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第2節 より質の高いODAの実施

 以上のように、ODAに関する戦略、政策及び実施に関する検討が行われ、新たな体制が構築されている一方で、援助の質を高めるため不断の点検と改善が行われています。
 2005年12月、ここ数年の改革に向けた取組、すなわち2003年のODA大綱の改定、2005年のODA中期政策の策定に代表される様々な努力について、外部有識者とともに総点検し、外務省において、「ODAの点検と改善~より質の高いODAを目指して」と題する報告書を取りまとめました。同報告書では、日本のODAを改善するために、(1)戦略性の強化(選択と集中)、(2)効率性の向上(コスト縮減)、(3)チェック機能の強化という3つの段階を取り上げました。また、評価の結果をODAの企画や実施に活用するため、企画(Plan)、実施(Do)、チェック(Check)、反映(Act)というサイクル(PDCAサイクル)が一つの輪となって次のサイクルに繋がる循環が着実に機能するような仕組みを確立するよう、それぞれ改善すべき事項を提示しています。

 この報告書が発表された後で、第1節に述べた実施体制の抜本的改編が決まったことから、同報告書で目指したこと以上に改革を推し進める努力が現在進行中です。ODAの点検と改善は、今後定期的に行っていく必要がありますが、以下では、2005年度末までのODA改革に向けた具体的な動きについて、上記の3つの側面から説明します。

囲み I-3 ODAの点検と改善による10の新たな改善措置について

●戦略性の強化
 ODAを、外交政策の重要な手段として、戦略的に用いるため、重点地域や重点分野を明確化し、メリハリのある援助を行うことが求められています。

(1)現地機能の強化
 日本のODAの戦略性の強化のためには、ODA大綱、ODA中期政策、分野別イニシアティブ等で定められた方針を実際の援助に反映させるために、現地の意見を踏まえ、実施や企画の機能を強化し、政府全体として一体性と一貫性をもって援助を実施することが必要です。

 日本政府はこれまでのODA改革において、国別援助計画の充実を進めてきました。国別援助計画とは、被援助国の政治・経済・社会情勢を踏まえ、被援助国の開発ニーズや開発計画を勘案した上で、向こう4~5年間程度の中期的な援助の重点分野を明確化するものです。
 2003年に改定されたODA大綱では、「現地機能の強化」が打ち出されるとともに、同年、在外公館及び実施機関現地事務所等で構成される現地ODAタスクフォースが立ち上げられました。現在までに72か国のタスクフォースが活動を行っています。具体的に、現地ODAタスクフォースは、対象となる国・地域の開発ニーズ等の調査と分析を行い、開発上の優先課題や求められる日本の貢献等を総合的かつ的確に把握し、援助対象候補案件の形成・選定等や国別援助計画の策定、さらには重点課題別・分野別援助方針の策定等を行っています。

(2)戦略目標の実現に向けて
 ODAの戦略性を強化し、上記のような国別のアプローチを進めていく上でも、地域別、課題別に一連の目標を設定し、ODAを重点的に配分していくことが求められます。現在、このような基本的な考えに基づき、開発課題と重要な外交政策上の優先順位とを合致させた援助を実施する観点から具体的な検討が進められています。
 また、MDGs達成への貢献など、グローバルな課題への日本のリーダーシップを示すことは、一見すると日本への直接的な利益が見えにくい分野ではありますが、長期的に国際社会における日本への信頼と評価につながる重要な意義があります。

図表I―19 ODAの戦略性

図表I―19 ODAの戦略性


●効率性の向上
 MDGsの達成や防災・災害復興支援、テロ・海賊対策等、多様化する開発需要に応えていくためには、ODA全体を効率的に実施し、最大限の効果を引き出す努力が重要となっています。そのための具体的な方策としては、[1]各援助手法間での連携、[2]援助実施にあたっての他のドナーやNGOとの協力、[3]コスト削減努力等が挙げられます。

(1)各援助手法間の連携強化
 有償資金協力、無償資金協力、技術協力という経済協力の各手法の連携を進めています。具体的には、例えば、学校校舎の建設や機材の充実を円借款や無償資金協力により支援しつつ、教員養成や学校運営の改善等のために専門家を派遣する等の技術協力を行うといった事例が増えています。また、例えばイラクについては、紛争直後の段階ではまず無償資金協力を活用して国の復興を支援し、国内情勢が安定し、平和な国づくりが本格的に進んでいくにつれて、資金規模の大きなプロジェクトを円借款により実施するという形で援助手法間の円滑な支援を実施していくこととしています。

図表I―20 JICA-JBICの連携事例(2005年度)

図表I―20 JICA-JBICの連携事例(2005年度)


(2)他ドナー、NGOとの連携強化
 援助実施に際しては、政府と実施機関であるJICAJBICとの連携のみならず、関連分野で活動するNGOや他のドナー国・国際機関等との連携を強化することが重要です。
 NGOによる国際協力活動は、開発途上国の住民の多様なニーズに応じたきめの細かい効果的な援助や迅速かつ柔軟な緊急人道支援活動の実施の面などで極めて重要な役割を果たしています。政府はNGOとの連携強化に努めており、例えば、緊急人道支援の際のジャパン・プラットフォーム(第II部第2章第5節1.(6)(ハ)を参照してください)との連携を実施しています。また、政府とNGOとの定期的な協議の場を設けて緊密な意見交換を実施するとともに、現場レベルでも2002年度から大使館や現地のJICA、JBIC事務所とNGOとの協議会(ODA大使館)を開催し、NGOと政府との対話を進めてきています。
 他のドナー国や国際機関は、日本にはない専門知識や能力、影響力を持つ場合があり、他ドナー等と日本が連携することにより、お互いの援助の補完性や効果を高めることが期待できます。例えば、日本は米との間では、従来から保健分野や水分野での協調を進めており、2005年9月には、両外相がMDGsの実現に向けて協力することとし、「日米戦略的開発協調」を立ち上げることで合意しました。

囲み I-4 二国間援助および国際機関を通じた援助の連携事例

 最近の新たな動きとしては、これまで援助を受ける側であった開発途上国の一部(中国、インド、タイなど)が、自ら様々な援助活動を行っている点が挙げられます。開発援助を議論する国際的な場であるOECD-DACにおいては、開発途上国の貧困を削減し、MDGsを達成していくためには、援助効果向上の観点から、非DAC諸国の援助も視野に入れるべきであるとの問題意識が高まっています。いわゆる新興ドナー(中国・インド等を含む)の援助がDACの開発援助にもインパクトを与えうる規模になっている一方で、現時点ではこれら新興ドナーの全体像がつかみにくいのが実情です。日本は、DAC等の国際的な場において、新興ドナーによる援助の透明性を向上させ、その全体像を把握することの必要性、また、国際的な援助のルールと整合的な形で実施することの重要性を指摘してきました。
 また、1990年代後半から、複数の援助国・国際機関が開発途上国政府と開発戦略を共有し、ドナー同士が援助手法を調和させて協力に当たる「援助協調」の流れが活発化しています。日本としても、こうしたドナー間の枠組みに積極的に参加し、援助効果の向上に努めています。
 「顔の見える援助」のためには、日の丸(国旗)やODAシンボルマークの貼付及びODA広報に加え、近年では多くの開発途上国の現場で進んでいる各ドナー国、国際機関との間で進んでいる援助協調において、日本の専門的知識を有するスタッフが、日本の考えを明確に発信していく「声の聞こえる援助」が重要となっています。

囲み I-5 日本の顔の見える援助:日の丸及びODAシンボルマーク

(3)コスト削減に向けた努力
 コスト削減を通じた事業効率化の取組は重要であり、適切な目標の設定と工程表の策定を行いつつ、継続して精力的に進めることとしています。例えば、技術協力に関しては、長期専門家の派遣期間の精査と適正化や、機材やコンサルタントの調達経費の削減等が進められ、現中期目標におけるほとんど全ての項目で、目標を上回って達成しています。無償資金協力については、2006年度から、貧困、飢餓、疾病等、人命や安全な生活への脅威に直面するコミュニティの総合的な能力開発を支援するため、学校や道路、給水、医療などからなる支援を一つのプログラムとして、一体的に支援を実施する「コミュニティ開発支援無償」を創設しました。同事業形態は、現地の業者や資機材を積極的に活用し、現地仕様・設計による施工を行うほか、入札参加者の拡大、契約の複数化による競争性を向上させて大幅なコスト削減と効率化、機動的かつ迅速な支援を目指しています。この事業形態を活用し、地域・分野別の類型に応じ、コスト削減の数値目標を設定して実施することとしています。

●チェック機能の強化
 ODAの適正な実施を図り、国民への説明責任を果たす上で、ODAの各プロセスでのチェック体制を整えることが極めて重要です。そうした認識から、日本政府は、透明性の向上や、評価やモニタリングの充実、不正への取組強化等に努力しています。

(1)透明性の向上
 ODA大綱に掲げたように、ODAの政策策定・実施評価に関する情報を幅広く迅速に公開し、十分な透明性を確保するとともに積極的に広報することを通じ、ODAに対する国民の理解と支持を得ていくことが益々重要となっています。
 そのため、政府は、ホームページを活用した情報発信や、TV広報、ODA新聞やODAに関するメールマガジンの発行、タウンミーティングの開催、さらには2005年度より「ODA出前講座」(注)を実施してきました。また、民間の方に直接ODAの現場に赴き、実際の援助の現場を視察して頂く民間モニターの派遣も行っています2005年度には、計90名の方が参加され、2000年から2005年までに計555名の方々がモニターとして25か国に派遣されました(メールマガジン、タウンミーティング等については第II部第2章第5節2.(4)を参照してください)。

(2)評価の活用
 ODAを効果的・効率的に実施するためには、その実施状況や効果を的確に把握し、必要に応じて改善することが重要です。そうした観点から、外務省を含むODA関係各府省、及び実施機関であるJICA、JBICは連携しながらモニタリングや評価を実施しています。近年はプロジェクトだけでなく、セクターや援助手法、国別や重点課題別の援助を対象とした評価も実施し、公平性を確保するため、有識者等の第三者による評価を広範に行うとともに、被援助国や他の援助国等との合同評価も行われるようになりました。無償資金協力の事後評価について不十分との指摘がありましたが、2005年度より外務省による評価がはじまり、2006年度よりは第三者の視点も入れるように拡充されました。今後とも、本節冒頭に述べたPDCAサイクルの機能を充実させるよう、引き続き努力していきます。

(3)不正防止への取組強化
 日本のODAは国民の税金等を原資とし、被援助国の経済社会開発や福祉の向上を目指すものであることから、援助によって供与された資金が不正に使用されることは避けなければなりません。そのため、政府及び実施機関は不正と腐敗の防止のため、調達等の手続きについて、各援助形態毎の入札関連の情報開示の拡充等、案件選定・実施プロセスの透明化を確保しています。また、不正が起こってしまった場合、関係事業者等に対する対応を厳格化し、再発防止に努めています(詳細は第II部第2章第5節3.(3)を参照してください)。

 このように日本のODAは、ODAに対する国内における関心の高まりや、様々な地域・分野別の課題に取り組む過程で、その体制を拡充・強化させてきました。こうした努力は、感染症や環境問題といった地球規模の課題の解決にも貢献するために、日本が有している様々な技術的な知見や人的資源を有効活用することにつながっています。また、日本が様々な重要な外交課題に対処する際に、自国を取り巻く国際環境をより好ましいものにする上で、ODAを一層活用することが重要な政策手段であることに対する認識が強まっています。
 政府としては、こうした一連の改革が、日本のODAに関する政策企画立案能力を一層増進させるとともに、効果的な援助の実施を可能とし、国民の一層の理解と支持が得られるように引き続き最善を尽くしていく考えです。こうした不断の努力こそが、日本のODAがその外交政策の優先課題と合致し、個々の援助プロジェクトが開発途上国の多様なニーズに的確に応じ、相互の利益に適う、質の高いものとなる上でも重要であると考えています。

column I-4 モハマド・ユヌス氏及びグラミン銀行のノーベル平和賞受賞


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