平成17年12月15日
議長、
まず始めに、ポカールICTY所長及びモーセICTR所長、デル・ポンテICTY検察官及びジャローICTR検察官よりの安保理に対する報告に感謝いたします。
我が国は、両裁判所が審理の効率化、運営能率の向上を実施しつつ正義の実現へ向け努力しているものと理解します。特に、両裁判所とも中級・下級レベルの被告の国内裁判所への移管を進めていることを評価します。関係地域の政府・人々の更なる関与が、関係地域の人々の間の和解と法の支配の構築のプロセスに寄与するものと考えます。
7日にゴトビナが逮捕されたとのニュースに接し、関係国及びICTYの努力を評価します。残る大物戦犯容疑者、特にカラジッチ、ムラディッチの逮捕が実現するよう、また、ICTRについてもカブガの逮捕が実現するよう、関係国の協力を引き続き強く求めます。
ICTY所長よりの報告書に、関係者の努力にもかかわらず、大物戦犯容疑者がこの数ヶ月の間に逮捕されなければ、第一審の2009年末までの終了は難しくなるとあります。このことはひいては2010年末までに全ての審理を終了するという完了戦略に規定された期日を越えてICTYのマンデートが延長される可能性が示唆されていると懸念します。
完了戦略による審理終了期限まで5年を残すところとなった今、この懸念を表明するには早すぎない時期がきたと考えます。我が国としては、まずは、両裁判所が安保理により承認された完了戦略の最終期限である2010年末までに審理を完了するためあらゆる努力をすべきとの考えです。そのために審理中の案件を国内裁判所へ移管するなどの必要且つ適切な措置を検討すべきです。
次に、完了戦略の期限を越えても両裁判所を維持したいとの強い要請がある場合には、両裁判所の必要経費は直接の関係国及び特別な利害のある国による自発的拠出金によってまかなうことも検討されるべきであると考えます。
日本が正義と不処罰の終焉を重視していることは、日本のこれまでの長期にわたるICTY・ICTR両裁判所に対する多大な貢献及び最近のクメール・ルージュ(KR)裁判特別法廷開廷に向けて日本が果たしている建設的役割・貢献からも明らかです。
しかし、もしICTY・ICTR両裁判所の活動に対する貢献がほぼ無期限に続くようであれば、通常予算を通じた我々の両裁判所に対する支援は正当化することが困難となりましょう。正義の実現は、国際社会全体の意思もさることながら、関係国の正義の実現に向けての強固な意思が必要です。現在、ICCが存在し、また、カンボジア、シエラレオネの裁判所が直接の関係国及び特別な利害国による拠出金により自主的な運営がなされているのは、必ずしも財政面だけの配慮ではなく、そうした関係国の積極的関与の重要性を反映したものです。このような状況において、2010年という完了戦略の期限を越えてまで両裁判所に対する負担が必要となった場合、自発的拠出以外には、負担を正当化することは難しいでしょう。
議長、
更に、長期的視野に立てば、国際社会が正義の実現と不処罰の終焉に貢献するプロセスは、必ずしも国際裁判所を何年も維持することのみではなく、地域社会と協力しつつ関係国国内で法の支配、公正な裁判を構築し持続的に維持できるよう支援していくことも重要であると考えます。両裁判所よりの報告によれば、ICTYについては関係地域国及び地域機構との協力関係が進んでおり、ICTRについても法曹を対象としたワークショップを開催するなど逃亡者逮捕及び国内における公正な裁判の実施について関係地域国の司法能力の構築に取り組んでいます。これらの活動は評価すべき努力です。ICTY・ICTR開廷から10年を経た今、これまでの国際社会の実績を地域社会及び関係地域国が国際的基準を満たすための国内的取り組みへ適宜移行する時期であると考えます。
議長、
我が国は両裁判所に対して引き続き完了戦略の厳格な履行を求めていく考えです。今後5年をかけ、両裁判所が完了戦略実現のためあらゆる措置を取るであろうことは確信していますが、同時に、関係地域国国内において国際的基準を満たす公正な裁判が確実に実施されるよう、関係地域国の司法能力の強化に最大限の努力が払われることを期待します。