-南北問題解決への寄与-
第3節 南北問題解決への寄与
1. 南北問題の解決は人類の福祉の向上と新しい豊かな世界文明への展開のために不可避の問題であり,現代世界の直面する最大の課題の一つとなつている。また,その解決への取組みかた如何が後世の歴史の方向に大きな影響を与えるという点で,歴史的な意味をもつている。
過去四半世紀にわたりこの問題解決のために続けられてきた開発途上国の自主的な努力と先進国の協力は,決して満足すべき成果をあげるに至つていない。四半世紀を経た今日も,先進国と開発途上国との間の格差は依然大きく,開発途上国側は発展のための離陸の困難に悩み,他方先進国側にも過去の開発の成果についての失望感と今後への疑念が少なくない。南北問題の解決のための先進国の援助活動は単なる慈善事業としてではなく,国際社会全体が自らの未来のために負つている歴史的使命であるとの認識のもとに推進すべきものである。今日の世界経済は,昨年来の石油危機によつてあらためて浮彫りにされたとおり,貿易,投資,資源,環境その他あらゆる面で相互依存関係に立つている。換言すれば,世界経済全体の発展は,相互依存関係の強化によつてのみ可能であり,南北問題の解決も,常に世界経済全体の展開の中で考えられていかねばならない。
2. わが国は,上述のような基本的認識のもとに,南北問題解決のための国際的努力に積極的に参加してきた。これを経済協力についてみれば,72年におけるわが国の開発途上国に対する経済協力(資金の流れ)総額は2,725.4百万ドル(支出純額べース,以下同じ)で,71年以来米国に次ぎ第2位であつたが,昨年は5,844.2百万ドルとなり,前年に比べ実に114.4%の飛躍的増加をみた。総額の対GNP比においても,72年の0.93%から一挙に1.42%となり,1%の国際目標を大きく上回つた。また,政府開発援助(ODA)は,72年に611.1百万ドルであつたのが,73年には1,011.0百万ドルと65.4%の大幅な増加を示し,対GNP比では72年の0.21%から0.25%へと増加した。このような増加の要因は二国間贈与が170.6百万ドルから220.1百万ドルヘ,直接借款が307.2百万ドルから545.1百万ドルヘ,また国際機関に対する出資・拠出等も133.3百万ドルから245.8百万ドルヘと,それぞれ大きく伸びたためである。
二国間贈与のうち,技術協力は前年の35.6百万ドルから73年は57.2百万ドルに増加したが,政府開発援助に占める割合は依然として5.7%にとどまつた。なお,国際機関を通ずる援助は,前年より84%の大幅な伸びを示し,その政府開発援助に占める割合は24.3%と,前年に引続きピアソン報告の勧告する20%水準を超えた。
援助条件については,73年にわが国が約束した政府開発援助全体のグラント・エレメント(GE)は68%で,前年の61%より改善をみた。一方,円借款(債務救済を除く)の平均条件は,償還期間24.3年,据置期問7.7年,金利3.55%,グラント・エレメント48%であり,前年の実績(それぞれ20.4年,6.2年,4.13%,GE43%)に比べかなり改善された。さらに,援助の質の面での大きな問題としてアンタイイングがあるが,わが国はその積極的拡大に努力する旨累次表明してきており,73年中に6件のアンタイド借款の供与を約束した。
なお,わが国の二国間経済協力をその対象地域からみれば,従来アジア地域に圧倒的な比重がおかれ,72年には総額の54%,政府開発援助では実に98%を占めていたが,73年には総額において39%とその第1位の地位を中南米(46%)に譲り,政府開発援助においても88%と前年より10%低下し,他地域指向の傾向を示した。
以上のように,わが国の経済協力は量的には国力にふさわしい水準に到達しているが,内容的にはまだかなりの問題が指摘されている。とくに政府開発援助の量は,経済協力全体の僅か17%に過ぎず(前年は22%,DAC平均は44%),その対GNP比0.25%という実績も国際目標の0.7%に遠く及ばないのみならず,72年の国際水準である0.34%からも距りがある。また,政府開発援助の質的側面についても,贈与比率および政府借款の条件等の面で国際目標乃至国際水準に比べ立遅れている状況にある。
今後わが国は国際社会の重要な一員として名実ともにその国力にふさわしい協力を行なつていくためにも,さらに一層の努力を重ねる必要がある。
わが国は,他の先進国にその例をみないほどに通商,資源,投資その他多くの面で海外,殊に開発途上地域との関連が深い経済構造となつている。このことは,わが国自身の平和と繁栄は,世界各国との互恵友好の関係においてのみ可能であることを示している。わが国が,開発途上諸国の経済社会開発への努力に協力することは,これら諸国との互恵友好関係の維持強化につながるものであり,この意味からもわが国は今後とも真に相手国から感謝される協力を積極的に続けていかなければならない。