-食糧問題-
第5節 食 糧 問 題
1 72年の異常気象に端を発する世界的な食糧需給のひつ迫は,73年における各国の一般的に良好な収穫により漸次緩和の方向へ向うものと見られた。しかし,73年における在庫の取りくずしが大きかつたため,需給はひつ迫気味に推移した。
2 食糧問題を世界的視野から見れば,開発途上国の食糧増産をはかることが国際的な食糧需給の安定に寄与することはいうまでもなく,わが国は,このような認識に立つて,昨年4月東京で開催された第29回国連アジア極東経済委員会(エカフェ)総会をはじめ,第8回東南アジア開発閣僚会議,国連食糧農業機関(FAO),国連総会などの場で,これら諸国の農業開発の推進に積極的に協力する意向を表明した。また,自然災害などの場合の食糧援助についてもできるかぎりの協力を行なつた。
3 農産物貿易問題は,GATTの多角的貿易交渉の重要問題の一つである。同交渉の目的は,73年9月の「東京宣言」にうたわれているように,工業品,農産物の双方にわたり関税,非関税障壁などを軽減,撤廃することにより,世界貿易の一層の自由化と拡大を達成することにあり,農産物についてはこの一般目的に沿いながら農業分野の特殊性や特別な問題にも考慮を払うことになつている。さらに,72年後半以降の農産物需給のひつ迫,価格の高騰は,73年の米国などによる農産物輸出規制の現実化に端的に示されたように農産物国際貿易に大きな影響を与えている。このため,同交渉においても本年2月以降,最近の農産物需給変化の分析や問題点の究明に取組んでおり,さらにこの問題にいかに対応し,これを交渉アプローチにどのように反映させてゆくかについても検討が行なわれることとなつている。
4 (1)このような動きのほか,国際的な食糧需給のひつ迫を背景として,昨年6月パーマFAO事務局長は同理事会にて「世界食糧保障構想」と題する提案を行つた。同構想は,世界的規模の食糧不足に備えて各国が一つの枠組の下に常時必要最小限の在庫を確保しようとするもので,その骨子は(イ)食糧の最小安全水準の基本概念の確立(ロ)在庫水準検討のための定期協議(ハ)在庫政策に関するガイドラインの確立(ニ)開発途上国の食糧在庫確保のための先進国の協力,の4点よりなつている。同構想は,昨年秋に開催されたFAO穀物政府間部会および商品問題委員会での検討を経て,同年11月の第17回FAO総会で検討された。総会では,わが国を含む各国は,最近の世界の穀物需給関係のひつ迫にかんがみ,この提案は時宜を得たものとして原則的支持を表明した。さらに世界の食糧需給の安定のためには,この提案の構想と並んで,開発途上国の食糧増産のための援助,商品協定,二国間貿易協定の拡充強化が必要であるとする意見,食糧備蓄は各国がそれぞれの責任において保持すべきであるとする意見,国際的ガイドラインにもとづいて各国が備 蓄を行なうにしても各国は平等な責任を分担するべきであるとする意見,など種々の意見が表明された。結局,総会は,この構想を具体化するため,各国が行なう備蓄のあり方に関するガイドラインを定めることとしたが,このガイドラインをいかなる内容のものにするかについては一層きめ細かな検討を要することを認め,このための作業を行う作業グループを設けることを決定した。同グループの作業結果は追つて各国政府の検討を求めるため送付されることとなつた。
(2)他方,同年9月第28回国連総会においてキッシンジャー米国務長官は,適切な食糧供給を維持するための方法を検討し,天災から生じる飢餓と栄養失調に対処するためにすべての国の努力を結集することを目的として74年に国連主催の「世界食糧会議」を開催することを提案した。これを受けて第55回国連経済社会理事会(ECOSOC)はFAOを始めとする国連の関係機関に世界食糧会議開催について検討するよう要請した。第17回FAO総会は,世界食糧会議の討議事項,運営方法等について討議した後,FAOの世界食糧会議に関する考え方を決議として採択,これを報告書の形にまとめ,ECOSOCに提出した。この決議は,世界食糧会議が74年11月,ローマで閣僚レベルで開催されることが望ましく,また,討議事項としては(イ)開発途上国の食糧生産,消費,貿易の拡大のための措置(ロ)世界の食糧需給を安定的に保障するための措置(ハ)国際農業調整促進のための方策などを検討することを示唆している。FAO報告はECOSOCでの審議を経た後,同年12月第28国国連総会第2委員会の討議に付された結果,世界食糧会議を74年11月に開催すること,そのための第1回準備会議を74年2月11日から開催することなどが決定された。
(3)このほか,OECDにおいても農業委員会など農産物の輸出規制問題や需給事情につき検討が行われた。(なお,国際小麦協定については別項参照)