ColumnI-3 日本の途上国における女性支援/ジェンダーへの取組
日本は、途上国の男女平等及び援助における男女共同参画の実現に取り組むとともに、援助を効果的・効率的に行うためにもジェンダーの視点に配慮しています。以下に、途上国の女性支援プロジェクトの事例と一般的なプロジェクトの形成過程において、特にジェンダーの視点が生かされた事例を紹介します。
【A】女性支援プロジェクト事例
「ヨルダン:家族計画・WIDプロジェクト:技術協力プロジェクト」
ヨルダン国では、急速な人口増加が様々な面で住民の生活向上に影響を及ぼしており、この背景には、家族計画に対する知識の不足により計画的な出産がなされていないことなどが理由として考えられています。また、イスラムの戒律が厳しく守られている地域においては、慣習により女性の立場が軽視されるなど、家族計画の知識の向上や女性の社会参加が妨げられていることがあります。
このような状況に対し、日本政府はヨルダン国政府とも協議の上、同国に対し、本件技術協力を行いました。具体的には、[1]家族計画・母子保健普及活動、[2]地域住民への啓蒙普及活動(男性への啓蒙を含む)、[3]女性の収入創出活動の3つの柱を組み合わせ、人口増加率を抑制するとともに、女性の健康や地位向上を図るため、専門家の派遣によるワークショップの開催や研修員受入、機材供与を通じて、(1)地域開発推進員などの機能強化(2)住民のリプロダクティブ・ヘルスに関する意識向上(3)母子保健センターにおける医療サービスの質的向上(4)女性の収入創出活動の活発化を図る、などの協力を行いました。地域住民から家庭訪問員などを育て、住民の自主性を重視したことは、国営テレビ局の取材を受けるなど現地関係者から高い評価を得ました。また、住民からは「(参加型ワークショップの後)妹に計画出産を勧めました。2年以上の間隔を置いた計画出産が理想的。」や「私がワークショップで忙しいとき、夫は家事に協力するようになりました。また、夫は私の社会的責任を尊重し、私を社会人として扱うようになりました。」といった言葉が寄せられるなど、住民への啓蒙普及においても有効な協力となりました。
戒律の厳しい地域において、家族計画やWIDの概念を取り込んだプロジェクトを行うにあたっては、家族計画の概念が戒律と矛盾するものではないことを説く必要がありました。日本の専門家は、現地宗教リーダーに根気強く説明を行い、遂にはそのリーダーを通じた地域住民への説明が実現しました。この事業は、カラク県南ゴール郡をモデル地域とし、1997年から3年間実施され、その後、2003年6月まで、カラク県6地域に拡大して実施されました。

写真A「ワークショップ風景」

写真B「井戸建設のための調査風景」
【B】一般的なプロジェクト形成過程においてジェンダーの視点が活かされた事例
「モーリタニアの給水プロジェクト形成過程」
プロジェクトの形成過程において、事前に現地状況の調査を行うことにより、現地における男女の役割が異なっているなどの情報を得ることがあります。例えば「主な水汲みの担い手が女性である」場合、井戸の位置などを決定するには特に女性の意見が重要です。
写真は、モーリタニアの村落における井戸建設を目的とした無償資金協力プロジェクトの調査の様子です。井戸の位置を決めるために村の女性たちを集め、地面に描いた地図上に石を置いてもらい、希望地点を調査しています。また、このプロジェクトの目的は、ギニア・ウォームをはじめとする水因性疾病を減らすために安全な水を供給することであり、そのためには、住民が安全な水の重要性を十分に認識する必要があります。特に、女性は、男性に比べて過重労働や妊娠・出産に起因した健康問題が深刻であるため、女性に比重を置いた衛生教育を実施すれば、援助効果の効率的な発現が期待できます。また、給水施設を最も活用し、また、そこから利益を受ける住民自身が意思決定に参画することによって、住民の事業に対する理解を深め、施設が住民の手で適切に維持管理されることを目指します。このように、プロジェクトの形成から意思決定過程に女性が参加することにより、利用者のニーズを適切に反映した効果的なプロジェクトになり、また、女性の積極的な参加は、女性に活躍の機会を与え、女性の地位向上にもつながります。