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(4)我が国の経験と知見の活用

 新しいODA大綱では、「我が国の経験と知見の活用」を基本方針の1つに位置づけました。日本には、明治維新以降辿ってきた近代化の歴史、戦後の復興から、世界銀行からの借款等を得て、自主性に基づくマクロ経済運営の下、基幹インフラを整備しつつ経済発展を遂げた経験、さらには、環境保全と経済成長の両立に関する経験、貧富の差が少ない平等な社会づくり、災害に強い国土づくりの経験など、世界でも希有な知識や経験の蓄積があります。また、1960年代以降の深刻な産業公害を克服し、1970年代の石油ショックなどの危機も省エネルギー対策を通じて、更なる発展の基盤を作った例もあります。このような日本の経験がそのまま他の国・地域においてそのまま導入できるとは考えていませんが、こうして培われた技術、知見、人材そして制度に対しては、途上国の側からも大きな期待が寄せられています。
 例えば、南アフリカのムベキ大統領は、大統領への就任直前、国連大学における「アフリカのルネッサンス」と題した講演の中で「アフリカには古い輝かしい歴史と独自の文化がある。……明治維新に関心があり、日本の発展のことをもっと知りたい」と述べました(注1)。また、TICAD IIIの際にはマラウイのムルジ大統領が大分県を訪れ、同県発祥の「一村一品」運動(注2)を賞賛し、これを自国に取り入れたい旨を述べ、帰国後「一村一品ワークショップ」を開催しています。
 日本の経験と知見を利用した例としては、集団健康検診や母子手帳の導入、公害の克服、省エネルギー、経済政策立案、法制度整備等の協力があるほか、円借款については、2002年7月に新たな供与条件として「本邦技術活用条件」が導入され、日本の優れた技術やノウハウの積極的な活用を推進しています。また、日本は、日本の建設技術の途上国への紹介・普及(注3)に努めていますが、河岸浸食対策のため、輸入材料に頼らず雑木の枝を編んだマットに石を詰めるという日本の河川伝統工法を用いることで、従来の工法に比べ2倍以上の延長を保護できるようになった例もあります。このように、日本の経験に根ざした優れた技術やノウハウを活用しつつ、相手国の開発努力を支援することは、効果的な開発のためにも、また、日本らしい開発協力を進める上でも重要であると考えています。ただし、その場合、当然のことですが、日本のやり方を開発途上国に押し付けたり、日本の利益を優先したりするのではなく、政策協議等を通じて被援助国の政策や置かれている状況を踏まえつつ、援助需要を総合的かつ的確に把握することが大切です。
 また、日本の「優れた技術、知見、人材及び制度を活用する」にあたり、日本の関係者が途上国の現場において、現地の人々と共に知恵を絞り、苦労を分かち合いながら共同の事業を行うことは、単なる開発協力に止まらず、日本の優れた技術やノウハウの技術移転や、人と人の交流を通じて、相手国国民との親善と相互理解を深める点で非常に有効であると言えます。また、ODAの実施にあたっては、日本の経済・社会との関連に配慮しつつ、日本の重要な政策との連携を図り、政策全般の整合性を確保します。



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