外務副大臣
平成20年11月19日
於:日本科学未来館
ご列席の皆様、
この度、グローバル・コンパクト・ジャパン・ネットワーク、国連環境計画・金融イニシアティブ
、NPO法人社会的責任投資フォーラム
の共催により、このように盛大なシンポジウムが開催されたことに、心よりお祝い申し上げます。
また、グローバル・コンパクト・ジャパン・ネットワークが、2003年の設立から今日に至るまで、積極的な活動を展開されてきたことに敬意を表したいと思います。本年春の新体制への移行や今回のシンポジウムを基盤に、更なる発展を遂げ、6月に訪日した潘基文国連事務総長の言葉どおり、各国のネットワークに対する「力強いインスピレーション」となることを心より期待しております。
今日の世界が直面する課題は、文字通り国境を越えたものです。
例えば、今回の金融危機は、一国の金融不安が瞬く間に世界中を揺るがすという現実を明らかにしました。このような状況の下では、各国当局がおのおの金融機関を監督する仕組みだけでは不十分です。いかに国際協調を構築するかが課題となり、この点がまさに、先週末ワシントンDCで開催された金融・世界経済に関する首脳会合でも議論されたところです。
グローバル化の進展は、金融にとどまりません。市場経済が拡大し、世界規模の物流や人の移動が加速化する中で、国家の枠組み、ひいては国際社会の枠組み自体が大きく変容しています。
国際の平和と安全に目を向ければ、テロリズムや内戦・地域紛争のように、「国家」対「国家」という従来の安全保障のパラダイムでは対処できない状況が目立つようになってきています。
気候変動、食料問題、開発、人権といった課題も、その影響が国境を越えて、経済的・社会的に脆弱な地域や人々に大きな打撃を与えます。更には、経済格差や貧困を固定化・深刻化させるという負の連鎖をも生じさせます。
そのような21世紀の世界では、民間企業や市民社会をはじめとする様々なアクターとの連携が一層重要になっています。国連グローバル・コンパクトが、世界中の企業や市民社会に対して、人権、労働基準、環境、腐敗防止といった国際的に認められた規範を支持し、実践するように呼びかけているのも、まさにこのような認識を反映したものだと思います。
当然ながら、日本政府としても、様々なアクターとの連携を通じて国際的な課題を解決するために、最大限の努力をしています。
例えば、途上国の貧困削減のためには民間セクターの発展が重要であるとの認識に立って、日本企業の活動とODA等の公的資金との連携を強化する「成長加速化のための官民パートナーシップ」を立ち上げました。
本年5月に横浜で開催した第4回アフリカ開発会議(TICAD IV)では、アフリカ各国の首脳のみならず、国際機関、市民社会を交え議論を行いました。そして、アフリカ諸国の「オーナーシップ」を尊重しつつ、その経済成長を国際社会の「パートナーシップ」により後押ししていくという考え方を共有したのです。そこで発表した支援策を実施に移す一環として、8月末から9月下旬にかけて、経済界をはじめとする多くの関係者の参加を得て、アフリカの南部、東部、中西部の3地域におのおの50~60名の貿易投資促進合同ミッションを派遣したところです。
政府としては、各国、国際機関から、企業、学界に至るまで、幅広い関係者の力を結集する「全員参加型」のアプローチを通じ、ミレニアム開発目標(MDGs)を持続可能な形で達成するために、積極的な取組を行っていく考えです。そのような取組は、女性や子供を含む人々とコミュニティーを広範かつ深刻な脅威から保護し、その豊かな可能性を実現するために能力強化を目指すという、我が国が育んできた「人間の安全保障」の理念を体現するものです。
ここで、敢えてもう少し踏み込めば、21世紀の地球社会が持続可能な進歩を実現するためには、資本主義や共産主義といった旧来のパラダイムを乗り越えて、新たな理念や制度を原点に立ち返って考えることが必要ではないかと思います。
小説家の森鴎外は「高瀬舟」で、「知足の境地」つまり「足るを知る」ことの必要性を取り上げました。拡大再生産を続け、足ることを知らないと世界は滅亡へ向かう、他国を自国の都合の良いように利用するだけでは、国際社会は成り立たない、というメッセージが込められているように私は感じました。これは企業においても同じではないでしょうか。
現下の金融危機を見ても、投資家を中心とする利潤極大化が自己目的化し、時価会計主義による損益評価の乱高下に翻弄されて、企業によっては本来の存在意義を見失ってきているところもあるように感じられます。
私は、社会における政治の役割は「最大公約数の人を幸せにする新たな価値システムの創造」であるべきと考えております。そして、企業の存在意義とは、人々の雇用を創出し、研究開発を通じて科学技術の進歩に貢献しつつ、より良い商品やサービスを提供するという形で、社会に新たな価値を生み出すことにあると思います。また、従業員や顧客のみならず、ビジネス・パートナーに利益をもたらすことも、企業の重要な役割の一つです。本業に加え、地域社会のための慈善活動も大切です。
こうした企業活動の結果として、投資家に十分な利益を還元できれば、それに越したことはありません。しかし、そのことが自己目的化しては本末転倒です。
英語には、「本末転倒」という意味の慣用句として、「しっぽが犬を振る(A tail wags the dog)」という表現があります。本来は実体経済をスムーズに機能させるための金融機関が、利潤追求のために過度のリスクを取った結果、実体経済を振り回しているという現状は、まさに「しっぽ」が「犬」を振り回しているかのようです。
このような反省を踏まえれば、私達は、企業の社会的な役割について、今一度、原点に立ち戻って考えるべき時期にさしかかっているのではないでしょうか。そのような意味で、本シンポジウムは、企業がCSRの実践を通じていかに社会に貢献し、企業の価値を高めていくかを議論するものであり、正に時宜を得たものであると考えます。
私は、新たな地球社会を構築する上で、日本が率先してリーダーシップを発揮すべきであると考えます。日本は、古来より政治・経済から社会・文化・宗教に至るまで、相矛盾する様々な要素をも統合し、独自の価値を生み出してきた国です。おおまかに言えば、東洋のベースに西洋の社会システムのツールを使って国家的変容を遂げ、現在の繁栄を築いてきた国であるとも言えます。
私は、このような歴史風土を有する日本の企業こそが、新しい技術や、社会貢献の理念を生み出し、開発・環境・人権といった地球社会の諸課題に独自の解決策を提示する潜在力を有していると確信しています。日本政府としても、このような企業の取組に対する支援を惜しみません。
特に、途上国の持続可能な開発のために、各国のオーナーシップを尊重しながら、経済成長を加速化するための企業の取組については、ODAなどの政府資金を通じた官民のパートナーシップを一層強化していく決意です。
本日お集まりいただいた皆様が、それぞれの企業においてCSRを実践されるとともに、国連グローバル・コンパクトをはじめとする国際的なプラットフォームを最大限に活用し、世界の平和と繁栄のために大いに活躍されることを期待しています。
ご静聴ありがとうございました。