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(2)経済成長を通じた貧困削減

 上述の通り日本は、貧困削減をはじめとする、MDGsなど国際的に共有された開発目標の達成に向け努力しています。そして、こうした国際的な開発目標の達成に向け、持続可能な貧困削減を実施するためには、経済成長を通じた貧困削減を図っていくことが重要であると考えています。具体的には、教育や保健医療といった貧困層が直接裨益する分野に加え、経済インフラ整備といった経済セクターに対する援助を通じた貿易・投資の活性化、法制度整備、人材育成、民間セクターの育成及び技術移転の促進などにより、その国の経済成長を積極的に支援する必要があると考えています。こうした考え方の背景には、開発資金は重要であり、そうした資金の確保には開発援助のみならず民間投資を含む様々な資金の活用が必要とされ、そうした限られた資金が効率的・効果的に使用されるためには、途上国のガバナンスの改善、援助吸収能力の向上が必要であることが挙げられます。その際、途上国の状況は国毎に大きく異なるため、特定の国や地域に適用されているアプローチを画一的に他の国や地域に適用することは必ずしも適当ではなく、国、地域ごとの事情に対応する多様な手段による取組が必要だと考えています。
 日本は、こうした考え方を国際社会の開発に関する議論において主張するとともに、途上国にも十分に理解してもらい、途上国の開発政策や日本に対する経済協力の正式要請等に反映されるよう、政策協議等の場を通じて働きかけています。

東アジア開発イニシアティブ(IDEA)福岡シンポジウムにおけるパネルディスカッション
東アジア開発イニシアティブ(IDEA)福岡シンポジウムにおけるパネルディスカッション

 こうした、経済成長が貧困削減のために不可欠であるとの日本の考え方については、国際的に認識されてきており、例えばベトナムやモンゴルにおけるPRSP策定、世界銀行やOECD-DACなどの議論に反映されています(詳細はII部2章2節1~参照)。
 こうした開発に関する日本の考え方の背景には、世界銀行等の融資を通じて、オーナーシップに基づく良好なマクロ経済運営、インフラ整備などを通じて、経済成長を実現し、戦後復興を成し遂げた日本の経験、そして、その後援助国として東アジアを中心に援助を行い、実績を挙げた経験があります。
 こうした東アジアの開発経験を踏まえながら、開発の現状を再検討するとともに、更なる東アジア地域の繁栄と発展のために今後の開発の在り方について考えていくことを目的として、2002年1月、小泉総理は東アジア開発イニシアティブ(IDEA)を提唱しました。同年8月には、ASEAN+3の外務大臣及び開発担当大臣が参加した第1回閣僚会合(IDEAI)(注1)が東京で開催され、開発のオーナーシップの重要性が強調されました。そして、経済のファンダメンタルズ(マクロ経済、為替及び金融政策)にきちんと取り組むことの重要性が認識され、開発経験を振り返る中で人材育成が発展の鍵となってきたこと、貿易と投資の連携が東アジアの経済発展の特色であること、開発という目標に向けての経済改革がエンジンとなり、その過程でODAとともに貿易と金融を総合的に活用していくことの意義などが改めて確認されました。そのフォローアップとして、日本は、WSSDの機会にIDEAの内容を紹介するサイド・イベントを開催したほか、2003年8月には、東アジアの開発経験を学術的な観点から掘り下げることを目指して、IDEA福岡シンポジウム(注2)を開催しました。ASEAN+3、アフリカ(ガーナ)などの有識者(一部政府関係者)が参加したこのシンポジウムでは、東アジア開発モデルの多様性、国内経済・社会改革や東アジア地域協力の拡充の重要性、アジアの経験のアフリカでの活用といった課題について個人の資格で議論がなされ、民間投資の誘致及び開発における政府の役割やインフラ・制度・人材育成の重要性が改めて指摘されました。こうした議論の内容は、9月末に開催されたTICADIIIの場でも紹介されています。


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