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第1節 一層戦略的・機動的なODAの実施
ODAの政策企画立案及び実施方法についてはこれまでも各種の改善努力が行われてきましたが、最近の動きとして外交目標への合致と様々な手段の連携強化と情報集約といった点を重視し、ODAの政策企画立案体制から実施部門のあり方まで総合的な検討と見直しが行われたことが特筆されます。
2005年12月から開催された内閣官房長官主催の「海外経済協力に関する検討会」の動き等も踏まえ、外務省は次の3つの点に留意しながら見直し作業を行いました。第一に、ODA政策の企画立案能力を高めるため、組織の統廃合も含めて原点に立ち返って検討し、効率的な実施体制を整備すること。第二に、日本が有する有償資金協力、無償資金協力、技術協力といった多様な援助手法をより関連づけて実施すること、さらに国際機関や民間資金との連携をより強化すること。そして第三に、日本がこれまで主唱してきた人間の安全保障といった視点を様々な地球規模の課題に積極的に取り込み、実践に移しやすくすること。
現在、実施に移されている日本のODA政策の見直しに関する最近の主な動きは以下の通りです。
2006年2月に「海外経済協力に関する検討会」が取りまとめた報告書は、日本の国益を踏まえた戦略的な海外経済協力を効果的に実施するとの観点から、政府内体制及び実施機関について提言を行っています。まず、ODAを中心とした海外経済協力が日本の「開かれた国益」(注)に資するものであり、自由と民主主義、法の支配を基本理念として、平和で繁栄した国家からなる国際社会を構築するとの目的のためにあることを明確にするべきであると指摘しています。その上で従来の体制が十分機能を発揮しておらず、戦略的な判断を行い、責任を負う体制が不明確であった旨指摘し、海外経済協力の戦略的実施のために「海外経済協力会議」の設置を提言しました。また、援助実施機関についても、有償資金協力、技術協力及び無償資金協力の連携に改善の余地があるとして、JICAとJBICの円借款部門を統合し、JICAがこの3つの援助手法を一元的に実施することを求めました。
この報告書の提言を踏まえ、2006年4月、政府は、日本の海外経済協力に関する重要事項を機動的かつ実質的に審議するための仕組みとして総理大臣及び少数の閣僚メンバーから構成される「海外経済協力会議」を設置しました。5月に第1回会合が開催され、9月現在までに3回の会合が開催されています。この「海外経済協力会議」が審議した海外経済協力の基本戦略の下、関係省庁との連携を深めつつ、引き続き外務省が政府全体を通ずるODAの具体的な企画立案・調整の中核を担っています(海外経済協力会議については第II部第2章第5節1.(1)も参照してください)。
2006年8月外務省において、国際協力局が新設されました。同局においては、外交政策に合致した援助を実施するため、地域別・分野別の優先課題を特定し、有償資金協力、無償資金協力及び技術協力といった様々な二国間援助の手法をより効果的に活用するとともに、二国間援助及び国際機関を経由した援助を、より連携させた形で実施するための政策の企画立案・調整を担っています。まさに、そうした改革を遂行していく中で、環境問題やアフリカの開発といった国際社会の共通の課題、イラクやアフガニスタンに対する復興支援や国づくりの支援、さらには新たな国際経済環境の下でのODAの使命として求められている資源やエネルギーの確保、並びに貿易投資環境の整備といった課題に的確に対応していくことが重要です。海外経済協力会議の下、外務省においては国際協力局を中心として、関係省庁、実施機関とも緊密に連携しつつ、より戦略的・効果的なODA政策の企画立案を行っていきます。
二国間及び国際機関を経由した援助の両者は相互補完的、相乗的な効果も有することから、効率的な援助を実施する上で両者の連携はきわめて有意義です。こうした連携は、貧困、平和の構築、環境問題、感染症、男女の格差や災害といった国際社会の共通の課題につき、国際社会全体として迅速に対応する場合に特に効果を発揮します。今回の機構改革においては、こうした点がこれまで以上に十分に考慮されることが期待されています。
実施機関については、有償資金協力、技術協力及び無償資金協力の連携をさらに強化するため、今後は基本的にJICAがそれぞれの援助手法を一体的に担うとの方針で取り組んでいくこととなりました。2008年10月の統合を目指し、現在、準備作業が進められています(JICAとJBICの円借款部門の統合については第II部第2章第5節1.(3)も参照してください)。

外務省新機構発足式の様子