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第2節 主な個別論点ごとの日本の主張・貢献
1.貧困削減と経済成長、インフラの役割

 これまでも国際的な開発の議論において、経済成長をより重視する傾向が徐々に現れてきていましたが、2003年には、東アジア諸国の経験を踏まえた日本の主張により、経済成長、特にインフラ整備が、投資環境の改善等を通じて、持続的経済成長とMDGs達成に果たす役割の重要性に再び焦点が当てられることとなりました。
 4月に開催された世界銀行・IMF合同開発委員会(以下「合同開発委員会」)のコミュニケ(注1)では、「経済成長に対しインフラへの投資が果たす決定的な役割、及びインフラへの投資と社会サービスの提供・MDGsの達成との間の関連性を強調する。インフラ投資への支援増加に、世界銀行が改めてコミットしたことを歓迎」すると述べられるとともに、9月の合同開発委員会で更なる取組を報告する、とされました。これを受け、世界銀行内部において、「インフラ・アクション・プラン」(注2)が検討され、9月の同委員会に案が提示されました。その案には、「MDGs達成へのマルチ・セクトラル/包括的開発枠組み(CDF:Comprehensive Development Framework)のアプローチの文脈において、インフラ・サービスの提供は経済成長のサポート及び社会サービスの提供の改善に極めて重要な役割を果たす」こと、「信頼性があり、コスト効率的なインフラ・サービスの提供」は、直接的、間接的に保健及び教育関連のMDGs達成に資することなどが記されています。9月の合同開発委員会のコミュニケ(注3)においても、「インフラが低中所得国の投資環境を改善し、開発に必要な条件を支援することにより、持続可能な経済成長及びMDGs達成に資する」ことなどが述べられるとともに、2004年4月の次回合同開発委員会までに、更に検討されることとなりました。
 また、世界銀行は「南アジア、ラテンアメリカ、サブサハラの貧困層が、交通・運輸、電気、給水及び通信といったインフラへのアクセスを確保できなければ、2015年までに世界の最貧困層を半減するという国際目標を達成する見込みは非常に危うくなる」としており、具体的に水供給が識字率に与える影響、交通インフラの就学率に与える影響について調査を行い、それらの重要性を主張しています(注4)
 また、OECD-DAC においてもインフラの重要性が改めて指摘されています。2003年4月に行われたハイレベル会合では、経済成長は貧困削減のために不可欠であること、また経済成長のためには、途上国における貿易や民間投資の促進が重要であり、ODAと民間投資が相乗効果を生む形で連携することが重要であること、経済成長や民間資金を導く被援助国の環境整備(ガバナンス、制度、治安等)の重要性などが指摘されました。(注5)
 これを受け、OECD-DACでは、従来貧困削減を議論するフォーラムであった「貧困削減ネットワーク」(POVNET:Network on Povery Reduction)に成長アジェンダを議論する権限を付与し、インフラ、農業、民間セクター開発の3つのタスクチームを設置し、貧困削減と経済成長に関する議論を開始しました。日本は、貧困削減ネットワークの副議長を務める他、インフラ・タスクチームのリーダーを務め、積極的に議論をリードしています。

ベトナムのインフラプロジェクト:ベトナムのインフラプロジェクト:カン・トー火力発電事業(写真提供:国際協力銀行(JBIC))
ベトナムのインフラプロジェクト:カン・トー火力発電事業
(写真提供:国際協力銀行(JBIC))

 第一節でも述べたとおり、日本は、貧困削減における経済成長、インフラの役割を重視しており、こうした考え方を国際的な議論においても主張してきました。例えば、2002年5月に策定されたベトナムのPRSPは、ベトナム政府が経済成長を重視していることも勘案し、「包括的貧困削減・成長戦略」(CPRGS:Comprehensive Poverty Reduction and Growth Strategy)との名称となりました。当初、CPRGSは、内容的には、社会セクターにおける基礎サービスの拡充に重点をおいたものとなり、大規模インフラを整備し、経済成長を通じた貧困削減を達成するという視点は盛り込まれていませんでした。そこで、日本は、ベトナム政府のオーナーシップを尊重しつつ、世界銀行等と連携して、そうした視点からCPRGS を拡大するよう働きかけました。その結果、2002年12月の対ベトナム支援国会合において、CPRGSに大規模経済インフラの要素を導入し、拡大するとの結論が出されました。この結論を受け、ベトナム政府は、CPRGSに大規模インフラについての新たな章を加えるための作業を行い、 CPRGSの追加章が2003年11月に完成し、同年12月の対ベトナム支援国会合においてベトナム側から追加章の完成が報告されました。
 この過程で、日本は、ベトナム政府のCPRGS拡大の作業を支援するために、大規模インフラの経済成長と貧困削減への貢献についての調査研究を行い、インフラの持つ意味を提示してきました。これらの調査研究の結果は、「成長と貧困のためのインフラ開発」に関するワークショップなど、数次のワークショップにおいてベトナム政府、主要援助国・国際機関に共有され、インフラが経済成長と貧困削減にどのようなプロセスを通じて貢献するか等について活発な議論が行われました。ベトナム政府の「CPRGSの拡大」の作業は、こうした議論をベースに行われました。

コラムII-1 POVNETにおける最近の取組

 また、国際協力銀行(JBIC:Japan Bank for International Cooperation)は、世界銀行及びアジア開発銀行(ADB:Asia Development Bank)とともに、日本政府の支援を得て、東アジアの経済発展と貧困削減という共通の目標に向け、同地域のインフラ整備に関する共同調査を開始しています。この共同調査では、東アジアにおいて実施されたインフラ整備の役割や効果、特に貧困削減に対する役割と重要性を再整理した上で、国際的な官民の新たなパートナーシップのあり方を模索するとともに、より効率的なインフラ整備の促進に向けた資金調達のあり方等を検討する予定です。調査期間中はセミナーやワークショップを開催し、途上国政府、民間セクター、NGO等の関係者間の対話促進とネットワーク作りを支援するとともに、調査結果をインフラ整備に携わる途上国、国際開発金融機関及び援助国の関係機関の政策立案者に役立ててもらうことを想定しています。
 この他にも日本は、国連開発計画(UNDP:United Nations Development Programme)とともに、インフラ・経済成長・貧困に関する共同調査を行う予定です。この調査では、ASEAN諸国等から2か国、アフリカから1か国選定し、インフラと経済成長・貧困削減の関係について、マクロ・レベル及びミクロ・レベルの調査を行います。マクロ・レベルの研究は基本的に既存の文献などをまとめて行われ、ミクロ・レベルの調査では、地域に焦点を当て、小規模インフラの供給と地域経済の活性化及び貧困削減の関係に関する実証研究を行う予定にしています。選定された国のインフラ供給と成長・貧困削減の関係をマクロとミクロの視点から分析し、その成果を途上国の貧困削減政策に実質的に資する勧告としてまとめることになっています。
 こうした貧困削減と経済成長の関係についての様々な意見を収束させ、国際的合意を形成するまで果たしてきた日本の役割については、2003年12月に行われたOECD-DACにおける対日援助国審査(I部2章1節2-(5)参照)においても高く評価されました。

コラムII-2 大規模インフラの経済成長と貧困削減への貢献についての調査研究


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