本日,「第22回国連軍縮会議 in さいたま」の開会に際し,日本国政府を代表して,御挨拶申し上げる機会を頂きましたことを,大変光栄に存じます。主催者である国連軍縮部及び国連アジア太平洋平和軍縮センターと,一昨年に続いて本会議を開催頂いた清水さいたま市長を始め,さいたま市の皆様の御尽力に深く感謝を申し上げます。また,世界各国からこの会議に参加されている皆様を心から歓迎いたします。本年で22回目の開催を迎える国連軍縮会議は,これまでも多くの成果を上げ,国際社会から高い評価を得ています。私の地元でもありますここ,さいたま市での開催は,一昨年に続き二回目となります。これは軍縮という大変重要なテーマに対するさいたま市民の皆様の関心の高さを表すものであり,さいたま市の一市民としても大変うれしく思っております。
昨年4月のオバマ米大統領によるプラハ演説以降,国際的な核軍縮の機運は大きく高まっています。本年に入り,この機運は米国とロシアによる新START条約への署名や,本日も御出席のカバクテュラン議長の下,5月にニューヨークで開催された核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議での最終文書採択という具体的な成果をもたらしてきました。また,先日執り行われました広島市原爆死没者慰霊式及び平和祈念式には,国連の潘基文事務総長や国際原子力機関(IAEA)の天野事務局長,また,米国を始めとする各国代表など,多数の出席を頂きました。このことは,長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典とも併せて,広島・長崎の地から世界に向けて,我が国国民の核兵器廃絶への願いをアピールする良い機会となったと考えております。
我が国は,唯一の戦争被爆国として,広島,長崎の惨禍を再び繰り返してはならないとの決意の下,「核兵器のない世界」の実現に向け,これまでも現実的かつ着実な外交努力を積み重ねてまいりました。一例として,1994年以降毎年我が国が国連総会へ提出している核軍縮決議案は,世界各国の圧倒的多数の支持を得て採択されています。決議案の提出を通じて,我が国は国際社会における核軍縮・不拡散の取組に適切な指針を与え,世界各国による着実な取組の実施に貢献しています。
本年正念場を迎えたNPT運用検討会議では,我が国は,オーストラリア政府と共同で核軍縮・不拡散措置に関する作業文書を提出したほか,IAEA保障措置の強化,技術協力,軍縮・不拡散教育の分野でも具体的な提案を行い,各国から幅広い支持を得ました。さらに,議場の内外で各国との連携や合意形成に向けた働きかけを精力的に行い,会議の最終段階では緊急閣僚声明発出を主導するなど,会議の成功に重要な貢献を果たしました。2005年の運用検討会議の失敗や北朝鮮・イラン等の核問題によって危機に直面しているNPT体制を救うために,大きな意義があったと考えています。
一方で,現在の国際社会は,北朝鮮やイランの核問題,核テロの脅威など,極めて困難な問題に直面していることも事実であります。先日,私はIAEAの天野事務局長の表敬を受け,これらの問題について議論したところです。北朝鮮による昨年の核実験実施やミサイルの発射,さらに本年3月に発生した韓国哨戒艦沈没事件といった行動は,国際社会全体の平和と安定に対する重大な脅威です。我が国としては,核問題,ミサイル問題や拉致問題を始めとする諸懸案の解決に向け,引き続き力を尽くしてまいります。また,イランに対しても,国連安保理やIAEA理事会の累次の決議を重く受け止め,国際社会の信認を得るべく適切な措置をとるよう,各国とも協調しながら働きかけを行っていく考えです。
先般のNPT運用検討会議での合意を着実に実施するためにも,我が国は,9月の国連総会の折に,志を共有する国の外務大臣にお集まり頂き,一つのグループを立ち上げるための会合を開催します。「核兵器のない世界」に向かって,当面は核リスクの低い世界の追求や,核兵器の数・役割の低減,あるいは不拡散に対しての具体的措置などについて,このグループの中で議論を深め,国際社会をリードしていきたいと考えています。我が国政府は引き続き,「核兵器のない世界」の実現に向けた機運の高まりを維持し,国際社会全体での取組を更に強化していくべく,たゆまぬ努力を続けてまいります。
このように国際的な取組を主導していく上で,我が国が率先して取り組んでいるテーマの一つが,軍縮・不拡散教育です。広島・長崎の経験を有する我が国には,被爆の実相を世界の人々,とりわけ次世代を担う若者に伝え,後世に受け継いでいくという使命があります。この分野では,各国の研究機関やNGOを含む市民の皆様もさまざまな取組を進めており,政府としても,これらの取組と十分に連携していくことで,相乗効果を発揮することができると考えます。その一環として我が国は,先に申し上げましたNPT運用検討会議において「軍縮・不拡散教育グローバル・フォーラム」の開催を提案し,国連大学と共に今年度中に開催することとしています。官,民,学,それぞれの知識・経験を集約し,1945年8月に生じた事実と真相を後世に伝えるために,共に考え,共に取り組んでいくための環境づくりに貢献したいと考えています。
改めて申し上げるまでもなく,このように軍縮・不拡散の分野を含む積極的な外交を推進していく上で,国民の皆様の理解と信頼を得ることは極めて重要です。こうした考えの下,外務省では,岡田大臣が就任時にお約束したいわゆる「密約」問題に関する調査を指示し,その結果,二つの報告書が作成され,また,前例のない規模で関連の未公開文書を公開しました。当時の状況については簡単に判断できるものではありませんが,この重要な問題が,これほどの長期間にわたり,国民の皆様に明らかにされてこなかったことは遺憾です。私は引き続き,現内閣においても,外交に対する国民の皆様の信頼を回復するべく全力を尽くしたいと考えます。
今回の「国連軍縮会議inさいたま」では,NPT運用検討会議の結果を検証するとともに,この会議の成果を現実的な行動へとつなげていくための方策について議論が行われると伺っております。我が国政府としても,NPT運用検討会議の最終文書で合意された行動計画の着実な履行が重要と考えており,今後NPT体制を維持・強化していくための課題や展望について,活発な議論が交わされることを期待いたします。併せて,北朝鮮や中東など地域の核兵器の問題やアジアにおける通常兵器の管理,また,市民社会との連携や軍縮・不拡散教育といった議題についても,幅広く取り上げられます。世界各国の様々な立場から,活発な意見交換がなされることを期待いたします。
最後に,今回の国連軍縮会議が,国際的な軍縮・不拡散の議論に大きく貢献するとともに,さいたま市の皆様,更には日本国民全体が軍縮・不拡散と平和の問題をより身近なものとしてとらえるための良い機会となるよう心から祈念し,私の挨拶とさせていただきます。
御清聴ありがとうございました。