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本編 > 第II部 > 第2章 > 第1節 > 2.日本の基本的考え方 > (1)重要な開発課題の範囲


2.日本の基本的考え方

 以上のような様々な論点について、日本も国際社会で自らの主張を行っています。ここでは、開発課題に関する日本の基本的考え方として、開発課題の範囲、そして、経済成長を通じた貧困削減についての日本の考え方を説明します。

(1)重要な開発課題の範囲

 第I部でも述べたとおり、国際社会は現在、様々な開発課題に直面しています。この様な中で、そうした開発課題に対する取組を強化するため、開発目標や開発戦略の国際的な共有が進んでおり、特にMDGs達成に向け、国際社会では様々な議論、努力が行われています。
 日本としては、MDGsは、人類の将来の繁栄に向けての基礎的条件を整えるための重要な国際開発目標であり、その達成のため、被援助国、援助国、国際機関が一致団結して取り組むことが急務であると考えています。そのため、新ODA大綱においても、様々な主体が協調して援助を行う中で「我が国もこのような動きに参加して主導的な役割を果たすよう努める」とするとともに、貧困削減を重点課題の筆頭に掲げています。このように、日本は、貧困削減をはじめとするMDGsの達成に向けた取組を重視しており、MDGsを援助政策に組み入れるべく、既に様々な取組を行っています。そうした取組には、[1]MDGsの基礎をなす重要な要素とも言い得る、教育、保健、水、農業といった「基礎生活分野」における支援(II部1章3-(1)〜参照)、[2]あらゆる開発資金の確保(II部2章2節3〜参照)、[3]途上国のオーナーシップとそれを支える国際社会のパートナーシップ(II部2章2節4〜参照)、[4]インフラ開発等の経済成長に資する支援(II部2章2節1〜参照)などがあります。また、JICA(国際協力機構:Japan International Cooperation Agency)は案件選定の際にMDGs関連の指標を取り入れています。
 一方、開発課題は非常に幅広く、貧困削減のみならず、環境問題、紛争予防、平和構築、地雷、難民問題、薬物犯罪、感染症など様々なものがあります。また、最近のアフガニスタン、スリランカ、イラクなどにおける経験から、従来、開発課題とは必ずしも捉えられていなかったものの中にも、開発のニーズは認められてきていることがわかります。
 そのため、日本は「開発課題」をより広く捉える必要があると考えています。貧困削減をはじめとするMDGsは国連ミレニアム宣言の7つの優先課題の1つであり、同宣言の優先課題には、MDGsの他、平和、安全保障といったものも含まれています。様々な脅威に対応し、途上国の開発ニーズに応えるためには、MDGsに掲げられた目標のみならず、広範にわたる課題の解決に向けた努力をする必要があります。こうした考えは、2003年5月に発表された人間の安全保障委員会最終報告書(囲みI−2参照)においても指摘されています。そのような観点から、日本は、上記の通り、MDGsの達成に向けた努力を重視し、そうした努力を継続する一方で、MDGsに直接含まれない分野への国際協力も重要な課題であると認識しています。
 そのようなMDGsに直接含まれない課題として、まず、開発の前提になる治安・安全の確保が挙げられます。こうした課題に対する取組として、平和構築やテロ対策が重要です。紛争やテロは、平和と安定の中で人々が生きていく世界の構築を阻害し、また、長年の開発努力に対して壊滅的な打撃を与えます。特に、紛争後(ポスト・コンフリクト)の状態にある国々に対しては、緊急人道支援、復興支援、開発援助を継ぎ目なく実施することが必要です。
 また、「人間の安全保障」は、人間の生存、生活、尊厳に対する多様な脅威から人々を保護することを目的とする概念であり、政府が安全を確保できない脆弱な国家において、人々が自らの力で生きていけるよう、人々や社会の能力強化を図っていこうとする考え方ですが、こうした考え方もMDGsには含まれていないものです。
 日本としては、新しいODA大綱の基本方針において「人間の安全保障」を、また、重点課題において「平和構築」を掲げています。国際社会の安全と繁栄のためには、安全保障と開発をともに前進させることが重要ですが、「人間の安全保障」という概念は、安全保障と開発の双方をつなぐ基礎たり得るものであり、ODAを活用して積極的にこのような課題を推進する必要があると考えています。そして、日本は、このような取組がMDGs達成の観点からも重要であると認識しています。それは、MDGsの「2015年までに1日1ドル未満で生活する人口比率を半減させる」などといった各目標は、安定した国内・国際環境なくしては達成され得ないのみならず、それらへの取組自体が困難になるからです。
 さらに、中等・高等教育を含む人づくり、IT(Information and Communication Technology)を含む経済社会インフラ、水以外の環境問題等も途上国の重要な開発課題であるとともに、間接的、時には直接的にMDGs達成に資すると考え、それらに対する支援も行っています。


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