-世界経済の調和的発展への貢献-

 

第2節 世界経済の調和的発展への貢献

 

1. 73年は,経済面においても多事多難な年であつた。世界各地における同時的なインフレの進行,主要国通貨の変動相場制移行,食糧危機さらに10月のOAPEC諸国による供給制限発表以来いわゆる石油危機が各国経済に極めて深刻な影響を与えた。今後の課題は,これらの激動により混迷状態に陥つている国際経済にいかにして新しい秩序を樹立し調和ある発展への途を探るかにある。

 わが国は重要な資源や食糧を海外に大きく依存しているため,世界経済の動向から決定的影響を蒙らざるを得ないが,他方,わが国は極めて大きな経済力を有するため,その経済政策や経済動向は世界経済のあり方に直接的なかかわり合いを持つている。従つて,わが国は,国際社会全体の安定した繁栄を追求し,世界経済においてその経済力にふさわしい役割を果すとの立場を堅持しており,国際経済の諸問題を扱う国際的協議において,世界経済の安定した発展を達成すべく積極的に貢献している。

 最近の国際経済の動きを通じて特徴的な変化は,貿易,通貨のように伝統的国際経済問題に加え資源,エネルギー問題,食糧,国際投資,インフレの国際的伝播等従来の国際経済ルールでは到底律し切れない新らしい問題が出現し,しかも,これら国際経済の諸問題が相互密接に関連していることである。例えば世界的インフレの昂進は国際通貨に動揺を与え,ドルの通貨価値下落がOPEC諸国による原油価格の値上げ要因の一つとなり,他方,石油危機は各国の国際収支にインパクトを与え,これが通貨情勢における新たな変動要因となつている。

 国際経済のもう一つの特徴的な傾向は近時各国経済の相互依存関係が緊密化するに伴ない,国内経済政策が対外的に影響を及ぼす度合が強まり,経済政策を国内政策と対外政策に区別することは最早困難になつてきていることである。従来国内経済問題とされていた諸分野にまで国家間の政策協議の必要が生じつつあるからである。

 従つて,わが国の経済外交は広範囲に及ぶ経済諸分野の複雑な相互連関を常時総合的に把握するだけでなく,国内政策との調和をも勘案した上で,二国間,多数国間の交渉を通じ,今後も一層世界経済の調和ある発展に貢献しつつわが国経済が長期的に,安定的な発展を確保するという困難な課題にとりくまねばならない。

2. 73年中最大の問題となつた石油危機に関連して,わが国は資源保有国との関係で,これらの国が直面している国造りへの熱意および石油涸渇説に対する不安感に深い理解を示しつつ,人的,文化的交流を通じ幅広い友好協力関係の増進に努めた。また石油問題の根本的解決のためには,石油生産諸国と石油消費諸国との間に調和ある関係が作られることが緊要であるとの基本的態度に基づき,74年2月米政府提案のワシントン・エネルギー会議に臨んだ。このようなわが国の考え方は,会議全体を通じて参加各国の十分な理解を得,コミュニケにもその趣旨が反映されている。

 わが国は同会議で産油国,消費国間の「対話」をできるだけ早期に開始することが緊要であるとの観点から,このための準備を主な任務とする調整グループの設置に賛成した。同調整グループは,すでに数回の会合を重ねてい る。ワシントン会議を契機とし,関係諸国の努力により問題を解決しようという動きが,一応の方向づけを与えられたことから,わが国としては,石油生産国と石油消費国との間に調和ある関係を構築するため,関係国とも協議 しつつ,積極的に貢献している。

3. 通貨面でも73年は激動の年であつた。年初における全欧州の通貨危機を契機として米ドルの再切下げからさらに円を含む主要国通貨の変動相場制への移行によつてスミソニアン体制は終焉した。他面,石油危機は各国の国際収支に対し従来とは全く異なつた重大な影響を与え,産油国保有外貨の増大傾向は新通貨体制のあり方,ないしその運用にも影響を及ぼすとみられ,新国際通貨制度草案作成の作業にも困難な事態が予想される。しかし,わが国は前記の基本的立場から,このような激動期にこそ安定した通貨秩序の早期確立が必要であるとの認識に立ち,国際通貨改革の協議に積極的役割を果してきた。

4. 通商面でわが国は73年9月のガット総会において,自由で開放的な経済体制の下での貿易の一層の拡大の必要性を訴え,新国際ラウンドの発足を告げる「東京宣言」採択のため米国,EC等各国間の意見調整に努めた。これは世界経済秩序の樹立に貢献しようとするわが国の積極的な立場を反映するものである。

 石油危機により世界的不況の傾向が一層強められることになれば,国によつては国内産業優先の観点から輸入制限等保護主義的な動きが出てくる恐れがある。貿易立国を国是とするわが国は,このような時にこそ自由貿易の旗印を高く掲げて,世界経済秩序を維持,強化する必要がある。

5. 食糧に関しては,73年の米国の大豆をはじめとする食糧の輸出制限がわが国にも衝撃を与え,世界的に食糧危機感が深まつた。しかし,73年の世界の食糧生産は記録的高水準となり,74年の作柄も良好という予測も出始めていることから,食糧の需給状況は改善され,食糧危機は一応鎮静化しつつある。

 しかしながら食糧価格は依然として高水準を維持しており,特に世界の食糧備蓄水準が極めて低く,食糧問題にはなお紆余曲折が予想される。

 このような背景のもとに開催される世界食糧会議や,ガットの多角的貿易交渉において,わが国は必要とする食糧の長期的な安定供給の確保を図るとともに,さらに広く世界の食糧問題解決のために応分の寄与を行うことが必要である。すなわち,わが国のみならず,世界の食糧の備蓄問題についてはいかなる態度で臨むべきか,開発途上国の農業開発援助についてはどうあるべきかなどについて新たな角度から検討する必要に迫まられている。

 

 

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