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5.国際社会における援助効果の向上に向けた協調と連携
第I部で述べた通り(I部1章2節3-(1)~参照)、国際社会では、限られた援助資源で効率的かつ効果的な開発を実施するために、これまでの経験を踏まえ、援助手法を見直す動きや、援助国、援助機関の協調が活発化しています。
これまでも、援助国や国際機関の間で個別課題やプロジェクトレベルでの話合い、調整等は行われていました。もっとも、最近では、従来のプロジェクトレベルでの調整や連携を中心としたものから、被援助国のオーナーシップ向上のために、セクター戦略レベル或いは国家開発戦略レベルでの調整も行われるようになってきており、財政支援、セクター・プログラム(SWAps:Sector Wide Approaches)、手続きの調和化の推進といった援助手法の見直しを課題として含める協調が増加してきています。
ここでは、まず、日本と他の援助国、国際機関との援助の調整の現状について説明した後、援助効果の向上に関する国際社会における議論、日本の主張について説明します。
(1)主要援助国、国際機関との協調と連携
日本が、ODAをより戦略的、効果的、効率的に実施するため、主要な援助国との間で二国間の局長級の援助政策協議を行い、意見交換や政策調整などを実施していること、また、日本と国際機関との連携に関する概要については、第I部(I部2章1節2-(5)~参照)で述べた通りです。
以下では、日本がとりわけ幅広い関係を築いてきた世界銀行、UNDP、UNICEF(United Nations Children's Fund)との対話・連携の現状について説明します。
(イ)世界銀行
世界銀行は、途上国開発における最大の援助主体であるとともに、政策面においても多様なメッセージを発信し、援助国・国際機関間の援助調整に主導的役割を果たしてきました。また、最近では、国際会議の主要テーマを世界銀行・IMF総会や世界銀行・IMF合同開発委員会で取り上げるなど、一連の開発関連会議の議論にも深く関与しています。2003年の世界銀行・IMF合同開発委員会においても、2002年に引き続き、MDGs達成に向けた取組に関する進捗状況が議論されました。また、教育分野においてファスト・トラック・イニシアティブ(FTI)を推進している他、保健分野においても他の援助国とともに保健・栄養・人口に関するMDGsについての調和行動会合を主催しています。
こうした中で、日本は、世界銀行に対する第2位の出資国として世界銀行との協力関係を重視しており、様々な形で関係強化に努めてきました。日本は、途上国に対する支援国会議やアフガニスタン復興支援国際会議、イラク復興支援国際会議等の国際会議の場を通じても世界銀行と協力しており、2003年3月及び9月にそれぞれ日本で開催された第3回世界水フォーラム及び第3回アフリカ開発会議(TICADIII)についても、世界銀行と協力しながらこれらの国際会議を運営してきました。
これまで日本は、定期的に世界銀行本部とのハイレベルの政策対話を行ってきましたが、2003年1月には、ウォルフェンソン総裁が来日し、小泉総理や塩川財務大臣(当時)、茂木外務副大臣(当時)との間でODA予算、援助の効率化、教育支援といった問題についての意見交換を行いました。また、最近では、世界銀行をはじめとする国際開発金融機関と日本の援助関係機関(外務省、財務省、経済産業省、JICA、JBIC等)の間で、特定国や地域に対する援助のあり方を巡り、実務レベルでの政策対話を行っています。
援助の現場では、日本大使館、JICA及びJBICの関係者が、途上国の貧困削減を実現するために、PRSPの策定作業に可能な限り積極的に参加しています。また2002年3月には、日本も資金を拠出して世界銀行内に貧困削減戦略信託基金(PRSTF:Poverty Reduction Strategy Trust Fund)が立ち上げられ、IDA借入適格国においてPRSPの作成及び実施に必要な当該国政府及びNGOの能力強化のための支援が行われています。
日本及び世界銀行はともに開発を進めるに当たってIT分野を活用することを重視しており、開発におけるITの活用を進めるため、世界銀行の遠隔教育ネットワークであるGDLN(Global Development Learning Network)と日本の遠隔技術協力ネットワーク(JICA-NET)との連携の実現に向けても作業を進めています。
(ロ)UNDP(United Nations Development Programme:国連開発計画)
UNDPは国連の諸機関の中で開発全般を担当する主導的機関で、国連システムにおいて世界最大のネットワークを持っています。また、毎年、「人間開発報告」を発表しており、援助に関する国際援助潮流の形成に大きな影響力を有しています。さらに、MDGs達成に向けて国際社会の牽引役を果たしています。

日本とUNDPが共同で行ったプロジェクト:ハルサ発電所 イラク(写真提供:UNDP東京事務所)
日本は、近年UNDPとの間で政策レベル及び事業レベルの双方でパートナーシップを強化してきました。2001年以降は、政策レベルの年次協議を行い、2003年にはマロック=ブラウン総裁とのハイレベル協議を行ったほか、同総裁訪日の機会等を通じた政策対話も強化しています。事業レベルでは、例えば、アフガニスタン復興支援やイラク復興支援における日本とUNDPの協調等に見られるように、緊密に連携して支援を実施しています。
日本は、UNDPとの共同プロジェクトを多数行ってきています(いわゆるマルチ・バイ協力)。その具体例としては、パキスタンのゴミ処理改善計画、カンボジアにおける帰還難民の再定住支援及びグアテマラの女子教育支援等が挙げられます。
また、日本とUNDPは1993年の第1回アフリカ開発会議(TICADI)以降、アフリカ開発についての協力関係を強化しており、TICADIIで採択された「東京行動計画」に基づく種々のフォローアップ事業についても、日本はUNDPに拠出した種々の基金を積極的に活用しています。
UNDPも、日本と同様、紛争後の復興開発や平和構築などへの支援を強化しており、この分野での連携も深まっています。例えば、パレスチナ支援については、1988年以降、UNDPに設置した日本パレスチナ開発基金を活用しヨルダン川西岸・ガザ地区での学校や病院建設等インフラ整備、自治政府職員の行政能力向上等を支援しています。また、アフガニスタンでは、帰還難民や国内避難民等の雇用創出を目的とした復興・雇用プログラム(REAP:Recovery and Employment Afghanistan Programme)を実施しており、コソボでは、民主化への動きを支援しているほか、住宅再建、学校・病院建設への支援を、さらに、東ティモールでも道路、港湾、発電、灌漑等のインフラ整備を中心に支援を実施しました。イラクでは、アフガニスタンのREAPと同様のイラク復興雇用計画(IREP:Iraq Reconstruction and Employment Programme)をはじめとして、港湾浚渫、電力施設や病院の復旧のように住民の生活基盤の再建のための支援を行っています。
日本が重視する南南協力についてもUNDPは、他の援助機関や国連機関とも協力しながら技術移転やネットワーク作りなどを推進しており、日本は、UNDPに設置した基金への資金拠出を通じて、そうした活動を支援しています。
コラムII-3 UNDPと日本の協力~継ぎ目のない復興支援:アフガニスタン復興雇用プログラム(REAP)~
(ハ)UNICEF(United Nations Children's Fund:国連児童基金)
UNICEFは、児童・女性の保健医療、教育等に関する開発事業を世界的規模で展開し、児童の権利の保護・促進や人道支援活動についても指導的な立場にある国連機関です。日本は、こうした高い専門性と現場での優れた知見を併せ持つUNICEFとの協調を重視し、1989年より政策協議を行っているほか、保健医療、教育、水・衛生分野における開発分野、さらに近年は人道・復興支援分野や人権分野において広汎な協力を推進しています。
まず、開発分野においては、保健医療について、日本は技術協力(「感染症対策特別機材供与(ポリオ根絶支援及び予防接種拡大計画(EPI:Expanded Programme of Immunization))」)及び無償資金協力(「母と子供の健康のための健康対策特別機材供与」)の枠組みでUNICEFとの協力を実施しています。具体的には日本が各種保健医療機材・ワクチン等を被援助国(当該諸国の実施能力が弱い場合にはUNICEF)に供与し、UNICEFが被援助国政府(主に保健省)に対し予算措置、人材育成等の指導を行うという、補完性を伴った協力を実施しています。いずれも、被援助国政府・国民及びUNICEFから保健分野における日本の貢献として評価されています。
また、教育分野においても、日本はバングラデシュにおける「地域別教育環境集中改善計画(IDEALプロジェクト:Intensive District Approach to Education for All)」に対する学校教材、各種研修・教員訓練のマニュアル等の購入に必要な無償資金協力(総額2億5,200万円)をUNICEFの協力を得つつ実施しています。さらに2003年9月に開催されたTICADIIIでは、マラリア撲滅、女児教育等の分野でのアフリカにおける日・UNICEF協力の強化が再確認されました。
コラムII-4 エチオピアにおけるポリオ根絶への支援
人道・復興支援分野においても、アフガニスタン、イラクなどで数々の支援をUNICEFと共に実施しています。2002年7月からはアフガニスタンにおける地域総合開発支援(通称「緒方イニシアティブ」)の枠組みで教育、保健医療分野における復興支援を3度にわたり実施(総額4,000万ドル、学校の修復や井戸の設置、栄養失調児への栄養剤供与など)しています。さらに、苦境に喘ぐイラクの子どもを救済するため、軍事行動開始以前から数次にわたりUNICEFを通じた支援を実施しています(総額約1,600万ドル、浄水場の破壊により深刻な水不足に直面したバスラ住民への飲料水供給や小学校の修復、学習用品の供与など)。
さらに近年においては、日本は人権分野における積極的な国際協力をUNICEFと共に展開しています。2003年2月には、東南アジア諸国で深刻化している児童の人身取引問題を討議するためのシンポジウムをUNICEFと共催で開催しました。その際日本は、UNICEFのミャンマー事務所がこの分野のプロジェクトを実施するための45万ドルを拠出しました。また同年8月には、一部のアフリカ諸国において根強く残っている、女児の健康を蝕み、その権利を侵害する伝統的悪習慣である女子性器切除(FGM:Female Genital Mutilation)を撲滅するためのシンポジウムをスーダン政府及びUNICEFとの三者協力によりハルツームにて開催し、同国政府、現地関係機関、NGO及び住民の理解を深めるとともに、本件問題の撲滅に向けた強い意志を喚起しました。また本件は、日本政府が途上国政府の具体的な人権状況改善に協力する初めてのプロジェクトとなった点でも画期的でした。日本は、UNICEFスーダン事務所に同シンポジウムの開催経費及び同問題の撲滅プロジェクト実施への支援として45万ドルを拠出しています。日本は、このイニシアティブがスーダンのみならず同様の習慣を持つ周辺諸国にも波及し、撲滅に向けての動きが広がるなどの良い影響をもたらすことを期待しています。
このようにUNICEFとの協力形態は、開発、人道・復興、人権と多岐にわたっており、この広汎な協力を裏付けるかのように、UNICEF本体への任意拠出金を含む2002年度の日本政府の拠出総額は1億1,806万ドルと過去最高額(世界第2位)に達しました。日本は、今後もUNICEFを強力なパートナーとして、各分野での協力を積極的に推進していく考えです。