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3.開発資金の確保~海外直接投資、貿易と開発との連携
第I部でも説明した通り(I部1章2節2参照)、2002年に開発を主要議題とする一連の国際会議が開催されたことを受け、同年に欧米主要援助国は開発援助増大を相次いで発表しました(図表II-5参照)。
この関連で米国では、2004年1月、ミレニアム挑戦会計(MCA:Millennium Challenge Account)初年度である2004年度分の予算10億ドルとともにMCAの立ち上げが議会により承認され、MCAが実際に動き出すことになりました。また、これに加え、2003年5月に「エイズ・結核・マラリアに対する米国のリーダーシップ法」が成立し、2004年から2008年までの5年間で最大150億ドルを世界のエイズ対策及び、世界エイズ・結核・マラリア対策基金への拠出金に当てることを発表しています(注1)。
1990年代を通じ、日本が世界のODAを量的に支える一方で、先進国全体では、いわゆる「援助疲れ」と言われた時期が続きましたが、このような近年の欧米の主要援助国の動きは、開発に対する国際社会の積極的な流れを形成しています。
一方、MDGs達成のためには現在の世界各国による援助総額をはるかに超える資金が必要であるとの主張が多くの援助関係者、被援助国などから提起されています。最近の全世界から途上国へのODAの総額は年500億ドル前後で推移してきていますが(2001年には506億ドル)、例えば、2003年4月には、毎年500億ドルの追加的資金が必要であるとする見積もりが世界銀行から公表されました。また、2003年9月の世界銀行・IMF合同開発委員会に提出された資料では、制度・政策環境が適切に運営されている国については、中期的には2002年のモンテレイ開発資金国際会議で同意された追加的資金額(160億ドル)の2倍の額を有効に利用できるだけの援助吸収能力があり、長期的にはそれ以上の額が必要であると指摘されています。
こうした状況を背景に、現在では、途上国の開発を進めるためには、途上国の国内資金やODAのみならず、海外直接投資などの民間資金や貿易などのあらゆる資金源を動員することが重要だとの認識が国際的に広く共有される状況となっており、2003年に開催された開発関連国際会議でも再三指摘されています。
事実、民間資金や貿易を含めた資金の流れはODAの6倍から7倍に達しており、量的に豊富であり、その経済効果も大きいと考えられます。東アジア諸国は、特に1980年代後半以降、日本、米国などからの海外直接投資を積極的に受け入れながら、地域レベルでの生産ネットワークを構築することにより、世界経済の拡大と相まって高い成長率を達成し、結果として貧困削減にも成功しました。
図表II-4 DAC諸国及び国際機関から途上国への資金の流れ

図表II-5 各国のODA増大の動き

従って、ODAが途上国の開発において果たしている役割を考える際には、投資・貿易を含む途上国に対する資金全体の流れの中で考えていくことが大切です。
以下では、海外直接投資や貿易と開発の関係について説明します。
■海外直接投資、貿易と開発
海外直接投資(FDI:Foreign Direct Investment)、そして貿易は、雇用創出、経営や生産に係わる技術の移転などを通じて、民間部門の活性化、ひいては途上国の経済発展に資するものです。
FDIと貿易は、お互いが密接にリンクすることにより、各国の消費を促し、世界全体の生産物の産出を増加させ、また、各国が自国では手に入れることが出来ない資源へのアクセスと同時に、生産物を販売する市場を提供し、それが各国の経済に利益をもたらすことになります。そして、途上国においては、その利益が開発資金として国内に蓄積され、自力で経済発展を遂げるための原動力となるのです。東アジア諸国の発展が、積極的なFDI誘致と対外貿易の拡大によって築かれたことはよく知られています。
しかしながら、投資や貿易は自動的には起こりません。投資を呼び込み貿易を活性化させるためには、ガバナンスはもとより、教育、技術、インフラ、保健医療が一定のレベルに発達している必要があります。この点に関しては、教育制度やインフラの整っていない途上国において投資や貿易が経済成長に与える効果は、先進国におけるそうした効果よりも、いくらか低くなっているという研究結果もあります(注2)。
そして、教育水準向上、インフラへの投資、国内産業セクターの健全性改善には受入国の自助努力が不可欠であり、そのために受入国政府の果たす役割が重要です。モンテレイ合意でも確認されたとおり、途上国の自立的発展の基礎となるのは、政治的安定、健全なマクロ経済政策、開放的な貿易・投資政策、パブリック・ガバナンスの向上等国内の環境整備です。
これらのために途上国政府が実行しなければならない政策措置は膨大で、多くの貧しい国にとっては自力での対処が困難です。そのため、技術的支援や受入能力の構築を目標とした、他国あるいは様々な国際的枠組みによる支援が必要となります。日本はODA、OOF(Other Official Flows: ODA以外の公的資金)等を活用して、こうした途上国の環境整備のための制度構築、人材育成を行っています。
■日本の取組
アフリカの開発がG8サミットやWSSD等で取り上げられ、とりわけ貿易、投資分野における国際的な取組の重要性が指摘されている中、日本の投資分野のイニシアティブの1つとして、2003年2月、東京にて「アフリカ投資に関する東京会合」(注3)を開催しました。会議には、アフリカ諸国や国際機関、アフリカに投資実績のある日本企業関係者等が出席し、アフリカの投資環境や投資促進策について、実際の投資経験等を踏まえた幅広い意見交換が行われました。議論の結果は、アフリカ投資のための課題としてまとめられ、投資環境を整備するためのアフリカ諸国の取組と国際協力の必要性等が提言として出されています。
また、ODAによる取組の他にも、途上国自身の持続可能な開発に向けた対内投資促進の努力を支援するため、途上国への民間投資を促進する上で、官民のパートナーシップ(PPP:Public Private Partnership)を強化することが重要との観点から、日本は公的資金を活用することにより民間企業の対外投資のリスクを軽減する投資金融や投資保証・保険などを通じて途上国への投資促進に貢献しています。そのような取組の例として、JBICの海外投資金融、保証(投資関連)、アンタイド・ローン(投資関連)及び日本貿易保険(NEXI:Nippon Export and Investment Insurance)の海外投資保険、海外事業資金貸付保険等が挙げられます。
さらに、日本は、2003年4月のOECD閣僚理事会において、途上国に対する投資促進を図るための総合戦略をとりまとめた「行動計画」を策定・実施する「開発のための投資」戦略プロジェクトを提案し、各国より支持されました。同プロジェクトは、2003年秋よりOECDの正式なプロジェクトとして作業が開始されています。
「開発のための投資」戦略プロジェクトの下では、[1]FDIを促進するために必要な投資受入国の取組についてまとめた投資政策枠組の作成、[2]開発のためのFDIとODAの連携強化について非加盟国と協力しながらの方策の研究、[3]投資政策枠組に基づく、NEPAD(New Partnership for Africa's Development)諸国等のピア・レビュー(相互審査)支援を行うことが予定されています。この取組の成果については2005年春のOECD閣僚理事会に報告を行うこととなっています。
特に、FDI誘致の遅れているアフリカ地域の投資受入促進に関しては、2003年11月に南アフリカで開催されたOECD国際投資グローバル・フォーラムに併せて、アフリカ投資ラウンドテーブルが開催され、ヘックリンガーOECD事務次長より、日本が提案した非加盟国のピア・レビュー支援、ODAとFDIの連携強化についてのプレゼンテーションがあり、同ラウンドテーブルに出席したアフリカ諸国より好意的に受け入れられました。(注4)
■ドーハ開発アジェンダの現状~カンクン閣僚会議
特に貿易という側面に特化した多国間の組織として世界貿易機関(WTO:World Trade Organization)があります。WTOにおいては、加盟国146か国のうち、約4分の3が開発途上国ですが(このうちLDC(Least Developed Countries:後発開発途上国)は30か国)、これらの経済力や人材の質が大きく異なる国々が、WTO協定という国際ルールに従い、自由貿易を推進し、貿易の利益を追求すべく努力しています。しかし途上国の中には、交渉の末決まった協定に整合的な形で国内法の整備が出来なかったり、法律の執行がうまくいかなかったりする国、つまり、WTO協定の履行が困難な国もあります。2001年のドーハにおけるWTO閣僚会議においては、このような、WTO協定の履行に関して問題を抱えている途上国への対応に焦点が当たりました。それは、途上国が直面している国内問題への配慮、すなわち開発問題への対応なしには自由貿易の推進が十分に行われない、という認識がWTO加盟国の間で共有されたことを反映したものです。

WTOカンクン閣僚会議で演説する川口外務大臣
ドーハ閣僚会議において立ち上げられた今回のラウンドは、「ドーハ開発アジェンダ」と呼ばれ、多角的貿易体制参画による途上国の開発促進を重視しています。LDC産品の市場アクセス改善に努力するとともに、途上国の要望に応えて、協定履行、交渉参加能力向上を目的とした貿易関連技術支援/キャパシティ・ビルディング(TRTA/CB:Trade Related Technical Assistance/ Capacity Building)の実施にも力を入れてきました。特にドーハ・ラウンド立ち上げと同時に、WTOにおけるTRTA/CBの財源としてドーハ開発アジェンダ・グローバル・トラスト・ファンド(GTF:Global Trust Fund)を設立したことは大きな成果です。GTFは先進国の任意拠出により成り立っていますが、日本は2002、2003年の2年間で約231万スイスフラン(約1億6,000万円)の財政的貢献をしました。GTFを財源としてWTOは年間約400のプログラムからなる技術協力計画を策定、実施しています。(日本の2国間の貿易関連技術支援についてはIII部2章1節2-(4)参照。)
2003年9月に行われたカンクン閣僚会議は、ドーハ・ラウンドの中間点とされていましたが、先進国・途上国間の対立構造が解けないまま、期待されていた成果を上げることなく閉幕しました。同閣僚会議では、途上国を巡る問題として、農業でのルールづくり、シンガポール・イシュー*1の取り扱いや、S&D*2に関する対立に加え、途上国側から新たに綿花イニシアティブ*3、一次産品価格下落問題*4、特恵マージンの浸食*5といった問題が提起されました。こうした問題は、貿易機関であるWTOの枠内のみで対処することは困難であり、インフラ整備、競争力強化を含めたキャパシティ・ビルディングなど、開発政策との整合性を踏まえたアプローチも重要です。
日本は、二国間支援、国際機関との協力を通じ、ODA政策と貿易政策の一貫性を確保し、両者の相乗効果により途上国の多角的貿易体制参画、持続的経済成長に積極的に貢献していく考えです。
こうした観点から、日本は、WTO、世界銀行、IMF等による、対LDC貿易関連技術支援のための共同イニシアティブである、統合フレームワーク(Integrated Framework)(注5)を積極的に支援しています。
特に、統合フレームワークのパイロット国であるカンボジアでは、日本がリード・援助国となり、多角的貿易体制への参画、WTOへの加盟を支援しました。具体的には2002年9月から1年間実施された「貧困削減に配慮した貿易改革のための能力構築プロジェクト」に50万ドルの貢献を行いました。カンクン閣僚会議は、上述のとおり、ドーハ・ラウンドの進展という観点からは残念な結果に終わりましたが、その中でカンボジアはネパールとともに初のLDCとして加盟が承認されるという成果を挙げることができました。統合フレームワークのもとでの貿易関連技術支援(WTO加盟支援を含む)は重複なく、効率的に行われたと評価されています。
■市場アクセスの改善
また、日本は貿易を通じた開発途上国への支援を重視するという観点から、途上国から輸入する一定の農水産品、鉱工業産品に対し、一般の関税率よりも低い税率(特恵税率)を適用しているほか、一定のLDC産品に対しては無税・無枠で輸入する措置をとっています。第3回国連LDC会議をはじめとする累次の国際会議において、途上国より先進国に対してLDC産品に対する無税・無枠措置のさらなる拡大を求める声が高まり、日本はWSSD等の際に同措置を拡大することを表明し、2003年4月1日よりLDCに対する無税・無枠措置の対象品目を拡大しました。この結果、LDCからの輸入については、既に99%が無税・無枠となっている鉱工業産品と合わせて、日本の輸入品全体では金額ベースで93%について無税・無枠が達成されることとなりました。併せて、LDC以外の開発途上国に対する一般特恵制度(GSP:Generalized System of Preference)についても、約120品目の拡大を行い、途上国の貿易機会の拡大に大きく寄与しています。