演説

武正外務副大臣演説

グローバル・コンパクト・ジャパン・ネットワーク主催シンポジウム
企業における人権・労働への取り組み―グローバル・コンパクトの理念を生かして―
「人間の安全保障と企業の役割」 武正公一外務副大臣講演

平成21年12月10日
於:日本科学未来館

(写真)


 外務副大臣の武正公一でございます。本日は世界人権デーの機会に、「人」を中心に据えた企業の取組をテーマに、このシンポジウムが開催されますことを心より歓迎いたします。
 グローバル・コンパクト・ボード・ジャパンを率いる有馬議長のリーダーシップと、グローバル・コンパクト・ジャパン・ネットワークの参加企業・団体の皆さまの熱意ある取り組みに、日本政府を代表して敬意を表したいと思います。
 先ほど有馬議長から、このフォーラムに多くの企業・団体の参加をいただいているというお話も伺いました。今日はそういった企業・団体の皆さまにも足をお運びをいただいているものと思います。
 グローバル・コンパクト・ジャパン・ネットワークは先月も日中韓ラウンドテーブルを共催するなど、日ごろより国内外で活発に活動をされておりますし、『外交フォーラム』11月号には、有馬議長から「グローバル・コンパクト、10年目の挑戦」ということで示唆に富んだ貴重な提言をいただいていますこと、御礼を申し上げます。
 本日は経済界あるいはさまざまな関係各分野でご活躍の皆さまが一堂に会する場所で特別講演という機会をいただいたことに感謝を申し上げます。この機会に日本政府が重視し、国際社会において積極的に推進している人間の安全保障への取り組みを中心に、また8月30日に衆議院選挙があり9月16日に新しい政権が誕生して80日経過しておりますので、この新しい鳩山内閣における国連外交あるいは現下の国際情勢の中での企業の皆さまに期待する役割、また私が今担当しております経済外交まで含めて、限られた時間ですがお話をさせていただきたいと思います。

(地球規模課題の解決に向けた国連の役割)

 まず初めに、国際社会が直面する諸課題と国連及び日本の役割について触れたいと思います。3日前、月曜日にコペンハーゲンでCOP15が開幕いたしました。鳩山総理も参加する予定にしておりますし、オバマ大統領をはじめ各首脳が相集います。日本政府は、鳩山総理が国連演説で表明したように、前提として各国の参加ということも掲げながら、二酸化炭素90年比25%削減の旗を掲げているところでありますので、このCOP15で日本のリーダーシップを発揮していきたいと存じております。
 全世界の市民の皆さんの関心も高いということで、地球温暖化という人類の生存に対する脅威を克服するため、すべての主要国が参加をするこの場所で、わが国としても公平で実効性のある国際的な枠組みづくりに取り組んでいく必要があると考えます。気候変動問題にとどまらず、核軍縮・不拡散をはじめとする国際の平和と安全にかかわる問題、これは来年、NPT運用検討会議が開かれますが、今度こそ、合意形成をということも掲げているところでございます。
 そして、また世界経済・金融、アフリカをはじめとする開発問題、保健・感染症など課題は山積しております。このような問題は1つの国だけで解決されるわけではありませんので、どうしても多国間の合意形成あるいは国際的な努力を結集する必要がございます。
 そのために何よりも国連が大きな役割を果たしており、9月国連総会で鳩山総理からはそうした国連重視の姿勢、そして地球規模の課題解決に日本として積極的に取り組むこと、また、国連安保理の常任理事国入りについては日本として以前も手を挙げたわけでありますが、引き続きそのことを目指していくことも新しい内閣としても表明しております。そのためにも国連を活かし、国連の実効性と効率性を高めていく必要があり、国連改革ということも併せて取り組んでいく、あるいは安保理改革にも臨んでいく所存であります。

(人間の安全保障の重要性と我が国の取組)

 国連の下での取り組みで、わが国が特に力を注いでいるのが人間の安全保障の推進でありまして、世界は紛争・テロ・貧困・飢餓・地雷・麻薬・感染症など多様な脅威に直面をしております。これらの脅威は国境を容易に越え、相互に密接に関連しておりまして、人間の安全保障は一人ひとりがこれらの脅威のもたらす恐怖と欠乏から逃れ、尊厳をもって生きることのできるような社会、国づくりを目指す考えであります。そしてこのような国づくりを目指すためには政府、国際機関のみならず、企業の皆さま、あるいはNGOといった社会のさまざまな構成員の連携が必要不可欠だと思います。
 私の所属する民主党はマニフェストで「ひとつひとつの命を大切にする。他人の幸せを自分の幸せと感じられる社会をつくることを目指す」と掲げております。わたしたちの内閣、政権は人間の安全保障の推進と、まさに同じ方向を向いておりますので、この人間の安全保障を推進すべく国内外でこの概念の普及に努めるとともに、国連に設置いたしました人間の安全保障基金や二国間協力・国際機関支援を通じて平和構築や開発の現場で人間の安全保障の実践を主導してまいりたいと思います。

(企業に期待する役割、官民連携)

 次に国際社会の中で企業に期待される役割や、官民連携の必要性について述べさせていただきます。グローバル化した世界の営みの中で気候変動問題や持続可能な開発などの地球規模の挑戦は、国境を越えた企業の経済活動と不可分の関係にあります。いかなる経済活動も地球環境に影響を与えうると同時に、その影響を受けうる関係にあります。
 国際社会がグローバル化の進展に伴って顕在化したさまざまな課題に直面している今、経済活動の主体である企業は、その解決にあたって重要な一翼を担っております。その能力を十分に発揮することは国際社会の中で活動する企業の責任であると同時に、その企業が持続可能な経営を行っていく上で考慮すべき要素であろうと思います。
 では、実際に地球規模の諸課題の対応にあたって企業に期待される役割は何かということに付言をしたいと思いますが、途上国における開発問題との関係を挙げてみたいと思います。途上国における企業活動は、その国の経済成長に貢献するのみならず、地元における雇用の拡大、民間技術の移転、両国間での貿易・投資の促進などの開発効果をもたらします。途上国の民間セクターの成長は長期的に見れば途上国の貧困削減をもたらし、持続可能な開発を促進し、ひいては日本政府が目指す人間の安全保障の実現にも大きく貢献し得るものであります。
 さらに近年、CSR活動の一環として途上国における保健医療、教育、生計向上等の開発協力や環境保全等の分野で、企業による積極的な国際貢献が行われるようになってきたことを歓迎いたします。
 ちょうどこの間WTOの閣僚会議がジュネーブでありまして、私も岡田外務大臣が参加できなかったので行ってまいりました。赤松農水大臣と直嶋経産大臣も参加をしました。その中で、ラミー事務局長主催の後発開発途上国の皆さんを集めた朝食会がありまして、そしてドナー国も参加しました。
 そのときに「Aid for Trade」ということで、「貿易のための援助」を日本がやっていること、それをさらに強力に進めることも言ってきました。こうした途上国に対するしっかりとした支援が貿易投資の拡大につながるということに政府としては力を入れているところであります。
 グローバル化した社会で企業や市民団体が果たし得る役割を具体化して、人権・労働基準・環境・腐敗防止の分野で自発的な活動に反映させていくことを目的に始まったのが国連グローバル・コンパクトの取り組みであります。 アナン前国連事務総長が提唱して以来、今年で10年目を迎えるこの意欲的な試みは、世界中の企業・団体・労働組合・市民社会組織・国連機関などが参加するまさにグローバルネットワークに成長し、発展を続けております。
 今年10月には、OECDがこのCSRへの取組を進めるように、政府から企業に勧告するものとして作成した「多国籍企業行動指針」のさらなる推進に向けて、OECDとの連携強化に着手するなど、CSRの推進のためにさまざまなチャネルで取り組みが続けられております。
 先ほど「腐敗防止」という話が出ましたが、去年我が国はカンボジアとラオスとの間でそれぞれ二国間投資協定を結びました。その中に「腐敗防止」の条項がそれぞれ入っております。そういった規定が近年の我が国協定の中にも入ってきている、それをどうやって実効性あるものにしていくかということは政府間だけではできない相談でありますので、企業の皆さまの取り組みが必要だということだと思います。
 グローバル・コンパクト・ジャパン・ネットワークは参加企業、組織を着実に増やしながら、強化された体制の下で国連グローバル・コンパクトの理念を国内に広めるために積極的に活動に取り組んでおられます。有馬議長は冒頭でも触れました『外交フォーラム』への寄稿の中で、企業がCSRを単なる社会貢献やコンプライアンスとして企業防衛的に行うのではなく、企業の本業として真正面から取り組むことが、ひいては企業の競争力につながり利益の源泉になると指摘をされております。大変厳しい経済情勢の下でこそ、このような発想の転換が求められていると思います。
 日本政府が推し進める開発分野における官民連携の背景にあるのも同様の考え方であります。企業が途上国で行うCSR活動は、地元社会の開発を通して長期的で安定した事業展開につながるものと考えます。地元社会の人々に豊かで安定した暮らしがもたらされれば、そこで息の長い企業活動を展開することも容易となると思います。日本政府としては地元社会の開発に資する企業の活動と、政府主導のこの開発政策を有機的に結び付ける仕組みをつくり出して、途上国の持続可能な成長と企業の長期的な発展という相乗効果を生み出していきたいと考えております。
 12月7日及び8日に第1回の「日・アラブ経済フォーラム」が開催された。アラブ連盟参加の各国から、多くの方が初めて日本で一堂に会されて、日本政府、そして企業とのビジネスの話も含めて会議が行われました。アラブ連盟諸国からは教育、人材育成に対してのサポートという声が非常に強く出ておりました。日本では企業内教育ということをわたしからも紹介をさせていただきましたが、そうした企業での活動が、それぞれの途上国の人材育成や教育につながっていくのかなというふうに考えております。
 開発分野における官民連携は緒に就いたばかりで、今後も取り組みを強化していくためには成功例から学ぶことが必要であり、2つ例を挙げさせていただきたいと思います。一つはJICAと日本企業の連携において、ガーナ共和国におけるマスメディアを通じたエイズ教育啓発プロジェクトであります。ガーナでは近年若者のHIV新規感染者が増加傾向にあり、HIV/エイズ対策はガーナ政府の最重要課題の一つになっております。HIV/エイズをはじめとする感染症対策は国連のミレニアム開発目標の一つにも掲げられております。
 本年、国際協力機構(JICA)は日本企業から大型映像装置と映像の提供を受けまして、ガーナの若者たちを集めてサッカーの試合の無料放映を行うとともに、HIV/エイズに関する啓発・教育ビデオを上映いたしました。また、会場内でHIV検診を実施したところ、通常の受診者が約3倍に増加するなど、政府によるHIV/エイズ啓発活動に飛躍的な効果をもたらしました。政府の取り組みに企業のPR力が有効に活用された例だと思います。
 次に地雷除去活動における取り組みをご紹介させていただきます。紛争が終結しても多くの国で子供を含む一般市民が対人地雷により生命を脅かされ、平和で安定した国づくりを阻まれております。
 先ほど話をしましたWTO閣僚会合が開催されたジュネーブにはかつて国際連盟の本部があり、今は国連の会議場になっておりますが、その前には対人地雷禁止のキャンペーンの一環として大きないすのモニュメントがあります。そのいすの1本の足が半分折れており、対人地雷禁止をアピールする、そんなモニュメントもジュネーブのその丁度ど真ん中にあるということもご紹介させていただきます。
 政府はこの対人地雷の恐怖から人々を開放するために、日本企業と連携して地雷被害国のニーズに対応した対人地雷除去機の開発に力を入れてまいりました。既に複数の企業が地雷除去機を実用化し、軌道に乗せておりまして、カンボジアやアフガニスタンなど一日も早い復興が待たれる国々で、日本政府が支援するNGOとの連携の下、地雷処理作業に従事しています。地雷除去活動にとどまらず、地雷が除去された土地の農地開発や道路の補修など、包括的なコミュニティー開発のプロジェクトを支援する日本企業の取り組みは、個人とその個人が属するコミュニティーの能力強化に重点を置く、人間の安全保障の実現に大きく貢献するものであります。以上、2つの事例を紹介させていただきました。
 先ほど経済外交という話に言及しましたので、この点だけちょっと触れさせていただきます。来年、APEC アジア太平洋経済協力会議が、日本が議長国となって開催されます。また先ほど話をしましたWTO交渉でも、特に日本がリーダーシップを取っているのはサービス分野であります。
 昨今、アジアにおける中国やインドが非常に著しい経済発展を遂げていますが、それがなかなかアジアの中の日本の株価に反映をされず、なぜだろうというようなところがあります。日本企業が国内で、あるいは国外で非常に頑張って活動をされているその活動をもっとアピールをすべきではないか、もっとそういったことを伝えていく努力を、外務省としても経済外交あるいは対外広報としてやっておくべきではないかと、私は思っております。来年のAPECの会議や、いろいろな国際会議を日本が主導しますので、そういった時にもっとリーダーシップを発揮していくことが、ひいては企業が海外で活動する際にプラス効果をもたらすのではないのかなというふうに思っておりまして、そういったところも取り組んでいきたいということをお伝えをさせていただきます。

(結び)

 このような地球規模課題の解決において積極的な貢献を行う企業が増えてきたのも、国連グローバル・コンパクトの下でさまざまな取り組みが着実に実を結んでいる証しであると考えます。人や社会の豊かさを重んじるグローバル・コンパクトの理念は、鳩山総理が先の国会における所信表明演説でも述べました「人間のための経済」、総理の言葉を借りれば経済合理性や経済成長率に偏った評価軸で経済をとらえるのではなく、国民の暮らしの豊かさに力点を置いた経済、社会への転換を図るという考えと強く共鳴するものだと思います。
 グローバル・コンパクト・ジャパン・ネットワークは企業間のみならず大学やスポーツ団体などの連携も深められていると伺っております。今後とも市民社会に対する大きな波及力を活用して、持続可能な社会の実現という挑戦に立ち向かっていかれることを期待しております。
 日本政府としても、このネットワークの活動の発展を通じて政府・企業・市民社会の連携が一層強化され、地球規模の課題の克服、そして人間の安全保障の実現に向けて前進が見られるよう積極的に協力してまいりたいと思います。
 最後に言葉を結ぶにあたり、本日のシンポジウムのご成功と、グローバル・コンパクト・ジャパン・ネットワークのさらなる発展、会員の皆さまのご発展をご祈念して、私の講演を締めくくらせていただきたいと思います。ご清聴ありがとうございました。

このページのトップへ戻る
副大臣演説平成21年演説目次へ戻る