評価年月日:平成26年10月9日
評価責任者:国別開発協力第二課長 花尻 卓
パキスタン・イスラム共和国
中期気象予報センター設立及び気象予報システム強化計画
本計画は,パキスタンにおいて気象レーダーの建設や気象観測及びデータ処理解析システムの更新・新規整備を行うことにより,パキスタン気象庁の気象観測及び予警報能力強化を図り,もって自然災害による被害軽減に寄与するものである。供与限度額は26億1,500万円である。
考慮すべき留意点としては,以下の事項が挙げられる。
ア 治安・政情が極度に悪化しないこと。
イ 設備供給等のパキスタン側負担事項が適切に実施されること。
ア パキスタン政府は,2005年に75,000人以上の死者を出した北部大震災を契機に,これまでの事後対応中心の災害対策から,予防・被害軽減対応へと重心を移し,国家防災管理庁の設置,国家防災管理計画及びマルチハザード早期予報計画の策定などをはじめとする防災体制の強化を図っている。
イ 一方,パキスタンにおいてはモンスーン期における洪水が頻発しており,2010年の死者約2,000名,被災者約2,000万人という甚大な洪水被害を始め,2011年及び2012年にもそれぞれ大規模な洪水被害が発生している。パキスタン気象庁は,洪水予報に有効な中期(3~10日先)予報能力の強化のため,中期気象予報センターの設立を計画しているが,既存の気象レーダーシステムの老朽化及び気象観測・情報通信機材の不足により,中期予報に必要な設備が十分に整っていない。
ウ かかる背景からパキスタン政府は,中期気象観測に必要な,気象レーダー建設,気象観測・解析機材及び通信システムの整備並びにこれらの円滑な運営・維持管理に係る技術指導への協力を我が国に要請してきたものである。
ア 協力準備調査を通じ予算管理を含めた実施機関の運用・維持管理能力及び機材の維持管理計画について実施機関と協議し,十分な体制を有していることを確認した。本件事業実施に当たっては,維持管理計画に基づき機材が適切にメンテナンスされ,最大限有効活用されるようにする。
イ 本計画によって得られる精度の高い気象観測データは,パキスタンのみの利用にとどまらず,我が国を含む先進国の数値予報の精度向上にも寄与するため,これらのデータが各国に配信され活用可能となるよう,関連システムの計画を策定する。
本件の実施により,以下のような成果が期待される。
ア 気象観測・解析機材の更新・新規配備により,パキスタンにおける短期予警報能力が向上し,新たに中期予警報の発出が可能となる。
イ 国民や関係機関への正確な気象情報の提供が可能となり,洪水,サイクロン等の自然災害に対する災害軽減策の実施が促進され,経済損失が低減されるとともに,全人口1.8億人の自然災害に対する被災リスクが軽減される。
ウ パキスタンの気象観測データが世界各国の気象機関に提供され,数値予報モデルの向上による精度の高い気象予報が可能となる。
(1)パキスタン政府からの要請書
(2)JICAの協力準備調査報告書(JICAを通じて入手可能)
(3)防災協力イニシアティブの評価報告書(2014)