演説

山花外務大臣政務官演説

ヒューマンライツ・ナウ主催シンポジウムにおける山花外務大臣政務官挨拶

(平成22年12月9日(木曜日),於:青山学院大学)


 外務大臣政務官の山花郁夫でございます。本日は,ヒューマンライツ・ナウが,明日12月10日の「世界人権デー」を記念して行う個人通報制度に関するシンポジウムに御招待をいただき,ありがとうございました。本日のシンポジウムの開催にあたり,一言ご挨拶申し上げます。

 本日のシンポジウムは「今こそ人権条約機関への個人通報制度の実現を」というテーマの下,人権諸条約に設けられた個人通報制度を取り上げ,我が国が同制度を受け入れるための条件や我が国が同制度を受け入れる意義といった問題について,突っ込んだ議論をされるものと承知しています。私は,国会議員としても個人通報制度に以前から大きな関心をもっており,人権諸条約の実施の効果的な担保を図るという趣旨から,注目すべき制度であると考えています。現在,政府は,このような意義を念頭に置き,各方面から寄せられる意見も踏まえつつ,個人通報制度の受入れの是非について真剣に検討を進めているところです。

 我が国による個人通報制度の受入れについて考えるとき,戦後の国際的な人権保障に関する取組の発展の流れの中からこの問題を考えることが重要です。さきほど12月10日は「世界人権デー」と申し上げましたが,これは,世界人権宣言が採択された1948年12月10日を記念して,1950年の国連総会において,毎年12月10日を「人権デー」として世界中で記念行事を行うことが決議されたことによるものです。戦後の国際社会は,人権及び基本的自由の尊重を国連の目的の一つとして掲げ,世界人権宣言の採択や人権諸条約の作成等を通じて,世界の人権問題や国際的な人権保護の促進といった課題に積極的に取り組んできました。

 国際社会は,人権諸条約の作成にとどまらず,これら条約の実効性を確保する制度の構築にも力を入れてきました。例えば,各国がお互いの人権状況を審査する人権理事会の普遍的・定期的レビュー(UPR)や,人権条約締約国がその条約の実施状況を定期的に報告し,委員会の審査を受ける政府報告審査はその代表的な例です。

 国際社会において人権保障の取組が強化される中で,我が国は,自由権規約,社会権規約等の主要な人権条約を締結し,その誠実な実施に努めてきました。また,人権理事会を始めとする国連の場における議論や,二国間会談における働きかけ等を通じて,国際社会における人権の保護・促進のための取組を進めてきています。例えば,中国,イラン,EUといった国及び地域との間で人権対話を実施しており,双方の人権分野での取組や,国際場裡における協力のあり方等について,率直な意見交換を実施しています。

 このように人権を重視する我が国が,個人通報制度を受け入れる意義は何でしょうか。私は,大きく2つあると思います。第一に,個人通報制度を受け入れることによって国内の人権をめぐる議論を活発にすることです。我が国では,国内での人権をめぐる問題について自由な議論が行われ,それを通じて様々な改善及び変更がなされてきました。我が国が同制度を受け入れることは,我が国の人権をめぐる議論に国際的な視点を追加し,国内の議論を更に活発にするものだと考えています。また,第二に,我が国の人権尊重の姿勢を改めて内外に表明し,国際社会における人権保障の発展に貢献することです。個人通報制度は,人権諸条約の実施に関する国際的なフォローアップシステムの一つと位置づけられるものであり,我が国がそれを受け入れることは,世界の人権保障という観点から積極的な意義を有するものだと考えます。

 他方,個人通報制度を受け入れたとしても,委員会の見解や勧告に対する締約国による誠実な考慮といった実行が伴わない限り,個人通報制度は有益なものとはなり得ません。委員会の見解は法的拘束力を有さないものとされており,見解が我が国国内で何らかの法的効力を有したり,既存の国内判決を否定したりする効力を有するものではありませんが,各締約国が委員会の出す見解や勧告に対し,いかに誠実な考慮を払うかが重要です。そのような点を含め,政府では,個人通報制度の受入れの是非について,真剣な検討を進めているところです。

 また,個人通報制度の受入れには,より多くの国民の皆さんがこの制度を正確に理解し,その意義について議論していただくことが必要だと思います。本日のシンポジウムには,自由権規約委員会の委員長,女子差別撤廃委員会の委員として,国際社会において活躍し,他の国々に関して行われている個人通報の検討に加わっておられる岩澤先生,林先生も参加されております。このような個人通報の実務に携わっておられる方々からのご意見も含め,本日のシンポジウムにおいて,我が国の個人通報制度受入れの意義,受入れのために事前に準備しておくべきことといった問題について,活発かつ積極的な議論がなされることを期待しています。同時に,本日のシンポジウムのように,一般の方々も対象とした会合の開催等を通じて,国内の幅広い分野,レベルの方々がこの制度を意識され,この制度に関する正確な認識を深めつつ,活発な議論を行っていかれることを心から期待しています。

 最後に,本日のシンポジウムのご成功をお祈りし,私からのご挨拶とさせていただきます。

注:当日,政務官はビデオレターで挨拶を行いました。)



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