新聞・雑誌等への寄稿・投稿

「中央公論」平成20年6月号「外交最前線」より転載

感染症に立ち向かう世界基金

人間の生存と安全を脅かすエイズ、結核、マラリアの三大感染症。
その予防や治療に官民連携による世界基金が重要な役割を担っている。
世界基金の理事を務める山崎純外務省国際協力局参事官に、その活動や今後の展望を伺った。

ユニークな官民パートナーシップでの運営

エイズ、結核、マラリアは三大感染症といわれ、地球規模の問題となっています。実際、世界の現状はいかがでしょうか。

山崎●三大感染症は年間500万人もの命を奪い、多くの国で経済や社会の発展を阻害しています。近年は、エイズの母子感染、エイズと結核の重複感染、さらに薬の効かない耐性型の結核やマラリアの発生など新しい問題も起きており、その対応も急がれています。

エイズ、結核、マラリアの対策のための世界基金がありますが、その目的や活動についてお聞かせください。

山崎●世界基金は、2000年の九州・沖縄サミットでわが国が初めて感染症対策を主要議題に取り上げ、それがきっかけで2002年に設立されたもので、日本が生みの親と呼ばれています。その目的は、エイズ、結核、マラリア対策を大規模に効率よく進めるために資金を集め、必要とする地域へ配分することです。事業継続は実績を踏まえて判断しています。
 世界基金は、先進国と開発途上国の政府、民間企業や財団、NGOなどが一体になって意思決定や資金支援を行っており、国際機関も協力しています。21世紀型の官民パートナーシップといえるユニークな運営です。例えば、ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団は毎年1億ドルを世界基金に寄付しています。
 日本でも、2004年に世界基金の活動を支援・広報する支援委員会をいち早く設立しました。また、NGOが「ほっとけないキャンペーン」という募金活動を展開し、2006年に25万ドルを寄付しています。マラリア予防でも、日本企業が長期間殺虫効力のある蚊帳を開発しており、それが基金の支援事業で広く使われています。

136ヵ国で250万人の命を救う

世界基金のこれまでの成果と今後の課題はいかがでしょうか。また、日本の協力についてもお聞かせください。

山崎●世界基金ではこれまで、先進国以外の136ヵ国で524件の予防や治療事業などに約100億ドルの資金援助をしています。途上国での三大感染症対策への世界支援額のうち、エイズでは2割、結核とマラリアでは3分の2を世界基金が担っており、設立以来、すでに250万人の命が救われています。
 国際社会では今、15年までにエイズなどの感染症の蔓延を阻止し減少させる、という目標を含む国連ミレニアム開発目標(MDGs)に取り組んでいます。その目標達成に三大感染症だけで世界基金として今後3年間に150億ドルの支援が必要とされています。昨年9月、その資金確保のための拠出国の会合が開かれました。大半の国は拠出額を表明しましたが、日本は新しい誓約はできませんでした。今年は、第4回アフリカ開発会議(TICAD IV)やG8北海道洞爺湖サミットが日本で開催される年でもあり、これまでのその効果的な活動実績を踏まえ、世界基金に対して日本としてふさわしい協力を継続したいと考えています。

国際保健協力でメッセージを発信

TICAD IVやG8北海道洞爺湖サミットでも、わが国は感染症対策を主要議題の一つに取り上げて、国際協調を呼びかけていくということですが。

山崎●三大感染症対策はまだ道半ばです。引き続き取り組みを強化する必要があります。同時に、その効果をあげるには、他の側面への配慮も必要です。今年は国連ミレニアム開発目標の達成に向けた中間年にあたります。国際社会が決意を新たにし、国際保健分野の状況改善に向け取り組むべき時です。感染症対策を支える保健システムの強化、中でも人材育成、また母子保健対策などにもバランスよく取り組む必要があり、多くの国々、多くの分野の人々と幅広く意見を調整しながら、TICAD IVやG8北海道洞爺湖サミットに向けたメッセージを発信していきたいと考えています。

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