安倍総理大臣

日本フィリピン共同声明
「親密な隣国間の包括的協力パートナーシップ」
(仮訳)

平成18年12月9日
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1.国交正常化50周年の総括と今後の協力推進

 2006年12月9日、安倍晋三日本国内閣総理大臣とグロリア・マカパガル・アロヨ・フィリピン共和国大統領は会談を行い、二国間及び国際的な諸問題について広範な意見交換を行った。両首脳は、2006年が両国の国交正常化50周年に当たり、今回の首脳会談がその締めくくりをなす重要な会談であるとの認識の下、半世紀を経た戦後の友好関係を回顧しつつ、新たな段階を迎える両国関係の将来の展望について討議した。

 会談において、アロヨ大統領は、戦後50年にわたる日本からフィリピンへの経済協力に謝意を表明し、安倍総理は、フィリピンの持続的発展のために日本として引き続きできる限りの協力を行っていく旨表明した。また、両首脳は、両国が政治・経済分野における協力のみならず、幅広い層の人的交流を通じて、強固な信頼関係を築き上げてきたことを想起しつつ、隣国として様々な分野における交流と協力を包括的に推進していくとともに、地域的及びグローバルな諸課題への取組みについても緊密に連携していくとの考えを表明した。

 両首脳は、親密で活発な隣国関係を基礎に、包括的な協力のためのパートナーとして、次の8分野において協力を進めていくことで一致した。

2.協力促進8分野と当面の具体的協力内容

(1)政策対話等の推進

 両首脳は、一層の相互理解及び協力を推進するため、各種の政策対話を促進することの重要性を認識し、特に、安全保障、海事・海洋及び領事の分野での対話を進展させることを確認した。

 両首脳は、急速に変化する地域の安全保障環境を意識しつつ、両国が今後とも地域の安定に貢献していくとの決意を共有し、政治・安全保障に関する両国間の意見交換を行う必要性について認識した。両首脳は、これまでに2回開催された外務・防衛当局間及び防衛当局間協議の満足のいく成果に留意し、この協議を定期的に開催していくことを決定し、また政治レベルでの政治・安全保障に関する対話の重要性についても一致した。

 両首脳は、海を隔てて隣り合うという両国の地理的特性を踏まえ、海事・海洋分野の相互理解・協力の促進の重要性について改めて認識を共有した。この観点から、両首脳は、この分野における両国間の更なる協力の可能性を探求するために、両国の関係当局による海事・海洋問題に関する協議について、そのための準備会合を早期に開催する意向を表明した。

 両首脳は、両国間の国民レベルの人的交流の急速な増大に伴い、領事分野における緊密な協議と協力を一層進める必要性があることを認識した。そのため、両首脳は、2007年中に第4回領事協議を開催し、主要な領事問題について話し合うことを決定した。また、両首脳は、重大な人権侵害かつ犯罪である人身取引の防止及び撲滅並びに被害者保護について二国間協力を強化していくことで一致した。

(2)経済関連協定発効に向けた協力

 両首脳は、2006年9月の日フィリピン経済連携協定の署名を歓迎した。両首脳は、この協定が貿易の自由化、投資の促進、協力案件の実施等を通じた包括的な経済連携の構築を目的としたものであることを認識し、同協定が相互の経済的利益及び機会を増大させることを強調した。また、両首脳は、同協定を可能な限り早期に発効させるよう指導力を発揮していくことへのコミットメントを再確認した。

 両首脳は、また日フィリピン租税条約(二重課税防止条約)改正議定書への署名を歓迎した。両首脳は、両国間の配当、利子及び使用料の限度税率の引き下げを内容とする今般の改正により、両国の貿易・投資関係が強化されることを強調した。

(3)ミンダナオ和平の一層の推進

 両首脳は、ミンダナオ和平を実現することは、東南アジア地域の安定と繁栄を確保する上で大きな意義を有するのみならず、国際的なテロとの闘いの上でも極めて重要であることを再確認した。両首脳は、元紛争地域での生活状況の改善等、目に見える形で「平和の配当」を住民にもたらすことが、ミンダナオにおいて和平を定着させる上で極めて重要であることで一致した。アロヨ大統領は、日本が、そのために必要な社会・経済開発を推進することを目的として、10月に国際監視団にミンダナオ復興・開発担当上級アドバイザーを派遣したことを高く評価した。また、安倍総理は、ミンダナオにおける復興開発計画策定のための調査を来年の早い時期に実施し、現地の緊急のニーズに対応することを表明した。

 アロヨ大統領は、ミンダナオにおける日本の調査を歓迎し、また、麻生太郎外務大臣が7月にマニラを訪問した際に、草の根・人間の安全保障無償資金協力を今後1年間に10件以上実施していくことを発表したことに改めて感謝するとともに、今般、学校校舎建設及び改修等、教育分野を中心に、発表数を上回る12件の案件が実施されることになったことに対し、謝意を表明した。また、安倍総理より、ミンダナオを始め平和構築は地域と世界の大きな課題であり、アジアの経験を生かしつつ、平和構築分野の人材育成を推進したい旨表明した。

(4)経済協力

 アロヨ大統領は、インフラ整備、貧困削減、環境保全、人材育成等の両政府が引き続き重要と考える分野を通じ、フィリピンの経済発展に大きく貢献してきた日本国民及び日本政府のこれまでの支援と協力に対する謝意を表明した。

 アロヨ大統領は、第26次円借款案件である「パッシグ-マリキナ川河川改修計画(Ⅱ)」について交換公文の署名に至ったことに深い謝意を表明し、この事業が、洪水被害の緩和を通じてマニラ首都圏の安定的な経済発展及び生活環境の向上に大きな意義を有することを強調した。

 安倍総理は、また、対フィリピン第27次円借款に関する政府調査団を先般マニラに派遣し、新規案件に対する円借款供与に向けて現在検討を進めていることを表明した。

 両首脳は、統治全般及び政府開発援助の実施に関し、調和の維持、民主的価値及び人権の擁護、並びに環境保全及び社会福祉の維持の重要性を強調した。

(5)エネルギー分野での協力

 両首脳は、日本の国際協力銀行によるアジア開発銀行との協調融資を通じ、フィリピンの電力セクター改革実現のための開発プログラムへの支援が行われることを歓迎した。両首脳は、この協調融資を通じた支援により、電力の安定供給が図られ、住民の生活水準の向上がもたらされるのみでなく、フィリピンの投資環境が改善されることへの期待を表明した。両首脳は、日本の「アジア省エネルギープログラム」に基づき、省エネルギー分野での協力を更に進めていくことを決意した。

(6)手続の簡素化による防災協力の円滑化

 アロヨ大統領は、これまでにフィリピン国内で発生した自然災害に際し、復旧・復興のために、日本国民及び日本政府から迅速に提供された寛大な支援に対し、両国間関係の緊密さの証であるとして、謝意を表明した。

 両首脳は、自然災害発生時に緊急支援を迅速かつ効果的に実施することを目的として、更なる協力の方途等につき討議するための関係当局間の協議を実施し、緊急支援の実施に係る手続の簡素化及び円滑化に関する文書を策定することを決定した。

(7)人的交流及び文化事業を通じた相互理解の促進

 両首脳は、両国間の人的交流の更なる活発化が国民レベルの友好関係促進に大きな意義を有することを意識し、より良い相互のコミュニケーションや理解の促進のため、日本語教育を強化することの重要性を認識した。

 安倍総理は、日本で実施されている海外の日本語教師訪日研修のフィリピン人教師招聘枠をフィリピン側のニーズを踏まえつつ拡大することを検討し、また、マニラの国際交流基金事務所において日本語教師養成プログラムを開始することを発表した。また、安倍総理は、地域の拠点となる教育施設等への日本語学習教材の集中的な供与を行う用意があることを表明した。安倍総理は、フィリピンにおける日本語教育の全般的レベル向上を目的として、日本語教師育成の中長期計画策定の支援のため、フィリピンの教育行政官の招聘を実施する用意があることを表明した。アロヨ大統領は、日本政府によるこのような支援の表明に謝意を表明した。

(8)地域的及び国際的課題についての協力及び連携の促進

 安倍総理は、ASEAN共同体の実現及び、開かれた、透明性のある、包含的な東アジア共同体の構築に向けたASEANの中心的役割に対する日本の継続的な支持を再確認し、ASEAN議長国及び東アジア首脳会議議長国であるフィリピンの指導力発揮への期待を表明した。東アジアの長期的な平和、安定及び繁栄のため、両首脳は、東アジア首脳会議、ASEANプラス3及びASEAN地域フォーラムを含む各種枠組の下、東アジアにおける地域的統合を促進するとの観点から、地域共通の課題に対処する上で、目に見える利益を生む地域協力を強化する意図を改めて表明した。この点に関し、両首脳は、日本が提案したASEAN、豪州、中国、インド、日本、韓国及びニュージーランドの間での経済連携を促進するための民間専門家研究及び東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)の設置の重要性につき一致した。

 両首脳は、テロリズムの脅威が依然として地域及び国際社会の安全に対する懸念であるとの認識を共有し、すべての形態のテロリズムを予防し、抑制し、根絶する決意を再確認した。両首脳は、フィリピンの国家警察や沿岸警備隊に対する人材育成プログラム等を通じた法執行機関の能力開発のための日本の支援が成果を上げていることを歓迎した。両首脳は、今後とも二国間協力のみでなく、日ASEANテロ対策対話その他の地域的なアプローチにおいても、テロ対策強化のために緊密に協力していくとの決意を表明した。

 両首脳は、最近の朝鮮半島情勢に関するする重大な懸念を表明した。両首脳は、最近北朝鮮が実施したミサイル発射及び核実験を非難し、北朝鮮に対し、すべての核兵器及び既存の核計画を放棄するよう求めた。両首脳は、六者会合再開に向けた関係者の努力を歓迎し、北朝鮮に対し、国連安保理決議第1695号及び第1718号並びに2005年9月19日の共同声明の完全な実施に向けた具体的かつ効果的な措置を執るよう求めた。また、両首脳は、北朝鮮に対し、拉致問題を含め、その他の国際社会の安全保障上及び人道上の懸念に対応するよう求めた。

 両首脳は、安保理改革を含む国連改革の早期実現に向け引き続き積極的に協力していくとの決意を再確認した。アロヨ大統領は、日本の安保理常任理事国入りを引き続き強く支持する旨改めて表明した。安倍総理はこのようなフィリピンの支持表明に感謝するとともに、政治・安全保障に関する問題への取組み等を通じ、今後とも地域の安定と繁栄のために貢献していく決意を表明した。アロヨ大統領は、東アジアの安全保障分野における日本の更なる貢献について期待を表明した。

2006年12月9日、マニラにて署名した。

[署名]
日本国内閣総理大臣
安倍晋三
[署名]
フィリピン共和国大統領
グロリア・マカパガル・アロヨ
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