
EPAシンポジウム
「アジア太平洋地域の広域経済連携~21世紀の先進モデルを模索する」
(概要と評価)
平成22年3月17日
1.プログラム
- (1) 開会挨拶 13時00分~13時05分 吉良 州司 外務大臣政務官
- (2) 講演 13時05分~13時30分 岡本 行夫 岡本アソシエイツ代表取締役
- (3) パネルディスカッション 第一部 13時30分~14時50分
「広域経済連携の将来」
<パネリスト> (敬称略)
- 早稲田大学教授 浦田 秀次郎
- 早稲田大学教授 寺田 貴
- 双日総研副所長 吉崎 達彦
<モデレーター>
- (4) パネルディスカッション 第二部 15時00分~16時20分
「広域経済連携の実現に向けた課題」
<パネリスト> (敬称略)
- 慶應義塾大学教授 木村 福成
- 慶應義塾大学教授 渡邊 頼純
- 東京大学教授 本間 正義
<モデレーター>
2.議論の概要
- (1) 吉良 外務省大臣政務官の開会挨拶の概要は以下のとおり。
- (イ) 国を開いていくことは大きな国益。国を開放しつつ、守るべき大切なもの(我が国の農業、農家、食料安全保障など)や価値を守っていくことが重要。
- (ロ) 我が国は先進国にふさわしい国内構造改革ができていない。国内の構造改革を進め、新しい時代の国作りが必要で、これは先進国の責任でもある。
- (ハ) 活力あるアジアを支援しつつアジア内需を取り込み、平和と繁栄を維持していきたい。その意味でもEPAや広域経済連携は日本にとって大事な検討課題。
- (2) 岡本 岡本アソシエイツ代表取締役の基調講演の概要は以下のとおり。
- (イ) 国際的な場で日本の存在感が相対的に低下すると同時に日本の競争力、活力が失われているのを憂慮。国の発展のため優先順位をつける勇気をもつべき。EPAは日本の色々な問題を内包する最大の課題。
- (ロ) 日本は開放的に外の世界に関わっていないに対し韓国は対照的で、新興国における韓国製のシェアが高くなっているのに加え、積極的なEPA推進の結果、EUにおいて日本は競争に劣後するリスクにさらされている。
- (ハ) 日本の多様性に対する鈍感さ・閉鎖性を正すべき。多様性を包摂できる社会では新しいルール作りがダイナミズムの源泉となるが、日本はこのルール作りが不得手。これからの政策には排除の論理ではなく包摂の論理を強く求めたい。
- (3) パネルディスディスカッション第一部「広域経済連携の将来」における概要は以下のとおり。
- (イ) 浦田氏:様々な広域経済連携構想がある中で、日本は、東アジアにおいてCEPEAにより経済協力、円滑化を優先的に進め、段階的に自由化を進める一方で、TPPが拡大する形で貿易自由化が進むであろうアジア太平洋においては、先進国及びアジアの主要国として参加すべきである。日本はFTA推進の障害となっている農業自由化を断行して両構想の推進において重要な役割を担うべきである。
- (ロ) 寺田氏:「地域主義」は排他性の論理により成り立つもので排他された国への配慮が必要である。APECが開かれた地域主義に基づく「APEC I」に留まるのか、それとも地域統合を進めようとする「APEC II」に進化するのか大きな決断が求められる。日本はTPPに積極的に関与していくべきである。
- (ハ) 吉崎氏:日本企業は今後、国際市場を見据えた汎用性のある製品作りに転換し、外需を取り込む必要がある。雁行形態の先頭から落ちそうな現状を鍛え直すためにも広域経済連携が必要である。R&Dへの投資、国内の寡占の進行状況、国内市場規模等の観点から日韓を比較すると、日本企業が韓国企業に負けるのは当然。
- (ニ) 様々な広域経済連携構想のうちどれを選好するか、あるいは現実的か、というモデレーターからの質問に対して、浦田氏は、協力を重視するCEPEAを優先しつつ、太平洋をまたいで制度構築を重視するTPPにも積極的に参加すべき、寺田氏は、排除されないことが重要であるという観点から全てに関わることが理想であるが、参加国数の少ないものから進めるのが現実的である、吉崎氏は、アジアであると同時に、自由・民主主義を標榜する豪・ニュージーランドが含まれるASEAN+6が日本にとって心理的アイデンティティの点で望ましいのではないか、とそれぞれ回答した。
- (4) パネルディスディスカッション第二部「広域経済連携の実現に向けた課題」における概要は以下のとおり。
- (イ) 木村氏:東アジアは経済が先行し、経済統合と開発格差是正の同時追求が可能なフォーラムであるのに対し、アジア太平洋はルール志向及びWTOを置換(補完)する自由化志向の動きとしての役割を負う。日本は東アジアとアジア太平洋という二つのフォーラムのアジェンダのずれを意識しつつ、両方にコミットしていくべき。
- (ロ) 渡邊氏:欧州、米州、東アジアという3つの極を結ぶAPEC、ASEM等を活用するとともに、WTOのcredibilityを強化すべき。価値観を共有するという意味で経済的メリットを超えた重要なパートナーである豪州、米国等とのEPAは広域経済連携に続くものであり、そのためにも日豪EPAを早急にまとめるべき。
- (ハ) 本間氏:これまでのEPAにおける日本の農水産品の譲許水準は低いが、今後は、知恵を絞り可能な限りの農産物を取り込んでいく必要がある。その際、効率化を進める一方で保護するというバランスが重要である。長期的な構造改革とFTAの推進に向けて、これまでの政策立案には問題あり。地域主体による経済特区制度を活用すべき。
- (ニ) モデレーターから各氏に対する質問に回答する形で、木村氏は、アジア太平洋より東アジアの方が日本にとっての経済的利益が見えやすい、そのためにも日本は、ASEANを大事にしつつ日中韓FTAという足元を固めることが必要、渡邊氏は、WTOがまとまることは、韓国リスクを減らせると同時に、世界によいメッセージを伝えることになり、日本企業にとっても自由化というペダルを踏み続けることはプラス、米国とのEPAは重要であり日豪EPAを早くまとめて日米FTA交渉に臨むべき、本間氏は、農業の開放と保護を同時に進めていくべきで、その際は今後の見通しを明確にして農家に調整のための時間を確保することがポイント、効率的な国内対策を講じる必要がある、センシティブな農水産品のうち、直接支払いをしやすいのは砂糖と牛肉、小麦と乳製品については難しいのではないかと述べた。
3.評価
- (1) 今回のシンポジウムは、アジア太平洋地域において様々な経済連携が検討・模索される中、広域経済連携の意義及びあるべき姿、地域の多様性や日本経済の構造改革等広域経済連携の実現に向けた諸課題について、各界の有識者の視点から率直に意見を交わす場となった。
- (2) パネルディスカッションにおいて、国際社会おける日本の相対的地位の低下、農業をはじめとする日本の構造改革等現在の日本が直面する多くの課題につき提起があったが、これに対し広域経済連携というアプローチで取り組んでいくことの有用性について意見の一致があった。
- (3) 新たな成長戦略、東アジア共同体の具体化等を進めて行く上でEPAや広域経済連携に対する関心と期待が高まる中、今後の政策展開を行うための有益な討議・対話の場となった。