演説

1951年難民の地位に関する条約採択60周年及び
日本の難民条約加入30周年記念シンポジウム
「~明日へのチカラ,どうする日本~」
山根外務副大臣挨拶
(2011年11月17日,於:国連大学本部ウ・タント国際会議場)

(写真)1951年難民の地位に関する条約採択60周年及び日本の難民条約加入30周年記念シンポジウム「~明日へのチカラ,どうする日本~」山根外務副大臣挨拶(2011年11月17日,於:国連大学本部ウ・タント国際会議場)

御列席の皆様,こんにちは。

 このシンポジウムの開催に際しまして,外務省を代表して,御挨拶申し上げます。

 我が国は,「人間の安全保障」を,外交政策の柱の一つとしており,そのための取組として,人道支援に積極的に取り組んできています。「人間の安全保障」は,様々な脅威にさらされている人間,一人一人に着目し,人々が,恐怖や欠乏から免れ,尊厳をもって生きることができるような社会づくりを目指そうというものです。

 我が国は,東日本大震災を経験したことで,いまあらためて,人間一人一人の生存と尊厳を確保していくことの重要性を噛みしめております。同時に,震災に際して,世界中から温かい御支援と激励をいただいたことで,自然災害や紛争,迫害,貧困に苦しむ世界の人々を支援していくことの重要性を,再認識しているところであります。

 2010年末時点で,世界には,4300万人を超える難民や国内避難民がいると言われています。これらの人々に対する支援は,まさに「人間の安全保障」の考えを実践する場であります。

 我が国は,難民の方,一人一人について,脅威から守るだけではなく,それぞれの方が持つ豊かな可能性を実現できるような,能力の強化も重視しています。

 このような我が国の難民支援にとって,UNHCRは重要なパートナーです。我が国は,UNHCRに対して,米国についで世界第二位の拠出を行っています。

 我が国は,古くから,難民支援に取り組み,UNHCRと協力してきました。UNHCRへの拠出を通じた難民支援を開始したのは,1967年です。そして,我が国が難民問題とのかかわりを急速に深める契機となったのが,1970年代半ばの,インドシナ難民の大量発生です。

 1981年,我が国は,「難民の地位に関する条約」に加入しました。外務省は,難民条約上の保護措置以外に,難民認定申請者のうち,生活困窮者に対し,生活費や住居費などの保護費を支給しているほか,難民と認定された方々が,日本社会に円滑に定住できるよう,定住支援事業や,各種相談事業を実施しています。

 今までに我が国は,約1万1千名にのぼるインドシナ難民を受け入れました。彼らの中には,「インドシナ難民として日本に受け入れられてから今日までに受けた支援に対する恩返し」として,東日本大震災の被災者支援に駆けつけた人々がいると聞いています。

 2010年からは,3年間のパイロットケースとして,第三国定住による難民の受入れを開始し,タイ国内のメーラ・キャンプに滞在するミャンマー難民を受け入れることとしています。本年9月には,既に第二陣が入国し,現在,約180日間の「定住支援プログラム」が実施されているところです。

 日本政府としては,今後も,UNHCRの協力を得つつ,アジアで初となる第三国定住を成功させ,日本の取組が他のアジア諸国にも広がるよう努力したいと考えております。

 もちろん,難民問題は,アジアにとどまりません。現在でもアフガニスタン難民,ソマリア難民等の問題が,国際社会にとっての大きな課題となっています。これらの地域では,紛争,暴力が続いており,人道支援要員の安全確保も課題となっています。

 先日も,アフガニスタンのカンダハールにおいて,自爆テロ・襲撃が発生し,UNHCR職員も犠牲になるという,痛ましい事件がありました。犠牲となった方々にあらためてお悔やみを申し上げると共に,自らの命を危険にさらしながらも難民支援に尽力するUNHCR職員の方々に,心から敬意を表します。

 東日本大震災に際して国際社会より多大な支援を頂いたことは,これまで我が国が行ってきた人道支援に対する評価の表れであります。私自身も,外務副大臣に就任してから,ハイチ,南スーダン,トルコと,紛争や自然災害の痕跡が生々しい国々を相次いで訪問しましたが,どこに行っても,「日本は忍耐強く,必ず約束を守る国だ」という高い評価を頂いております。「これまで日本が世界に対して行ってきたことは間違っていなかったのだ」という思いを強くいたしているところでございます。

 いま我が国は,未曾有の災害からの復興に尽力している最中です。しかしながら,日本の人道支援に対する姿勢が揺らぐことはありません。引き続き,UNHCRを主要なパートナーとして,世界の難民問題の改善を含む人道危機に,積極的に対処して参りたいと思います。

御静聴ありがとうございました。