経済

「WTOとEPA」セミナー(概要と評価)

平成19年2月23日

(写真)「WTOとEPA」セミナー


 23日、赤坂プリンスホテルにおいて、外務省主催「WTOとEPA」セミナー(日本経団連後援)が開催されたところ、概要と評価以下のとおり(議事録はこちら(PDF)PDF)。

1.議論の概要

(1)第1セッション「WTOの意義とドーハ・ラウンドの行方」

(イ)冒頭、宇山国際貿易課長は、ドーハ・ラウンド交渉の現状について触れつつ、我が国の対外経済政策の基本はWTOを中核とする多角的貿易体制の維持・確保にあり、EPA/FTAは補完的役割を果たすものとして位置付けられるべきものである旨を説明。その上で、WTOの優位性(グローバル・ルールの策定、公平性等)及びEPAの優位性(交渉のスピード、二国間の関心事項の実現、より深い協力作り等)について説明した。

(ロ)佐久間新日鐵部長は、WTO加盟前の中国では鉄鋼の輸入の総量規制が行われていたことを想起しつつ、WTOは、ルールとしての拘束力・是正力を有している点で極めて重要であることを指摘。また、いわゆるスパゲッティー・ボール現象によるデメリットは実際のビジネスではあまり聞こえてこず、WTOであれFTAであれ貿易自由化が進むことが重要である旨発言。

(ハ)米谷弁護士は、1)WTOの最恵国待遇の原則の下での関税引き下げの重要性(特恵原産地規則とりわけ累積規定の経済的含意に注意)、2)WTOのカバレッジの広さ(各国の国内政策(食品安全等)も対象とできる)、3)WTOの紛争処理制度の有効性(前提としてのWTOルールの規範的正統性及び必要なリソースの具備)、の3つの観点から、WTOの意義を論じた。

(ニ)小寺東京大学大学院教授は、国際貿易における安定性・信頼性の向上の観点からWTO体制が維持されることこそ日本の利益となる旨発言。ドーハ・ラウンドについては、開発イニシアチブの着実な実施等を通じて交渉の環境整備に貢献することが日本の役割である旨述べるとともに、農産品上限関税導入等に対処する必要性を指摘した。

(2)第2セッション「EPA/FTAの成果と今後の方向性」

(イ)これまでの日本のEPA/FTAの特徴について、大鷹経済連携課長より、EPAは両国間の信頼関係を確固たるものとする手段であり、インフラ整備であること、主にASEAN諸国を相手とする日本のEPAでは充実した協力章が盛り込まれていることを説明した。

(ロ)荒木横浜国立大学大学院教授は、スパゲッティー・ボール現象から生じうるデメリットを解説した上で、WTO協定にいう「実質上のすべての貿易」の基準について具体的な数値の合意やパネル・上級委員会の判断はないものの、各国ともWTO協定との整合性を年頭に置きつつFTA交渉を進めている旨述べた。

(ハ)大川日本経団連アジア・大洋州地域委員会企画部会長は、日本企業がグローバルに展開する中でEPAは産業界にとって極めて重要な経済インフラである旨発言。その関連で、政府の交渉推進体制は強化されるべきである旨の要望を表明した。

(ニ)鈴木東京大学大学院教授は、豪州とのEPAでは従来の対ASEAN型の「協力」を通じた柔軟な対応が困難であるとした上で、全面的な関税撤廃は日本の基幹食料生産への深刻な打撃、食料自給率の大幅低下や環境問題の深刻化につながる恐れを認識し、国民的議論を尽くして、バランスのとれたぎりぎりの妥結点を探るべきと指摘。また、日本にとっては、中国・韓国など近隣国との経済連携をまず進めることが重要である旨述べた。

(ホ)一般参加者との質疑応答でも様々なやりとりがなされた。その中で、大鷹経済連携課長は、質問に応える形で、日本のEPAには締約国による環境関連の規制が妨げられない旨が盛り込まれており、EPAによってフィリピン等に対する有害廃棄物が輸出されることにはならないこと、政府の交渉体制については外務省は関係省庁と緊密な連携を図っていること等を説明した。

2.評価

(1)今次セミナーは、WTOドーハ・ラウンド交渉が重要な局面を迎えつつある一方、EPA/FTAを創設する国際的な動きが活発化している中で開催された。

(2)第1セッションでは、多角的貿易体制の中核をなすWTOは極めて重要であることが改めて確認された。第2セッションでは、WTOとの整合性も念頭に置きながら、今後のEPA交渉を如何に進めていくべきかについて、様々な観点から有益な意見交換が行われた。

(3)今次セミナーには、雨天にもかかわらず予定定員を上回る150名近い聴衆が参加。活発な質疑応答を通じて、WTOとEPAに関する一般参加者の関心と理解を更に深める有意義な機会となった。

配布資料

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