平成24年5月22日
外務省広報文化交流部
5月22日,「広報文化外交の制度的あり方に関する有識者懇談会」の第5回会合が開催され,「多様な広報文化ツールと広報文化外交の成果の測定:あり得べき形とは何か?」のテーマで議論が行われたところ,概要は以下のとおり。
広報文化外交においてITやSNSを活用しないという選択肢はもはやないが,その有効性は年齢層や国・地域などによって異なるので,このことに配慮して他の媒体やツールとのバランスを判断すべきとの認識が示された。第2次補正予算を活用して被災地に海外のブロガーを訪問・発信させたスキームは有意義であり,今後も継続すべきとの指摘があった。また,広報文化交流イベント参加者へのインタビュー動画のYouTubeへの掲載や,大使自身のtwitterでの情報発信等,種々の工夫を通じ,広報効果を高めるべきとの指摘もあった。他方,ITを活用するには専門の担当官が常時有効な発信を持続できる体制を整備すべきとの提案もなされた。
なお,持続性のある好意感情や深い理解については,パーソナルな接触経験に優位性があるとされており,IT化が進めば進むほど,人的交流や現地施設の意義が高まる面があるとの指摘があった。
現在のWeb Japan(ウェブジャパン)は外務省の運営という事実を明確に出していないが,factsの発信であれば責任の所在を明らかにし,情報の信頼性を高めるためにもっと外務省が前面に出るべきとの意見があった。他方,若者向けのポップカルチャー的な情報提供については政府広報的な色彩が強く出ない方が効果的との意見もあった。また,事情が許すのであれば,組織として情報を管理するのではなく,顔の見える個人名を明記しながらある程度自由で自立的な発信を確保することが望ましいとの指摘がなされた。米国務省の例を引きつつ,功罪両面あるようだが,有力サイトへの積極的な投稿や現場の活動を支援するポータルサイトの設置を検討してはいかがとの意見もあった。
さらに,factsの発信,特に政府が有するさまざまなデータを分かりやすく提示することは有意義であり,各省庁等で眠っているデータをうまくつないで“情報をデザインする”ことが必要との指摘があった。
データや情報の伝達という観点で見ればウェブやインターネットに劣るが,紙媒体は,つねに相手に一定のイメージを喚起できる,行動を促すという効果があり,保存性も高いこと,また,特にビジュアル性の高い良質のものであれば,希少価値を付して“ギフトとしての紙媒体”としても有効であり,引き続き意義があるとの指摘があった。
広報文化外交の成果測定が困難な理由として,1)目標達成までにかかる時間の長さ,2)目標(関係改善,信頼増進等)の捉え所の無さ,3)変化を特定の広報文化活動に帰属させる難しさを挙げる指摘があった。他方,英ブリティッシュ・カウンシルの年次報告書が,予算や来場者数といったインプット,アウトプット指標に加えて,満足度や期待値といったアウトカム指標も用いて,対象地域別のパフォーマンスを数量化していてわかりやすい(調査会社による長期的成果に関するインタビュー,参加者アンケート等により,ブリティシュ・カウンシルとの関係についての満足度,期待に沿っているかどうか等の指標を提示している)との意見があった。
また,JET参加者の対日関心度等に係る調査結果を例示しつつ,長期的な信頼醸成を目的とするプログラムについても指標を工夫することで成果を検証できるのではないか,ただし短期間で拙速に因果関係を求めることのないよう注意が必要との意見もあった。なお,指標の開発を含め,広報文化外交の成果測定には相当程度の時間と資金の投入が必要であるとの認識が示された。
さらに,領土問題や歴史認識,捕鯨などで国際世論の支持を勝ち得ていくプロセスの中で,実施した広報文化活動の成果を問うだけでなく,仮にそうした活動を行わなかったとしたら状況はどうなっていたのか,という観点も検討する価値があるのではないかとの意見があった。
日本文化が国際社会に受け入れられることは日本国民も支持しているのではないか,ただ防災や予防外交と同様に,広報文化外交もその成果が見えにくいため,例えば行事にあわせてインターネットで参加者等のインタビュー動画をYouTubeで流すといった工夫をして国民にその意義を伝えていく努力を行うべきとの指摘があった。
また,アカウンタビリティは重要であり,海外の現場でのベスト・プラクティスやBBC世論調査で日本への信頼が世界一になったことなどを取りまとめて国民に伝えることが必要,他方,それ自体が目的化してはいけないとの指摘があった。
さらに,広報文化活動は争いや戦いではないので,外から日本がどのように見られているかに拘泥しすぎることなく,日本としてアピールしたい理念を整え,国際社会に向けて発信することが重要との意見があった。