核軍縮・不拡散
核軍縮検証
(Nuclear Disarmament Verification)
1 概要
(1)核軍縮検証とは
核弾頭や運搬手段の削減・廃棄等の措置が,条約上の義務や約束にしたがって適切に行われていることを二国間で又は国際的に確認すること。
(2)意義
核軍縮は,一般的に核弾頭や運搬手段を削減・廃棄することを意味するが,核軍縮を行う国が核弾頭や運搬手段を安全保障上の不安を抱えない形で削減・廃棄できるような環境を醸成することも重要である。条約の他の当事国が条約上の義務や約束にしたがって本当に核弾頭や運搬手段を削減・廃棄していること,すなわち,他国が条約上の義務や約束に違反して削減・廃棄すべき核弾頭や運搬手段を秘かに保持していないことを確実に検証することは,そうした環境を醸成する重要な方策である。条約の他の当事国も義務を遵守しているとの確信が得られなければ,自国のみが核軍縮上の義務を履行することとなり,安全保障上甚大な不利益を受けるため,結局,核軍縮は進まないからである。したがって,核軍縮上の義務の遵守状況を検証することは,核軍縮のプロセスを確実なものとするために極めて重要な意義を有している。
このような検証は,例えば,新戦略兵器削減条約(新START)における米国及びロシア両国政府による相互査察等,二国間で既に行われているが,将来における更なる核軍縮の進展のために,核兵器国のみならず非核兵器国も交えた形で多国間の検証体制のあり方について検討を始めることは新たな試みとして大きな意義がある。
近年では,核軍縮のための国際約束に規定される義務を締約国が遵守していることを確保する「検証可能性」は,「不可逆性」の担保(いったんとられた核軍縮措置が後戻りしないように確保すること)及び核戦力の「透明性」の向上とともに,核軍縮プロセスを進める上での3原則として位置づけられている。
(3)課題
近年,核軍備管理・核軍縮関連の条約が核兵器国によっていかに遵守・実施されているかについて,高い関心が示されるようになってきている。核兵器は一般的に国家安全保障における最高機密に属することから,そうした極めて機微な情報に配慮しながら核軍縮措置を検証することは核兵器国間であっても本来技術的に非常に難しい。そのような核軍縮の検証を非核兵器国の関与を得ながら進めていく場合,核兵器国は非核兵器国に対して核兵器の製造や取得につき何ら援助や奨励を行ってはならないとの核兵器不拡散条約(NPT)第1条の義務,また,非核兵器国は核兵器の製造・取得について何ら援助を受け取ってはならないとの同第2条の義務に違反しない形で進めなければならないとのより困難な問題に直面する。
同時に,核兵器国による核軍縮措置の検証については,機微性や機密性の高い情報を保護しながらも,非核兵器国が信頼できるレベルのものでなければならない。現時点では非核兵器国が核兵器国による核軍縮の検証に実際に参加することは具体的に想定されていないものの,将来的には,核軍縮が進み,核弾頭数が低いレベルとなる段階,あるいは,実際に核兵器のない世界が達成される段階においては,核軍縮措置の検証は,現在のような当事国となる核兵器国によるもののみではなく,非核兵器国も交えたより国際的な検証体制が必要となろう。また,将来的に核軍縮が進展すればするほど,1個当たりの核兵器の戦略的価値がますます高まることとなり,核軍縮関連条約に要求される検証のレベルも高まることとなろう。したがって,核軍縮における検証や透明性の重要性は今後高まっていくものと考えられる。
2 国際社会の取組
(1)核軍縮検証のための国際パートナーシップ(IPNDV:International Partnership for Nuclear Disarmament Verification)
ア IPNDVとは
核軍縮検証のための方途・技術について,核兵器国と非核兵器国が議論・検討するイニシアティブ。2014年12月の米国による提唱で始まった。これまで,2015年3月のワシントンDCでの第1回会合以降,2016年6月の東京会合を含め,計7回にわたり全体会合が開催された他,毎年,作業部会会合が開催されている。
イ これまでの会合と今後の予定
(ア)フェーズ1(2015年~2017年)
- 第1回全体会合(2015年3月,ワシントンDC)
- IPNDVの目的や方向性等について議論。
- 第2回全体会合及び作業部会会合(2015年11月,オスロ)
- 以下を含む3つの作業部会の付託条項について合意。
- 第3回全体会合及び作業部会会合(2016年6月,東京)
- 第4回全体会合及び作業部会会合(2016年11月,アブダビ)
- 第5回全体会合及び作業部会会合(2017年11月,ブエノスアイレス)
IPNDVフェーズ1(2015年~2017年)では以下の3つの作業部会で議論を実施。
- 作業部会1:
- IPNDVの目標設定
- 作業部会2:
- 現地査察のあり方
- 作業部会3:
- 検証の技術的課題
(イ)フェーズ2(2018年~2019年)
- 第6回全体会合及び作業部会会合(2018年12月,ロンドン)
- 第7回全体会合及び作業部会会合(2019年12月,オタワ)(予定)
IPNDVフェーズ2(2018年~2019年)では以下の3つの作業部会で議論を実施。
- 作業部会4:
- 核兵器に関する申告についての検証
- 作業部会5:
- 兵器の削減についての検証
- 作業部会6:
- 検証の技術的課題
ウ IPNDV関連会合への参加国等
核兵器国(米国,英国,フランス)
非核兵器国等(豪州,ベルギー,ブラジル,カナダ,チリ,フィンランド,ドイツ,ハンガリー,インドネシア,イタリア,日本,ヨルダン,カザフスタン,メキシコ,オランダ,ナイジェリア,ノルウェー,フィリピン,ポーランド,韓国,スウェーデン,スイス,トルコ,アラブ首長国連邦,バチカン,EU)
(2)核軍縮検証に関する政府専門家会合(GGE: Group of Governmental Experts to consider the role of verification in advancing nuclear disarmament)
ア 背景
第71回(2016年)国連総会で「核軍縮検証」決議が採択され,核軍縮検証に関する政府専門家会合(GGE)の設立が決定された。地理的衡平性に基づいて選ばれる25か国によって構成されている(注)。2018~19年に3回(それぞれ5日間)の会合をジュネーブで開催した。我が国からは中根猛外務省参与が専門家として出席した。
(注)アルジェリア,アルゼンチン,ブラジル,チリ,中国,フィンランド,フランス,ドイツ,ハンガリー,インド,インドネシア,日本,カザフスタン,メキシコ,モロッコ,オランダ,ナイジェリア,ノルウェー,パキスタン,ポーランド,ロシア,南アフリカ共和国,スイス,英国,米国
イ GGE会合の概要
GGEでは,2018年5月,同年11月,2019年4がつと3回にわたって会合が行われ,核軍縮検証についての概念的な検討(原則,あり方等),過去の検証制度の教訓,能力構築支援,等について議論が行われた。これらの会合における議論を踏まえ,第3回会合において(1)国連加盟国及び関連する国際的な軍縮マシーナリーが同報告書を検討すること,(2)同報告書を考慮しつつ,核軍縮を進める上での検証の役割に関する作業を更に検討すること,との勧告を含む報告書が採択され,同年5月に公表された。
なお,我が国は,核軍縮検証の全体像を把握し,将来的な作業につなげていくとの観点から,核軍縮のフェーズ(段階目標)に応じた検証の具体的な技術,開発すべき研究,能力構築などをまとめ,それをチャートとして作成し,議論に貢献した(当該チャート(Main elements to be considered for effective Verification of Nuclear Disarmament)は報告書の附属文書として公表されている)。
(3)その他の取組
過去の類似の取組としては,1990年代後半の米国,ロシア,国際原子力機関(IAEA)のトライラテラル・イニシアティブがある。これは,戦略核兵器削減条約(START)の履行などの核兵器削減の結果,余剰となった核分裂性物質(高濃縮ウランとプルトニウム)がその後核兵器用に再び用いられないことを確認するための検証技術を探求することを目的として実施された。
英国も,2000年以来,核弾頭解体の検証について英国防省を中心に独自研究及び米国との共同研究を行い,2005年NPT運用検討プロセスで研究成果を随時発表してきた。また,英国は,2007年には,核兵器国と非核兵器国が協力して,核軍縮においてより効果的かつ相互に信頼できる検証措置の実現を目指すという趣旨の下,ノルウェーとの共同研究プロジェクトを開始した。英国及びノルウェーは,同プロジェクトについて,2010年NPT運用検討会議において紹介した。また,2011年には,日本を含む諸外国の政策実務者及び専門家を,2012年にはNPT上の核兵器国の専門家を対象として,同共同研究プロジェクトから得た経験を共有し議論した。更に,2015年,英国,米国,ノルウェー及びスウェーデンは,英国及びノルウェーのイニシアティブ等を基に「Quad」イニシアティブを設立し,2017年10月の核軍縮検証の実働演習をはじめとする取組を進めている。