演説

山花外務大臣政務官演説

第29回日本メキシコ経済協議会
山花外務大臣政務官挨拶
「日墨EPAの下での協力及び貿易の拡大」

平成23年2月22日

(冒頭)

 御列席の皆様,外務大臣政務官の山花でございます。本日は,このような貴重な場において,日本政府を代表して御挨拶させていただくことを光栄に存じます。こうした機会を設けていただいた皆様に,厚く御礼申し上げます。

 第29回日本メキシコ経済協議会が開催されますことをお喜び申し上げるとともに,この協議会開催に当たり御尽力された日本経団連及びメキシコ国際企業連盟(COMCE) に対しまして深く敬意を表します。また,本日はこのあと,カルデロン大統領が御出席される予定と伺っております。大統領を始めといたしまして,こうしてメキシコ政府の重要閣僚にも御臨席いただいておりますことは,メキシコが日本との経済関係の強化に高い関心を抱いていることの証左であると認識しており,大変心強く感じるとともに,心から感謝申し上げます。

 この機会に,私からは,現在日本政府が進めている経済外交,その中でメキシコが有する重要性,そして,EPAを中心とした日本とメキシコの経済関係について,お話しさせていただきたいと思います。

(経済外交の推進)

 皆様御案内のとおり,現在の世界経済におきましては,新興国経済が急速に発展するなど,構造的な変化が生じております。日本は,こうした変化を踏まえまして,これまでにも増して経済外交の推進に力を注いでいるところであります。

 いま申し上げました新興国,あるいは資源国などもそうですが,日本とそうした国々との経済関係は,相互にWin-Winとなるように深化させ,共に成長していくことが重要であります。日本政府といたしましては,こうした認識の下,「国を開き」,「未来を拓く」ための決意を固めまして,世界の主要貿易国との間で高いレベルの経済連携を進める方針です。特に,メキシコを含むアジア太平洋地域は,日本にとって戦略的に重要な地域でございます。「日本と切れ目のないアジア太平洋地域」の形成を目指して,日本は現在,環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への参加を検討するため関係国との協議を行うなど,「国を開く」ための具体的な取組を開始しております。

 また,以上申し上げましたEPA・FTAの推進に加えまして,資源・エネルギー・食料の安定供給の確保,インフラの海外展開,また,観光立国の推進にも力を注いでおります。

 こうした経済外交の諸課題は,いずれも,メキシコとの間でこれまで積極的に推進し,また,今後ますます力を入れて取り組むべき施策と合致しております。メキシコは,日本が経済外交を展開する上で極めて重要なパートナーであると言えます。

(特別な友好国としてのメキシコ)

 思えばメキシコは,これまでも常に,日本にとって重要な国であり続けてきました。過去の歴史を振り返れば,様々な重要な局面で,日本にとって「初めての経験」がメキシコとの間であったことが少なからず見られます。

 明治維新の後,日本の関税自主権が認められる形で,対等な修好通商条約が締結された最初の国はメキシコでした。また,これを契機に,日本から初めて大規模な海外移住が行われたのもメキシコでした。こうした伝統は,近年に至るまで受け継がれております。日本が,農産品の市場アクセス,また,先進的な自由化ルールの導入に踏み込んだEPAを最初に結んだ相手も,やはりメキシコでした。

 一方,メキシコにとっても,日墨修好通商条約はアジアの国との最初の条約であり,また,日墨EPAはアジアの国との最初のEPAであったと承知しております。

 こうして,日本とメキシコとの間には,お互いの「初めての経験」を含めまして,長きにわたる協力関係を積み重ねてきた結果,特別な友好国としての強い絆が存在していると考えます。

 なお,「初めての経験」と言えば,外務大臣政務官に就任して以来,私が初めて訪問した国は,昨年12月にCOP16に出席するため訪れたメキシコでありました。私事になり恐縮でございますが,申し添えさせていただきます。

(日本経済にとってのメキシコの重要性)

 日本にとって特別な友好国であるメキシコでございますが,日本の5.2倍の国土に,1億人を超える人口を擁する国であります。特に,ここメキシコシティは,約2000万人の人口を誇り,東京と並び,世界最大規模の大都市圏を構成しております。また,世界経済危機の影響から逃れることはできませんでしたが,2010年には再び5%を超えるプラス成長を達成するなど,近年の成長を支えてきた経済の基盤は確固たるものとなりつつあると承知しております。こうした経済成長の結果,中産階級が増加しており,今後,内需の拡大が見込まれます。また,これに伴い,大規模なインフラ需要も見込まれます。このように,メキシコは非常に魅力的な市場であり,日本企業も高い関心を示しております。

 以上に加えまして,メキシコは,米国及びカナダとの間にNAFTA(北米自由貿易協定)を締結しており,また,EUや中南米の主要国ともFTAを締結しております。このため,グローバルに展開する日本企業にとりまして,メキシコは,生産拠点として戦略的な重要性を有しています。すなわち,メキシコが築いてきた自由貿易のネットワークによりまして,メキシコは日本にとって,「米州市場を中心とした世界の市場へのゲートウェイ」になっているのであります。

(日墨EPAの成果)

 このように,メキシコは日本にとって重要なパートナーであるわけでございますが,日本とメキシコとの間の経済関係の礎石となりますのが,2005年に発効した日墨EPAでございます。協定発効後,日本とメキシコの間の貿易・投資は飛躍的に増大しました。

 間もなく発効6周年を迎えようとしている現在,貿易総額は,発効前に比べて約5割も増大しております。品目で言いますと,日本からメキシコへの自動車,自動車部品等の輸出が大幅に増加するとともに,メキシコから輸入されるマンゴーやアボカドなどの農産品が,日本の食卓に並ぶようになりました。

 また,協定発効前後に日本の自動車メーカーや自動車部品メーカーがメキシコで新工場や販売会社を設立するなど,投資も活発化しました。こうした投資は,日本企業にとって利益となるだけでなく,雇用の創出や技術移転という形で,メキシコにとっても極めて有益なものであったと理解しています。

(日墨EPA再協議の実質合意)

 このように,日墨EPAは,発効以来,日本とメキシコの経済関係の緊密化に大きく寄与してきました。しかしながら,EPAというものは,定期的に見直しを行うなど,双方が努力して,日々より良いものにしていくことが重要であります。EPAは,再協議のメカニズムを内包しており,締約国の利益を極大化するため,常に「進化」を求めていく点で,ほかの多くの協定と特徴を異にしていると言えると思います。

 昨日,私は日墨EPAに基づく合同委員会の第6回会合に出席し,共同議長を務めました。合同委員会が開催されたのは実に2年ぶりのことでしたが,2008年以来精力的に続けられてきた日墨EPAの再協議が実質合意に達したことを確認いたしました。今回の合意により,日本側は自動車部品等の鉱工業品の輸出を,また,メキシコ側は牛肉,豚肉,オレンジジュース等の農産品の輸出を中心に,これまで以上に利益を享受できることになります。

 一方,今回の実質合意には,いまひとつ別の意義があります。今回の実質合意は,EPAが,「生きた」制度であり,絶えず「進化」していくものであり,両国の経済に更なる利益を生み出すことができるものであることを証明するものでありまして,極めて有意義なものと思います。

(日墨EPAを通じたビジネス環境の整備)

 昨日はまた,日墨EPAに基づくビジネス環境整備委員会の第5回会合にも出席いたしました。このビジネス環境整備委員会は,両国のビジネス環境を整備するための具体的な方法・手段について議論する場でありますが,御案内のとおり,政府の代表者に加えまして,民間の代表者も交えて開催することが通例となっております。今回のビジネス環境整備委員会におきましても,民間部門からの参加も得まして,民間部門の関心事項である治安対策,知的財産保護,税務・通関手続の円滑化などについて議論いたしました。

 その結果といたしまして,例えば,治安対策について,メキシコにおいて犯罪が依然減少しておらず,日本からの投資の減少につながりかねないとの指摘を受けまして,外国人居住地域やオフィス街における警備の強化などが勧告されました。また,知的財産保護について,個別企業からの申立てがなくても,メキシコ政府が能動的に模倣品を取り締まる体制を強化すべきとの勧告がなされました。

 民間部門の代表者をも交えた協議を行うことを通じまして,日墨EPA発効以来,今日に至るまで,両国におけるビジネス環境は確実に改善されてきております。こうした実績も,日墨EPAが「生きた」制度であることの証左であると言えると思います。

 皆様ご存じかもしれませんが,昨年11月に世界銀行が発表した「ビジネス環境ランキング」におきまして,メキシコは中南米諸国の中で最高位にランクされております。ビジネス環境整備委員会を通じた地道な取組と無関係ではないと思われます。今後も,ビジネス環境整備委員会の枠組みを用いながら,両国におけるビジネス環境がより望ましいものとなり,二国間の貿易・投資が更に活発なものとなるよう,共に努力を続けていくことを,皆様に呼びかけたいと思います。

(日墨EPAの下での協力)

 もう一点,日墨EPAの下での二国間協力についても言及しておきたいと思います。日墨EPAの下で,これまで様々な協力が行われてきましたが,協力が行われている分野は,貿易・投資促進,裾野産業,中小企業,科学技術,職業訓練,知的財産,農業,観光,環境など,極めて多岐にわたっております。また,協力の手段も多様でございまして,日本は,JBICによる融資,JICAによる協力,JETROによる事業,大使館を通じた情報交換など,官民連携して多様な協力を行っております。

 日墨EPAの下での協力について,ごく一例を御紹介いたしますと,日本はメキシコに対し行っている支援として,メキシコ石油公社(PEMEX)による石油ガス田開発のための国際協力銀行(JBIC)からの融資,家電やプラスチックといった裾野産業における生産管理や経営の指導,中小企業コンサルタントの育成,メキシコ税関と日本大使館及び日本企業との知的財産に関する定期協議の開催などが挙げられます。

 こうした取組も日墨EPAの枠組みの下で行われているという点で,日墨EPAは,関税撤廃等に特化したFTAと比べより包括的なものであり,多様で複合的な二国間関係の構築に寄与するものであると言えると思います。

(おわりに)

 本日の日本メキシコ経済協議会では,インフラ整備,農業ビジネス,観光振興といったテーマについて,両国官民の重要な関係者の出席を得て議論が行われます。先に述べましたとおり,これらのテーマはすべて,現在日本が進めている経済外交の主要な柱となっております。日墨双方の経済界にとって実り多い議論が行われることを期待いたします。

 今回の日本メキシコ経済協議会が,既に緊密な日本とメキシコの経済関係をより一層深化させるものとなることを祈念して,私からの挨拶とさせていただきます。


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