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(5)国際社会における協調と連携

 第1章において説明したとおり、1990年代に入り、国際社会では、限られた援助資源の中で援助を効果的、効率的に実施するため、国際機関が中心となって、MDGsをはじめとする開発目標を国際的に共有化したり、援助のやり方を援助主体間で調和させたりするなどの動きが顕著となっています。したがって、これまで以上に、途上国、国際機関、援助国、NGO等との連携・協調が不可欠な状況となっています。日本としても、このような状況の中、国際社会の流れに追随するのではなく、国際目標や援助手法の設定等において、独自の援助戦略や考え方を発信すべく、積極的に参画しています。今回のODA大綱改定にあたっても、そうした現実を踏まえ国際社会においては、国際機関が中心となった開発目標や開発戦略の共有化が進んでおり、様々な主体が協調して援助を行う中で「我が国もこのような動きに参加して主導的な役割を果たすよう努める」旨明記しました。また、旧ODA大綱との比較では、旧ODA大綱では「必要に応じ」連携・協調を行うこととなっていたものを、新しいODA大綱では、「連携を強化する」あるいは「主導的な役割を果たすよう努める」と改められています。以下では、そうした国際社会における連携や協調の取組の一部を紹介します(国際援助潮流における日本の取組についての詳細は第II部参照)。

■主要援助国との政策協議
 日本は、ODAをより戦略的、効果的、効率的に実施するため、米国、英国、フランス、ドイツ、その他の主要な援助国との間で二国間の援助政策協議を行い、意見交換や政策調整を実施しています。また、米国、英国、カナダ、オーストラリアとの間では援助関係者の人事交流も行っています。
 なかでも、日米両国は、同盟国として緊密な連携を図りながら外交政策を展開していることに加え、二国間援助を通じたプロジェクト型の支援を重視するという援助政策を共有していることを背景として、開発分野においても様々な協力を進めています。日米間ではこれまでも保健や水といった分野において協力が進められてきたところですが、昨今では、アフガニスタン、スリランカ、イラク等における平和の構築に向けた取組においても緊密な連携が図られています。
 英国は、援助手法としてコモン・ファンドや財政支援を提唱するなどの点で、日本とは異なる立場にありますが、英国との関係においては、援助の基本的な考え方のこのような相違点を強調するのではなく、両国間で協調できる点を探る努力がなされています。2003年10月には外務省経済協力局長と英国の国際開発省次官がベトナムを共同で訪問し、セミナーを開催しました。このような日英間の協調は、双方の比較優位から互いに得るものが大きいこと、他の援助国との関係において双方の立場の強化につながること、援助コミュニティへの触媒効果を期待できることという点で、有意義なものとなっています。
 また、フランスとは、2003年3月に「水分野における日仏協力」が発表され、同年6月のG8エビアン・サミットの機会には日仏が中心となって水に関するG8行動計画がとりまとめられたように、水分野をはじめとする分野で協力が進められています。ドイツとの間でも、水やアフリカ問題をはじめ幅広い分野で協力を行う可能性が模索されています。
 さらに、オーストラリア、欧州委員会、北欧諸国、韓国等との援助国との間でも局長級の援助政策協議を行い開発分野の主要課題に関する意見交換を行うとともに、それぞれの援助政策や援助の仕組みに対する理解を深める努力がなされています。

日仏水協力共同発表
日仏水協力共同発表

■支援国会合及び現地援助・コミュニティにおける協調
 国際的な援助協調の一環として、被援助国毎に支援国会合が開催されており、2003年には、日本においてスリランカ復興開発会議、モンゴル支援国会合が開催されたほか、フィリピン、インドネシア、ベトナム、ウガンダなどの国について支援国会合が開催され、日本も議論に積極的に参加しました。近年、こうした支援国会合に加え、低所得国を中心に、現地レベルにおいて援助国、国際機関の間の援助協調が活発化しています。このような動きに対し、現地ODAタスクフォース関係者が分担して積極的に参加し、政策提言を行うとともに、日本が重点とするセクターでは、必要に応じて援助会合をリードすることとしています(I部2章3節1-(5)参照)

■国際機関における援助議論への参加と主導的役割
 国際社会における開発目標や開発戦略に関し、主要な援助国の恒常的な協議や調整の場としては、経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(DAC)がありますが、日本は従来からDAC本会合の副議長を務めていますが、2003年5月からはOECD-DACの下部機構において新たに副議長職に就任し、さらに「貧困削減ネットワーク」ではインフラ・タスクチームのリード国を務める等、議論に積極的に参加・貢献しています。2003年12月には、DAC対日援助審査(注)が行われ、日本のODAを更に効果的に実施していくための建設的な意見が表明されるとともに、厳しい経済・財政状況の中で日本が行っている様々な努力(ODA改革、アフガニスタンやイラク支援、TICADIII開催等に代表される各種イニシアティブ等)はDAC諸国から高い評価を受けました。
 また、MDGsの設定に代表される近年の開発問題に対する国際社会の関心の高まりを契機として、国連、G8サミット、WTO(World Trade Organization:世界貿易機関)等の場でも21世紀の開発のあり方が精力的に議論されています。2002年から2003年にかけても、開発資金国際会議、カナナスキス・サミット、持続可能な開発に関する世界首脳会議(WSSD:World Summit on Sustainable Development)、エビアン・サミット、WTOカンクン閣僚会議などが開催されましたが、日本は積極的にこうした国際的な動きに参加しただけでなく、第3回世界水フォーラムやTICADIIIを主催するなど、国際社会の開発問題に関して主導的な役割を担っています。こうした国際社会の議論における日本の取組については第II部において詳しく説明します。

囲みI-5 日本政府に対するDAC援助審査勧告(仮訳)(2003年12月)

■国際機関との連携強化
 日本の援助形態別の実績を見ると、二国間ODAが4分の3、国際機関向け拠出・出資等が4分の1を占めており、二国間ODAが中心ですが、国際機関に対しては、単なる資金の拠出・出資等に留まることなく、国際機関の意思決定に積極的に参画しているほか、二国間ODAの実施にあたっても国際機関と連携して実施するなど、様々な形で国際機関との連携を強化しています。今後とも、「専門的知見や政治的中立性を有する国際機関と我が国のODAとの連携を強化する」ことと同時に、これら国際機関の運営に関しても国際機関の予算の効率化や日本の分担割合の適正化を図りつつ、「我が国の政策を適切に反映させていくよう努める」考えです。こうした観点から、日本は、世界銀行やアジア開発銀行(ADB:Asian Development Bank)といった国際開発金融機関(MDBs:Multilateral Development Banks)や国連開発計画(UNDP)(開発全般)、国連児童基金(UNICEF:United Nations Children's Fund)(保健医療、教育)、世界保健機関(WHO:World Health Organization)(保健医療)、国際労働機関(ILO:International Labour Organization)(労働・人材育成)、国連教育科学文化機関(UNESCO:United Nations Educational Scientific and Cultural Organization)(教育、文化)、国連人口基金(UNFPA:United Nations Population Fund)(人口、リプロダクティブ・ヘルス(注))、国連高等難民弁務官事務所(UNHCR:United Nations High Commissioner for Refugees)(難民・避難民支援)、国連世界食糧計画(WFP:World Food Programme)(食糧支援)、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA:United Nations Relief and Works Agency for Palestine Refugees in the Near East)、国連合同エイズ計画(UNAIDS:The Joint United Nations Programme on HIV/AIDS)(エイズ対策)といった国連諸機関等との政策対話や事業連携(マルチ・バイ協力)を進めています(国際機関との連携については、第II部2章2節5-(1)も参照)。

■南南協力の実施
 新しいODA大綱は、国際社会における連携と協調として「アジアなどにおけるより開発の進んだ途上国と連携して南南協力を積極的に推進する」としています。南南協力とは、より開発の進んだ途上国が、自国の開発経験と人材などを活用して、他の途上国に対して行う協力で、主に技術協力の形態をとって行われます。こうした協力は、社会・文化・経済事情や開発段階などが比較的似通った状況にある国々による協力が可能となることから、効果的かつ効率的な協力の実施が可能となるメリットがあり、被援助国の自主性とニーズを十分踏まえ実施されています。
 日本は、1975年以来、南南協力を通じた援助を実施してきており、例えばアジアの開発経験を基に、地域の実情に合わせてアフリカの開発を推進するというアジア・アフリカ協力を積極的に推進してきました。2003年9月のTICADIIIにおいても、アジアとアフリカの双方からアジア・アフリカ協力の推進に強い意欲が表明され、協力の具体化に向けた取組が求められました。また、2003年12月の日・ASEAN特別首脳会議においても南南協力の推進が確認されています。さらに、アジアとの関係に限らず、日本は、エジプトと協力してイラクの医療分野の復興を支援するため、エジプトと合同で医療調査団をバグダッドに派遣、また3か国の医療関係者によるワークショップをカイロ、東京で開催するなどの協力を実施しています。現在、世界では南南協力の重要性については広く認識されていますが、南南協力を積極的に進めている国は非常に少なく、この分野では日本が世界をリードしている状況にあります。

■広域協力-メコン地域開発支援やNEPAD支援
 そのほか、新しいODA大綱では、この国際社会における協調と連携に関して、「地域協力の枠組みとの連携強化を図るとともに、複数国にまたがる広域的な協力を支援する」としています。例えば、日本は、ASEAN域内における域内格差の是正と地域的競争力の向上のためのASEAN統合イニシアティブ(IAI:Initiative for ASEAN Integration)との連携をとりつつ、カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム(CLMV諸国)等において地方の農林水産業をはじめとする地域・地場産業の振興や地域総合開発に対する調査協力を行っているほか、ADB等の国際機関と連携しつつメコン地域開発への協力や、そのほか、アフリカにおけるNEPADに対する政策支援などを行っています。メコン地域開発は、メコン河流域に位置するカンボジア、ラオス、ミャンマー、タイ、ベトナムの5か国と中国雲南省について、これらの国・地域の国境をまたいで広域的に開発しようとする試みです。2003年12月の日・ASEAN特別首脳会議においても取り上げられ、日本からの支援は、今後3年間で15億ドルに達することが見込まれることを表明しました(メコン地域開発についてはI部2章1節4-(1)も参照)。またアフリカについては、NEPADは地域単位での開発協力を重視しており、日本も複数国に裨益するような広域案件や、南部アフリカ開発共同体(SADC:Southern African Development Community)や西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS:Economic Community of West African States)など準地域機関の活動への協力を行っています。


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