評価年月日:平成26年11月27日
評価責任者:国別開発協力第二課長 花尻 卓
パキスタン・イスラム共和国
カラチ港及びビンカシム港治安強化計画
本計画は,カラチ港及びビンカシム港へコンテナ貨物検査用の大型X線検査装置を導入し,治安維持,テロ対策等に向けたパキスタン国港湾における輸出入コンテナ貨物の検査能力向上によるセキュリティの強化を図るものである。供与限度額は18億7,700万円である。
考慮すべき留意点としては,以下の事項が挙げられる。
ア 治安・政情が極度に悪化しないこと。
イ パキスタン側負担事項が適切に実施されること。
ア 2001年9月11日に発生した米国同時多発テロ事件以降,国際社会はパキスタン政府に対し,武装勢力の取り締まり等の治安強化を求めており,パキスタン政府も治安対策,テロ発生の防止を重要視し,反テロリズム法の制定,アフガニスタン国境地域におけるテロリスト掃討作戦の実施などとともに,国境や港湾における国境警備全般の強化や武器保有の規制を行っている。
イ パキスタンのカラチ港及びビンカシム港は同国を代表する国際港であるが,各国税関当局間の連携を強化し,世界レベルの物流サプライチェーンの安全確保と円滑化を目的として,世界税関機構で採択された「SAFE Framework」で求められている水準を満たしておらず,目視による開披検査が主流になっているなど,検査体制の質の確保及び通関の円滑化に大きな支障を抱えている。
ウ かかる背景からパキスタン政府は,国際港におけるコンテナ検査体制の強化及び通関の円滑化のため,カラチ港(東埠頭,西埠頭)及びビンカシム港における,国際的水準に合致した大型X線検査装置の整備及び検査棟の建設について,我が国に支援を要請してきたものである。
ア 大型X線検査装置は,設置に際して大規模な施設を必要とせず組立が簡単である上,処理能力も効率的で諸外国でも多くの導入実績がある形式(ガントリータイプ)を採用している。
イ 本事業により調達された機材の維持管理は,スペアパーツの調達を含むフルメンテナンス契約として外部委託することとしているため,将来的な適正使用,維持管理体制についても確保されている。
ウ パキスタン国全土の通関手続きに関する検査情報のデータベース化,リスク管理の一元化を目的として実施機関において開発・整備されている,WEBベースの通関管理システムとの接続が可能となる設計とすることで,国内の通関との情報共有の効率化,セキュリティの向上が期待できる。
本件の実施により,以下のような成果が期待される。
ア 国際基準を満たす検査装置の導入により,カラチ港及びビンカシム港における検査体制が強化され,各埠頭におけるコンテナ非破壊検査数が基準値(2013年)の約1.5万個から目標値である2019年(事業開始から3年後)にはそれぞれ年間3万個増加し,検査の質の向上とともに通関の迅速化が図られる。
イ 移動式検査装置の導入により,各埠頭における混雑時や検査装置のメンテナンス時にも柔軟な対応が可能となるとともに,麻薬・武器密輸捜査にも寄与することが期待できる。
ウ 以上により,パキスタンの国際港における物流,輸出入にかかる国際的信用が増すとともに,パキスタン国内及びアフガニスタンを含む周辺諸国への麻薬,武器,爆発物等のハイリスクコンテナ等の流通が抑制されることで,国際社会の平和と安定に寄与する。
(1)パキスタン政府からの要請書
(2)JICAの協力準備調査報告書(JICAを通じて入手可能)