロビ(ケニア))
E-Waste問題解決に向けてのナイロビ宣言の採択
第9回(2008年6月 バリ(インドネシア))
人の健康と生活のための廃棄物管理に関するバリ宣言の採択
(2)補助機関会合
第15条5(e)により、締約国会議は補助機関を設置することができることとなっており、現在、拡大ビューロー会合、公開作業部会及び遵守委員会が設置されている。なお、第7回公開作業部会のビューローメンバーは、共同議長にナイジェリア(技術)及び豪州(法律)、共同副議長にヨルダン(技術)及びジャマイカ(法律)、報告者にクロアチアが選出されている。
(3)事務局
条約に定められた業務(締約国への通報等)を行うため、ジュネーブに事務局が設置されている。事務局職員の人事権はUNEPが有している。2001年1月、桑原幸子氏が事務局長に就任し、3期目(1期2年)が終わる2007年4月末まで務めた後、現在、クマー=ペイリー(Kummer-Peiry)(スイス国籍)が事務局長を務めている。同氏はバーゼル条約に20年近く携わっている専門家であり、スイス外務省の環境部局の長、環境政策や環境法に関するコンサルタント等を経験している。
(4)予算
予算は締約国会議において決定され、バーゼル条約信託基金(通称BC基金)を設置して運営されている(出納業務はUNEPが行う)。締約国は、国連分担率を基に算出される分担率で、事務局予算を負担している。我が国は、米国が未締結ということもあり、約20.8%を拠出している(2008年度は約87万ドルを拠出済)。この他、任意拠出による技術協力信託基金(通称BD基金)があり、これまでも同基金を通じ、我が国は締約国会議への途上国参加旅費、アジア太平洋地域におけるE-Wasteの環境上適正な管理プロジェクト等に対して支援している。
(1)1995年9月の第3回締約国会議(ジュネーブ)において、いわゆる先進国と途上国の間の廃棄物の越境移動に関する条約改正が採択された。改正の概要は以下のとおり。
(イ)附属書 VIIに掲げられている締約国(OECD加盟国、EUの構成国、リヒテンシュタイン)は附属書 VII国に掲げられていない締約国に対する附属書 IV Aに規定する作業が行われるはずの有害廃棄物の越境移動を禁止する。
(ロ)附属書 VII国に掲げられている締約国は、附属書 VIIに掲げられていない締約国に対する附属書 IV Bに規定する作業が行われるはずの有害廃棄物の越境移動を1997年12月31日までに終了し、同日付で禁止する。このような越境移動は、当該廃棄物がこの条約上有害な特性を有するとされない限り、禁止されない。
(2)1998年3月の第4回締約国会議(マレーシア)で、附属書 VIIに関する検討は進めていくが、条約改正の発効まで、附属書 VIIは改正しないこととされた。
(3)本条約改正は、バーゼル条約第17条5によると、改正を受け入れた締約国の少なくとも4分の3の批准・受諾・加入により当該改正を受け入れた締約国の間で効力を生ずることとなっている(2009年2月現在の締約国数は、64カ国・機関)。なお、第17条5の解釈が締約国間で分かれており、今後も締約国会議、公開作業部会等において、第17条5の解釈及び解釈の決定プロセスについて、更なる議論が行われる予定。
(1)バーゼル条約第12条では、「締約国は、有害廃棄物及び他の廃棄物の国境を越える移動及び処分から生ずる損害に対する責任及び賠償の分野において適当な規則及び手続を定める議定書をできる限り速やかに採択するため、協力する」と規定されていることをうけ、1999年12月の第5回締約国会議(バーゼル)において、有害廃棄物の越境移動及びその処分に伴って生じた損害について、その責任と補償に関する枠組みを定めた有害廃棄物の越境移動に関する損害賠償責任議定書が採択された。主な内容は以下のとおり。
(イ)有害廃棄物の輸送手段への積載時(又は輸出国の領海を離れたとき)から当該廃棄物の処分完了時までに生じた、当該廃棄物の有害性から生じる人的損害、財産損害、逸失利益、回復措置費用、防止措置費用につき、当該廃棄物が処分者に渡るまでは条約上の通報者(基本的に輸出者)が、それ以後は処分者が、それぞれ厳格責任(いわゆる無過失責任)を負う。
(ロ)厳格責任については、責任限度まで保険等の財務的補償によってカバーされる。条約上の通報者は、輸入国への通報に際し、当該通報に係る越境移動が保険等によりカバーされている旨の証明を通報に添付する。
(ハ)本議定書の下でカバーされない損害費用が生じた場合に対応するため、既存のメカニズムを活用して、本議定書の下でカバーされない損害費用を適切に補填する追加的かつ補完的な措置をとることができる。
(2)本議定書は、20番目の批准書等を寄託者が受領した後90日目に発効することとなっている。(2009年2月現在の締約国数は8(ボツワナ、コンゴ(民)、コンゴ(共)、エチオピア、ガーナ、リベリア、シリア、トーゴ)、署名国数は13。)
(1)バーゼル条約第1条では、規制対象となる有害廃棄物を以下の(a)及び(b)のとおり定義している。
(a)附属書 Iに掲げるいずれかの分類に属する廃棄物(附属書 IIIに掲げるいずれの特性も有しないものを除く。)
(b)(a)に規定する廃棄物には該当しないが、輸出国、輸入国又は通過国である締約国の国内法令により有害であると定義され又は認められている廃棄物
(2)上記のとおり、バーゼル条約の規制対象となる廃棄物に該当するか否かについては、附属書 I及び IIIの両方を参照して判断することとなっているが、これらの附属書は抽象的な規定にとどまっていたため、規制対象となる廃棄物についての解釈が各締約国で分かれる等の不都合があった。このため、第4回締約国会議(マレーシア)において、規制対象物と規制対象外の物を具体的に示したリスト(附属書 VIII、 IX)を作成し、バーゼル条約の規制対象物を可能な限り明らかにすることとした。なお、附属書 VIII又は IX に掲載されていない物は、従来どおり、附属書 I及び IIIの両方を参照して判断することとなる。
(1)環境上適切な管理のためのバーゼル宣言
第5回締約国会議(バーゼル)では、条約採択から10年間のバーゼル条約の取組を踏まえ、今後10年間にバーゼル条約の下、いかなる取組を進めていくべきかについて議論が行われた。その結果、「環境上適正な管理(Environmentally sound management)」をキーワードとして以下のような分野で各種取組を進めていく必要があるとの「環境上適切な管理のためのバーゼル宣言」が取りまとめられた。
1) 有害廃棄物の防止、最少化、再利用、回収及び処分
2) よりクリーンな技術の積極的促進及び活用
3) 有害廃棄物の越境移動の更なる削減
4) 不法取引の防止及び監視
5) 制度的・技術的対処能力の向上及び途上国等への環境上適正な技術の移転の促進
6) 訓練及び技術移転のための地域センターの発展
7) 各主体の情報交換、教育、啓発の促進
8) あらゆるレベルでの協力及び連携
9) 条約及びその改正の遵守並びに監視及び効果的実施のためのメカニズムの発展
その後、第6回締約国会議(ジュネーブ)において、同宣言に掲げられた重点9分野を実効的に実施するための作業計画である「バーゼル条約実施のための2010年までの戦略計画」が承認された。この戦略計画に基づき、官民共同によるパートナーシッププログラム等様々なプロジェクトが実施されている。
(2)技術ガイドライン
有害廃棄物の適正処理に資するため、有害特性、処分行為、各有害廃棄物(医療廃棄物、プラスチック廃棄物とその処理、廃鉛蓄電池、廃タイヤ、POPs(残留性有機汚染物質)廃棄物)に係る技術ガイドラインが作成されている。
(3)E-Waste問題解決に向けてのナイロビ宣言
第8回締約国会議(ナイロビ)では、E-Waste(電気電子機器廃棄物)が世界的に急増していることを受け、E-Wasteの適正処理のための情報及び技術の先進国から途上国への移転を推進すること、E-Wasteの違法取引に対して早急に行動すること等E-Wasteの適正処理を呼びかけるナイロビ宣言が採択された。
(4)健康と生活のための廃棄物処理に関するバリ宣言
第9回締約国会議(バリ)では、ハイレベルセッションとして、「健康と生活のための廃棄物処理に関するワールドフォーラム」が開催され、廃棄物処理がMDGs(ミレニアム開発目標)達成と緊密な関係を有するとの認識のもと、9名の産官学界の有識者からそれぞれの経験に基づく提言と参加各国からの意見表明が行われた。それらの結果は、「健康と生活のための廃棄物処理に関するバリ宣言」として取りまとめられた。
(1)有害廃棄物の問題に対しては、越境移動の規制のみならず、各国、とりわけ途上国の処理能力の向上が必要であることから、バーゼル条約第14条1において、有害廃棄物の処理及び有害廃棄物の発生を最小限とするための訓練・技術移転地域センターが設立されるべき旨規定している。現在、エジプト、ナイジェリア、セネガル、南アフリカ、中国、インドネシア、イラン、サモア、ロシア、スロバキア、アルゼンチン、エルサルバドル、トリニダードトバゴ、ウルグアイに設置されており、新たにスリランカにも南アジア地域のための地域センターの設立を検討中。
(2)我が国は、これらの地域センターに対して、技術協力信託基金等を通じた財政支援や技術支援を行っている。
(1)輸出入の実績
バーゼル条約の我が国の国内実施法である「特定有害廃棄物等の輸出入等の規制に関する法律(バーゼル法)」に基づき行われる輸出入の承認の状況は次のとおりである(平成19年1〜12月)。
| 我が国からの輸出件数 | 我が国への輸入件数 | ||
|---|---|---|---|
| 輸出の承認 | 218,590トン | 輸入の承認 | 19,617トン |
(イ)輸出相手先は、韓国、ベルギー、米(OECD加盟国)。品目については、鉛スクラップ(鉛畜電池)等の金属回収を目的とするものであり、最終処分を目的とするものはなかった。
(ロ)輸入相手先は、中国、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、スリランカ、タイ、台湾及び米。品目については、ニカド電池スクラップ、電子部品スクラップ、亜鉛スラッジ、基板くず、銀スラッジ、金属スクラップ等であり、いずれも金属回収など、再生利用を目的とするものであり、最終処分を目的とする物ではなかった。
(2)我が国の取組
不適正輸出の未然防止及びアジア諸国を中心としたキャパシティ・ビルディングへの協力として、関係省庁が連携して、以下のような取組を行っている。
1)国内対策
2)国際的対策
| 日付 | 内容 |
|---|---|
| 1976年 | 伊セベソにて農薬工場爆発。ダイオキシン飛散 |
| 1982年9月 | セベソ事件の汚染土壌を保管していたものが行方不明となり、1983年5月北フランスにて発見される。 |
| 日付 | 内容 |
|---|---|
| 1982年 | 有害廃棄物の越境移動の管理について、OECDにて検討開始 |
| 1984年2月 | OECDメンバー国は有害廃棄物の越境移動を管理することを、OECD理事会が決定 |
| 1984年 | UNEPにおいて、有害廃棄物の規制のためのガイドライン及び原則の検討を開始 |
| 1985年6月 | 有害廃棄物の越境移動の管理に関し、法的に拘束力のある国際協定を用意することを、OECD理事会が決定(その後の協議では、有害廃棄物の定義が大きな争点) |
| 1987年6月 | UNEP管理理事会が、有害廃棄物の越境移動の管理に関するカイロガイドライン及び原則を承認するとともに、協定の検討を行うための作業グループの設置を決定。 |
| 1988年2月 | UNEP作業グループ第1回会合開催(その後の協議の大きな争点の一つは、処分作業の定義) |
| 日付 | 内容 |
|---|---|
| 1988年 | ナイジェリアのココ港付近の船荷置き場にて、イタリアからの大量の有害廃棄物が搬入、投棄されていたことが判明 |
| 日付 | 内容 |
|---|---|
| 1989年3月 | バーゼル条約採択 |
| 1989年12月 | アフリカ・カリブ・太平洋諸国と欧州共同体が、第4次ロメ協定に署名(欧州共同体は、アフリカ・カリブ・太平洋諸国に有害廃棄物を輸出することを一切禁止する) |
| 1991年1月 | 廃棄物の越境移動の削減に関するOECD理事会決定 |
| 1991年1月 | OAUが、バコマ条約(有害廃棄物のアフリカへの輸入の禁止、及びアフリカ内の有害廃棄物の越境移動及び管理の規制に関する条約)を採択 |
| 1992年3月 | 回収操作を目的とする有害廃棄物の越境移動の規制に関するOECD理事会決定(日本棄権:決定内容を実施する権限を政府が与えられていなかったため) |
| 1992年5月 | バーゼル条約発効 |
| 1992年11月 | バーゼル条約第1回締約国会議(日本はオブザーバー参加) |
| 1992年12月 | 日本に対し、バーゼル条約発効 |