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(2)援助効果の向上
既に説明したように(II部2章2節4~参照)、構造調整プログラムに対する反省の上に立ち、途上国がオーナーシップを持って貧困削減を実現するための戦略を立案すべきとの認識から始まった取組がPRSPであり、国際社会ではPRSPの実施において、被援助国政府の能力を勘案しつつ、個別課題ではなく、PRSP全体を包括的に支援することが必要との認識が高まってきています。PRSPを被援助国と援助国・国際機関が共有する開発戦略と捉え、関係者が被援助国のシステムを尊重しつつ、協調して効果的な実施に取り組むことの必要性については、既に幅広く合意が得られていますが、その具体的な協調のあり方については、現在も活発な議論が行われています。
以下では、特に、援助手法の問題と手続きの調和化、そして、日本の取組について、説明します。
(イ)援助手法(モダリティ)について
歳入が非常に限られ、行財政管理能力が限られた低所得国において、PRSPやセクター・プログラムといった、援助国・国際機関などの援助主体を含む援助関係機関が共有する開発戦略を被援助国政府がオーナーシップを持って実施していけるようにするとの目的から、援助国・国際機関が援助資金を、被援助国の財政に直接投入する財政支援や、特定基金に資金をプールするコモンファンドなどの援助アプローチが出て来ました。
また、PRSPを各セクターレベルにおいて適切に実施していくためには、被援助国の公共財政管理、計画立案等の能力を高めつつ、被援助国のシステムに沿って援助を行うことが重要であり、このためには、被援助国が開発援助の見通しを高めること(援助資金の予測性向上)や、被援助国政府が各援助国・国際機関からの支援の内容を把握した上で、それらを全体的な開発計画の中に適切に位置付けられるように、援助国・国際機関の支援を途上国政府予算に計上すること(オン・バジェット)等が重要であるとの主張が見られます。
英国、オランダ、北欧諸国などは、こうした考えであり、援助アプローチは財政支援の方向に向かうべきとの考えを強く主張しています。そして、これらの援助アプローチは、徐々に多くの援助国・国際機関により実施される傾向にあります。
一方、日本、米国、フランス、ドイツ、カナダ等は、低所得国における財政支援や被援助国の公共財政管理能力向上の必要性、さらには開発計画の包括的な支援の必要性には、基本的には、賛同していますが、援助手法は画一的なものとせず、それぞれの途上国の状況に応じて多様な援助形態を適切に組み合わせていくことが重要という考え方に立っています。これは、被援助国の抱える優先課題、公共財政管理能力のレベル、各途上国をとりまく状況はそれぞれ多様であり、財政支援やコモンファンドなどの新規援助手法が有効な場合、従来のプロジェクト方式が有効な場合それぞれあるとの考えによるものです。援助資金を途上国予算に計上することについては、日本も公的財務管理の適正化の観点から重要であると考えています。
コラムII-5 タンザニア 農業セクター開発プログラムの策定に対する支援
実際の例を考えると、米国、フランス、ドイツ、カナダ等においても、資金を直接、被援助国政府の歳入として供与する財政支援を、援助の一部として実施していますし、英国、オランダ、北欧諸国においても、未だ財政支援はその援助の一部を占めるに過ぎません。また、日本は、従来より、財政支援的な効果を有するノン・プロジェクト無償資金協力等を用いたプログラム援助を行ってきています。
このように新しい援助手法についてはいまだ国際社会としての考え方は集約されておらず、現在種々調査が行われ、その有効性に関して、議論されている状況ですが、援助国・国際機関を含む関係者が被援助国政府のオーナーシップを尊重しつつ、共通の開発計画の効果的な実施に向けて、共同歩調を取っていくことが重要であるという認識は共有されてきています。日本としては、より効果的・効率的な支援のあり方はどのようなものであるかという観点から、こうした援助手法の議論にも積極的に参加し、貢献していきたいと考えています。
(ロ)手続きの調和化について
各援助国、機関がそれぞれ異なる手続き、方式で援助を実施してきた結果、被援助国側(特に後発開発途上国)に対して過度の手続き上の負担を課してきたとの反省が高まっています。
2001年より、OECD-DACにおける主要二国間援助国のグループ、及び世界銀行をはじめとする国際開発金融機関(MDBs:Multilateral Development Banks)のグループにおいて、それぞれ手続き調和化の検討が進められました。2003年2月には、これらの検討の集大成として、「調和化ハイレベル・フォーラム(注)」がイタリアのローマで開催され、今後の調和化の具体的な取組の方向性を記したローマ調和化宣言を採択しました。世界銀行をはじめとする主要MDBs、OECD-DAC、UNDP等の開発関係国際機関の長や、主要途上国の元首・閣僚等、多数のハイレベルの参加者が一堂に会したこの会議は、開発効果向上の方策の一環として、調和化を着実に推進することが重要であるという認識が広く共有されたという点において、重要な意義を持っています。
ローマ調和化宣言では、被援助国自身が策定する開発計画の優先度に基づいて援助を実施する重要性が強調され、各国毎に策定されるこれらの開発計画を中心に据えつつ、各援助が調査団の削減、各種報告書などの作成書類の簡素化等を進めていくこととなりました。また、2005年までにこれらの取組をモニターしていくことが合意されました。
(ハ)日本の具体的取組
(a)セクター戦略レベル・国家開発戦略レベルでの協調
日本は、既に説明した様に(II部2章1節2-(2)参照)、被援助国政府のオーナーシップを尊重しつつ、共通の開発計画の効果的な実施に向けた国際社会の協調を重視しながらも、途上国の状況に応じて多様な援助形態を適切に組み合わせていくことが重要との考え方です。そのうえで、新規援助手法が将来有力な援助形態となり得ることに着目し、国際社会との協調に前向きな姿勢で臨むことを通じて、こうした援助手法の長所・短所を見極めていくこととしています。
例えば、タンザニアにおいては、PRSPの重点セクターの1つである、農業セクターの開発プログラムの策定を、政府のオーナーシップを確保しつつ、日本がリード国となって進めています(コラムII-5参照)。また、ベトナムにおいては、PRSPの経済成長戦略の拡充を、日本が援助国・国際機関側の中心となって進めています(コラムII-6参照)。これら2国での日本の取組については、2003年12月のDAC対日援助審査会合においても、高い評価を受けています。
新規援助手法の考え方は、当初は、開発援助の効果が他地域と比較して上がりにくいアフリカでの援助の反省と経験を踏まえて出てきたものです。したがって、こうしたアプローチに関する研究や体制の整備において、アジアを援助の重点とする日本に較べると、アフリカを援助の重点地域とする欧州の援助国や国際機関が先んじている傾向にあります。そうした観点からも、このような援助実施における新たな試みは、日本の援助をより効果的・効率的なものにするためにも有意義なものであると考えています。
(b)手続きの調和化について
日本は、調和化ハイレベル・フォーラムへの準備を含め、調和化の議論に積極的に参加・貢献してきました。調和化の取組を進めるにあたっては、援助国主導ではなく、途上国自身が実際に負担に感じている事項を具体的に明らかにすることが不可欠との考えから、OECD-DACにおいて調和化のニーズ調査の実施を提案し、調査のための資金提供を行いました。また、同フォーラムに先立ち、アジア地域における準備ワークショップをアジア開発銀行、世界銀行と共催で開催し、ワークショップを通じて、調和化を進める上での原則として日本の重視する「オーナーシップの尊重」、「国毎の実情に応じたアプローチ」、「多様な援助モダリティの尊重」等が共有されました。ローマ調和化宣言には、こうした日本の考え方が反映されています。
コラムII-6 ベトナムにおける援助協調への取組
囲みII-5 後発開発途上国(LDC)向けODAのアンタイド化勧告
また、ローマ会合を受けてOECD-DACに新たに設立された援助効果と援助慣行作業部会においては、日本は副議長に就任し、さらにローマ会合のフォローアップとして、10月にベトナムにおいてアジア地域のワークショップを開催するなど、積極的に議論に参加しています。
さらに、JBICは、アジアなどの各国において、世界銀行、ADBとの間で手続きの調和化を積極的に進めています。具体的には、調達面では調達ガイドライン及び入札書類の作成等、財政管理面では財務報告書及びプログレス・レポートの共通化等、環境面では環境影響評価の基準や文書、手続き面での共通化等を実施しています。ベトナムでは、これら3銀行に加えて、フランスのAfD(Agence Française de Développement:フランス開発庁)、ドイツのKfW(Kreditanstalt für Wiederaufbau:ドイツ復興銀行)を加えた5銀行の取組に発展しています。また、フィリピン、バングラデシュ、インドネシア、ジャマイカでもこうした取組を行っています。
コラムII-7 開発コミットメント指標とそれに関する日本の反論