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(3)公平性の確保
ODA政策の立案や実施にあたっては、ODAの成果が現地の住民を含む被援助国国民に公平に裨益するように配慮する必要があります。そのためには、援助の実施に際して、特に被援助国内における子供、障害者、高齢者等の社会的弱者が置かれている状況や被援助国内の貧富の格差や地域格差にも考慮するほか、日本のODAの案件自体が現地の環境や地域社会に与える影響等にも十分注意を払う必要があります。さらに、開発途上国において均衡のとれた持続的な開発を実現していくため、男女の均等な開発への参加とそこからの受益の確保を図る必要があることから、開発における男女共同参画の視点も重要です。
上記の考え方は、旧ODA大綱においても既に示されていましたが、新しいODA大綱においては、これらを改めて整理し、日本のODAの政策立案段階から実施に至るまで、あらゆる段階において日本が常に重視すべき事項として「基本方針」の一項目と位置づけました。「社会的弱者の状況、開発途上国内における貧富の格差及び地域格差」の考慮や「開発途上国の環境や社会面に与える影響」については、旧ODA大綱での「十分配慮」という表現に加えて、「公平性の確保を図る」と、より能動的な表現としました。また、男女共同参画に関する箇所についてもより詳細な記述としています。以下では、環境や社会面での配慮に関する取組状況や、男女共同参画の視点、社会的弱者への配慮について説明します。
■ODA実施の環境や社会面における影響
「開発途上国の環境や社会面に与える影響等に十分注意を払う」とは、援助を実施する際には自然環境への影響のみならず、自発的ではない住民移転や土地及び資源に関する先住民族等の諸権利などの社会面への影響に対する事業実施主体の配慮を確認し、日本のODA事業が環境や地域社会に与える影響を回避または最小化するよう努めるという趣旨です。
日本は、これまでも各種の環境配慮ガイドラインに沿って、途上国側の取組につき事前確認を行っていましたが、近年は、そうしたガイドラインの一層の充実化に努めています。有償資金協力ついては、公聴手続きを行って有識者やNGO等からの幅広い意見を聴取した上で、環境面に止まらず住民移転や先住民族・女性への配慮等の社会配慮も含めた形で、2002年4月に「環境社会配慮確認のための国際協力銀行ガイドライン」を策定・公表し、2003年10月1日より全面的に施行しています。このガイドラインは、現地住民からの異議申立制度を導入した画期的なものであり、有償資金協力のほか輸出信用などの国際金融等業務にも適用されています。
また、技術協力に関しても、JICA内に外部有識者・NGO等からなる「JICA環境社会配慮ガイドライン改定委員会」が設置され、1989年に策定されたガイドラインの改定について検討が重ねられてきました。2003年10月、同委員会はJICAに提言を提出し、今後、パブリック・コメント手続き等を実施し、幅広く外部の意見を求めた上で、2004年3月をめどに既存のガイドラインを改定する予定となっています。なお、無償資金協力における環境社会配慮に関しては、改定されるJICA環境社会配慮ガイドラインを準用した「無償資金協力審査ガイドライン」を策定する予定としています。このように、日本は、環境や社会面における影響に対する配慮の確認を継続、強化していく考えです。
なお、新しいODA大綱では、「環境や社会面への影響に十分配慮する手続きをとる」ことを「効果的実施のために必要な事項」の「適正な手続きの確保」の箇所においても重ねて言及しています(I部2章3節3-(2)参照)。
コラムI-3 日本の途上国における女性支援/ジェンダーへの取組
■開発における女性支援/ジェンダーへの取組
開発における女性支援やジェンダーへの取組に関しては、新しいODA大綱では「特に、男女共同参画の視点は重要であり、開発への積極的参加及び開発からの受益の確保について十分配慮し、女性の地位向上に一層取り組む」としています。
日本は、第4回世界女性会議(1995年:北京)において「途上国の女性支援(WID:Women in Development)イニシアティブ」を発表して以来、開発への女性の積極的参加及び開発からの女性の受益の確保について配慮してきました。また、近年では、NGO等を通じた小規模かつ地域に根ざした取組の支援(草の根・人間の安全保障無償資金協力等)や専門家の派遣や研修員受入(技術協力)等による支援のほか、国際機関を通じた支援など、積極的に行って取り組んでいます。特に、日本のアフガニスタン復興支援に関しては、女性の地位向上を重点分野に位置づけ、2003年には、女性課題省や女子教育に関する教育省への専門家派遣及び研修員受入等を実施しています。政府としては、今後とも新しいODA大綱を踏まえて、男女共同参画の視点を重視し、公平で効果的な経済協力を目指すとともに、女性の地位向上に一層取組んでいく考えです。また、女児を含む女性をエンパワーする(能力を開発する)ことにより、社会や経済の開発が促進されることにも留意していきます。
■社会的弱者への配慮
新しいODA大綱には社会的弱者が置かれている状況に考慮することが明記されています。途上国の障害者は、その多くが教育や就労など社会参加の機会に乏しく、また、リハビリテーションなどといった必要な福祉サービスも受けられない状況にあり、ODAの実施にあたっては、そのような状況に配慮する必要があります。これまで、日本は、途上国国民の福祉向上にも資するよう、各国との知識や経験の共有を図ってきており、例えば、タイ国別援助計画においては、重点分野・課題別援助方針の中に、社会的弱者支援を盛り込み、タイのみならず、域内の障害者対策の重要性も考慮に入れた支援を推進しています。

メコン河河岸浸食対策技術協力(写真提供:国土交通省)