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第3章 戦略的・機動的・効果的なODAに向けて

2005年10月に発生したパキスタン等大地震での国際緊急援助隊による救助活動(写真提供:JICA)
Point
●日本のODA予算は1997年から35%減少。一方、米国同時多発テロ以降、欧米諸国は対外援助額を増額。
●ミレニアム開発目標をはじめとする国際社会の共同課題に寄与するとともに、民主化、ガバナンス支援、貿易・投資の促進、資源・エネルギーの確保等にODAを戦略的に活用する必要性が高まっている。
●海外経済協力会議及び国際協力局の設置、JICAの再編等により、戦略的なODAを実施する体制を整備。「ODAの点検と改善」をとりまとめ、ODAの質の向上に取り組んでいる。
これまで見てきたように、日本のODAは半世紀以上にわたり、開発途上国の経済社会の発展への貢献を通じ、国際社会全体の平和と安定に寄与すると同時に、日本自身の安全と繁栄の確保にも貢献してきました。しかし、厳しい歳出状況から財政削減が喫緊の課題とされる中、日本政府のODA予算はピークである1997年から大幅に減少しています。2006年度一般会計予算におけるODA額は7,597億円(前年度比3.4%減)となっており、過去9年間でODA予算は35%も削減され、1980年代の水準にまで落ちています。一方、ODA予算から支出される国際機関への拠出についても過去9年間で約30%減少しており(一般会計予算ベース)、今後国際機関との連携の強化や、国際場裏における日本の発言力の強化のためには、より一層戦略的な議論が必要となります。
このような状況がある一方で、2001年9月11日の米国での同時多発テロ以降、米国をはじめとする欧米諸国は、これまで以上に開発途上国における貧困削減と国際社会全体の平和と安定の確保のために援助を活用する必要があるとして、対外援助額を増額させています。また、日本も2005年7月のG8グレンイーグルズ・サミットの場において、今後5年間のODA事業量について100億ドルの積み増しを目指すことを表明しています。こうした流れをうけて、日本としては、どのようにしてミレニアム開発目標(MDGs)をはじめとする開発の諸課題や感染症、紛争、麻薬問題などの地球規模の課題に取り組んでいくかが問われています。さらに、開発途上国の民主化、良い統治(ガバナンス)の促進を通じた各国・地域の安定や、貿易・投資環境の整備、資源・エネルギーの確保といった、日本が国際社会において繁栄していく上で好ましい環境を形成していき、日本の中長期的な利益に合致する形でODAを戦略的かつ有効に活用していくことが、これまで以上に重要になっています。こうした観点から、2006年に入り、日本はODAの企画、立案、実施の体制について改革を進めています。内閣においては戦略的な海外経済協力の司令塔として海外経済協力会議が設置されました。また、外務省においては、援助政策や国際協力に関する企画立案・調整能力を強化するため、従来の二国間援助の実施部門である経済協力局と国際機関との協力を担当する国際社会協力部の一部を統合し、2006年8月に国際協力局が新たに設置されました。
以下では、これまでの援助から生じてきた様々な課題を日本がどのようにして対処してきたかを踏まえつつ、ODAの実施体制をより強化・改善していく、最近の動向について紹介します。