わが外交の近況
上巻
1974年版(第18号)
外務省
昭和49年版「わが外交の近況」(外交青書)の刊行にあたって
1973年は,ヴィエトナムおよびラオス両和平協定の成立という,アジアの平和にとつて記念すべき出来事をもつて始まりまし た。しかし他方,第4次中東戦争の勃発と,これを契機とする石油危機は,世界全体に大きな衝撃を与えました。
今日の世界は,大きな地殻変動の只中にあると申せます。米ソ,米中関係を中心とする緊張緩和の動きが進む一方,世界情勢 は多様化し,複雑化しており,既存の国際秩序をもつては律し得ない情況になつております。しかも世界各国が相互依存の網目によつて深く結ばれているにもかかわらず,それを支える枠組や相互の信頼関係がむしろ弱まる懸念もなしとしません。その結果,各国は内外に種々の不安定要因を抱えており,多くの国に政局の不安定を招き,ともすると,国際協調よりは,内政的顧慮や目先きの自国の利益を主張する傾向が出勝ちなことも見逃せません。
今日の世界が挑戦を受けているエネルギー・資源,食糧,通貨,インフレーション・開発途上国の人口や貧困,人間環境の保全,海洋等の諸問題のどれをみても,一国ないし少数の国のみの努力によつては解決不可能な問題であり,自己の利益のみを節度なく主張してはかえつて不利益を招くこととなりましよう。
特に,わが国は,その平和と繁栄が,国際社会の安定と平和および各国との自由な交易,交流に依存するところが大きいだけに,節度ある内政の推進と併せて,世界各国との間で調和のある共通利益を求めて協力することにより,長きにわたる国益の確保を見出す必要があります。このような基本方針に基づいて,わが国は,洋の東西を間わず,南北の垣根を越えて広く精力的な外交を展開しております。その際心すべきは,わが国の経済活動の裾野が,世界的規模に拡がつているだけに,一方において世界各地の出来事が,わが国に直接間接の影響を及ぼし,他方において,わが国の一挙手一投足が,世界各国の経済その他の分野に大なり小なり影響を与えていることであります。従つて,わが国は,世界の各国各地の実情を正しく把握し,その立場と利害を十分理解して,互恵と互譲の精神をもつて,諸国民との間の調和ある連帯関係を作り出すべく一層の努力を尽くさなければなりません。
わが国は,資源にはめぐまれませんが,優れた国民の資質と産業,技術にめぐまれております。この貴重な力こそ,わが国の多角的な外交の展開を支える基盤であり,これをいかに賢明に活用するかに,わが国の未来と世界の期待がかかつていると申せましよう。
昭和49年版「わが外交の近況」は,昭和48年中の世界情勢の推移を,主としてわが国との関連で把握し,その中で外務省が行つた外交活動を中心にわが外交の歩みをとりまとめました。
国民各位のわが国外交に対する御理解を深める一助となれば幸いであります。
昭和49年7月
外務大臣 大 平 正 芳
上 巻 目 次
第1部 総 説 第3章 わが国の行つた外交努力
第2部 各 説 第1章 国際経済関係 第2章 経済協力の現況 第3章 国連における活動とその他の国際協力 第4章 情報文化活動 第5章 各国の情勢およびわが国とこれら諸国との関係 第6章 邦人の渡航,移住およびその保護 第7章 その他の外交機関の活動
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