平成21年6月12日
日本政府代表団
6月1~12日、ドイツ・ボンにおいて、「条約の下での長期的協力の行動のための特別作業部会第6回会合(AWG-LCA6)」及び「京都議定書の下での附属書I国の更なる約束に関する特別作業部会第8回会合(AWG-KP8)」が開催され、2013年以降の気候変動に関する国際枠組みに係る議論が行われた。
併行して、1~10日の日程で、「気候変動枠組条約第30回補助機関会合(SB30)」が開催され、気候変動枠組条約及び京都議定書の着実な実施や関連する各種方法論につき議論された。
我が方よりは、古屋昭彦外務省地球環境問題担当大使、宮川眞喜雄外務省国際協力局審議官、本部和彦経済産業省資源エネルギー庁次長、有馬純同省大臣官房審議官(地球環境問題担当)、竹本和彦環境省地球環境審議官、森谷賢同省大臣官房審議官、島田泰助林野庁次長他、外務、文部科学、農林水産、経済産業、国土交通、環境各省関係者が参加した。
(1)今次AWG-LCA6では、各国からの提案に基づき議長が交渉用の文書として作成したテキストの読み通しを2回行って、各国がコメントをし、交渉テキストに反映させる作業が行われた。第一読では、1)適応、2)資金、3)技術及びキャパシティ・ビルディング、4)緩和に関して各国から全般的な立場の表明が行われた。第二読では、各国が具体的な文言修正を提出し、改訂テキストを取りまとめる作業が行われた。各国の主張をすべて取り込んだ結果、改訂テキストは非常に大部なものとなった。次回8月会合では、改訂した交渉テキストに基づき交渉が行われてテキストを絞り込む予定。
(2)交渉結果の法的位置づけに関して、途上国からは、バリ行動計画のマンデートは限定的であり新議定書の策定に反対との主張があった一方で、一部の途上国からは京都議定書の改正に加え新たな議定書が必要とする考え方も示された。これに対し、我が国を始め先進国は包括的な国際的枠組みが不可欠として、AWG-KPとの一貫性・整合性の確保の重要性を指摘した。また、我が国がCOP15で新議定書として採択することを目指すべき旨を主張しそのためにいち早く必要な手続をとったことを受け(4月24日に新議定書案を事務局に提出)、米国、豪州、ツバル、コスタリカもそれぞれ新議定書案を条約の手続きに基づき提出。これらの新議定書案は、COP15で議論されることとなる。(なお、EUや一部の途上国は京都議定書の改正案を提出。)
(3)本会合での主な論点は以下のとおり。
今次会合では、附属書I国の排出削減量、削減手段、法的論点等について、議長が事前に各国の見解をまとめた文書(以下、議長ノート)を基に議論が行われた。今回の議論を踏まえ、議長が京都議定書の改正に関する文書を作成することとなったが、それ自体は法的な議定書改正案ではなく、議論を促進するための文書と位置づけられた。
(1)附属書I国の排出削減量(附属書I国全体の排出削減量及び各国の削減量)
今次会合では附属書I国の排出削減量の議論に大半の時間が費やされ、各国の主張の確認と議長ノートの整理が行われた。附属書I国全体の削減量については、途上国は先進国の歴史的責任を強調し、科学の要請に基づきトップダウンで野心的な数値を決定すべきと主張した。具体的には、IPCC第4次報告書にある25~40%削減を根拠にしつつ、2020年に1990年比で、南アフリカが40%、小島嶼国連合が45%、フィリピンが50%、インドが79.2%を提案した。我が国やEUからは、附属書I国全体の目標は京都議定書の締約国となっていない国も含めた場で議論しなければ結論が出ず、AWG-KPとAWG-LCAの一体的な議論が不可欠と指摘した。また、我が国からは、世界全体の削減が重要で先進国の目標のみを議論することは不十分と主張したのに対し、途上国は途上国の行動についての議論はAWG-KPのマンデート(検討範囲)を逸脱すると強硬に反論した。さらに、約束期間の長さ、約束期間の数、基準年、附属書のあり方(附属書I国の約束の表し方を含む)についても各国の提案の説明が行われ、我が国からは、先進国の目標については排出総量に加え、データが入手可能な最新の年を含む複数の年からの削減率でも表すべきと主張し、EUや途上国は引き続き1990年を基準年とすることを支持した。各国の削減量については、途上国はトップダウンで決定した附属書I国全体の数値を、一定の指標(歴史的排出量及び能力)を用いて各国に割り当てるべきと主張し、南アフリカ及びフィリピンは附属書I国各国の具体的な削減数値案を提示した。我が国を含めた先進国から、一つの指標に合意することはできず、まずは各国が表明した目標の根拠について相互理解を深め、科学の要請を考慮しつつ、政治的実現可能性も踏まえて目標値を決定すべきと主張。また我が国は、歴史的排出量データには不確実性が大きく、法的拘束力のある国際約束の根拠とすることは不適切であると指摘した。
(2)削減手段
柔軟性メカニズム、土地利用・土地利用変化及び林業部門(LULUCF)、対象ガス、共通の指標、国際航空・海運からの排出等については、議長ノートに各国の主張が適切に反映されているかの確認に主眼を置いた議論が行われた。今回は特にLULUCFにつき集中的に議論し、森林・農地等の吸収源分野の取り扱いについて、これまでに各国から提案された様々なオプションについての相互理解を深めるとともに、可能な限り整理統合する作業が行われた。議論の結果はノンペーパーに取りまとめられるとともに、各国に対し、次回8月会合までの間に、各オプションの影響についての理解を深めるために必要な情報やデータの内容に関する意見を提出することが奨励された。8月会合では今回実質的な議論ができなかった柔軟性メカニズムにより多くの時間が配分される予定。
(3)法的事項
日本、EU、ベラルーシが提案した附属書の改正手続きの簡素化に関する議論が行われ、オプションを整理した。
(4)その他の事項
附属書I国の削減行動によって生じる潜在的影響について議論を行い、引き続き次回会合で議論されることとなった。
(1)国別報告書・目録
非附属書I国の国別報告書の作成を支援するための専門家諮問グループ(CGE)に関し、活動内容をめぐり先進国と途上国で合意が得られず2008年以降活動を停止していたが、本会合では活動の再開につき意見の一致をみた。また、温室効果ガス目録に関しては、2006年IPCCガイドラインの適用に向けた作業プロセス等について一致した。
(2)技術の開発及び移転
技術移転に関する専門家グループ(EGTT)が作成した、技術の開発及び移転のための資金オプションに関する報告書や技術の開発及び移転等の長期戦略に関する報告書等が今後のAWG-LCAの議論で活用すべきものと評価された。また、技術移転の進捗状況のレビューの時期が当初予定されていたSB31からSB32に先送りされた。
(3)資金メカニズム
条約の資金メカニズムのレビューに加え、特別気候変動基金(SCCF)及び適応基金についても議論がなされ、これらにつき、SB31で引き続き議論していくこととなった。
(4)適応
COP10(2004年)で決定された適応支援に関し、今後の検討の進め方が確認された。また、適応に関する情報交換等を目的としたナイロビ作業計画につき、進捗状況が確認されるとともに、更なる活動についても一致を見た。
(5)途上国の森林減少・劣化に由来する排出の削減(REDD)
COP13(2007年)における決定を受けて、REDDのための方法論(推計とモニタリング、基準となる排出レベル、先住民等の参加、能力開発等)について、今後の活動のガイドラインとなるCOP15の決定案が検討された。同決定案については、SB31にて引き続き検討されることとなった。
(6)国際航空・海運からの排出
国際民間航空機関(ICAO)及び国際海事機関(IMO)から国際航空及び海運からのGHG排出対策の検討状況に関する報告が行われ、今後も、ICAO及びIMOからの作業状況の報告を招聘することとなった。
(7)研究及び組織的観測
気候変動関係の研究の進展と新たな知見に関する情報の提供に謝意が表されるとともに、気候変動研究の強化が奨励された。また、科学コミュニティと締約国との対話の重要な役割を確認し、今後もSB会合時に対話の場を設けることとした。組織的観測につき、全球気候観測システム(GCOS)実施計画の進捗報告を踏まえ、締約国及び関係機関に対し、引き続き長期観測の確保と関連活動の継続等を求めるCOP決定案を採択した。
(8)その他
2010~2011年度の事務局予算が、ユーロベース7.35%増で決定された。また、12月のコペンハーゲン会合におけるAWG会合、SB会合の扱いについても議論が行われたが、今次会合では結論に至らなかった。なお、11月のAWG会合の開催地はバルセロナ(スペイン)となった。