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平成22年3月
(1)2月23日(火曜日)~2月24日(水曜日)、「第8回イスラム世界との文明間対話セミナー」が開催された。開会式では、我が国を代表して武正外務副大臣が、イスラム側を代表してファラーハ・クウェート・ワクフ・イスラム事項省次官がスピーチを行った他、共催である国際連合大学及びバーレーン国を代表して、オスターヴァルダー国際連合大学学長及びハッサン駐日バーレーン大使がスピーチをした。また、島薗進東京大学教授が「日本社会はどこまで世俗的か-国家神道と皇室-」との題で基調講演を行った。個別セッションには、板垣雄三東京大学名誉教授を始めとする日本側有識者18名、イスラム側(中東、アジア、欧州等13カ国)有識者23名、青年交流セッション参加者26名の他、多数の一般参加者が参加した(参加者リスト別添)。
(2)今次会合では、メイン・テーマ「人々を幸福に導く普遍的価値の追求」のもと、1)「環境と文明の調和」をテーマに開催された第7回クウェート会合のフォローアップ、2)対話に関する諸イニシアティブとの連携の可能性、3)青年交流セッション「文明の継承と未来創造」、4)普遍的価値の追求、5)メディアの役割に焦点を当てた文明や宗教に対する偏見を如何に回避するかについての議論が行われた。
(3)メイン・テーマとの関連では、イスラム側より、価値観は本来地域や社会に密着した多様なものであることを踏まえつつ、他者との関係ではその適用において謙虚であるべきで、強制すべきではなく、バランスの取れたアプローチが人間の安全保障の観点からも重要であるとの指摘があり、その後具体例として、イスラム金融は実体経済活動を重視したシステムであることやイスラム世界の貧困削減努力はパートナーシップ、コミュニティ参加を重視していること等が紹介された。一方、日本側からは、グローバルとローカルな金融システムの共存がグローバル経済の安定とローカル・コミュニティの活性化に寄与するとの見方や、再生エネルギー活用は新分野でもあり更なる技術の進化が必要であること、食料が水で育つことからすれば日本ですら水の輸入国であるといった着眼点が紹介された。
(4)今次セミナーでは、これまでのセミナーの総括と、今後のイスラム世界との対話に向けた提言を発表した(提言下記参照)。その中で、今回を含め、過去8回のセミナーを総括し、新たな形態で対話を継続することが確認された。複数のイスラム諸国から、次回ホストの申し出があり、今後調整していくこととなった。
(1)メイン・テーマ:今回のセミナーでは、「人々を幸福に導く普遍的価値の追求」をメイン・テーマとした。昨年は、リーマン・ショック以来の金融・経済危機が中東でも顕在化し、世界第二位の経済大国である我が国でも貧困問題が深刻化している。人間のあらゆる営みは、人々を幸せにするために行う必要があり、誰かの幸福を得るために他の人の幸福を犠牲にするのでは、いずれの社会・文明も存立・共存は実現しないとの共通認識を確認した。この観点から、今次テーマは人類の共通利益を追求してきた「文明間対話」が取り扱うに相応しいものであった。
(2)第7回会合のフォローアップ:前回クウェート会合の提言に従い、日本、クウェート及びバーレーンからなる調整作業チームを立ち上げる提言のフォローアップを行ってきたが、この間の成果を報告し、これを受け、対話を継続することの必要性が再認識された。日本側からは、フォローアップの成果として前回会合で立ち上げが決定された日本とイスラム世界との様々な分野での建設的対話を強化するための「叡智の架け橋」ネットワークの設立を発表した。イスラム側からは、本対話を有識者のみの限られた議論の場とするのではなく、よりインパクトのある形で市民社会も巻き込み、外部に開かれた行動を重視する枠組みに変革させていく必要性が強調された。また、フォローアップのメカニズムを本格的に構築するよう要望が出された。
(3)青年交流セッション:第6回、第7回会合に引き続き、「青年交流セッション」が開催された。公募により選出された日本側15名、イスラム側11名(在日留学生7名、クウェートからの参加学生4名)が参加した。本セッションでは、参加学生が22日(月曜日)の事前会合で行った「宗教におけるより良い相互理解」、「平和構築」といったグループ・ワークの結果を発表した。参加者からは相互理解促進の共通対話チャネルの立ち上げをはじめ具体策を提案し、行動開始、接触継続を実行していくことの重要性が強調された。そして、対話を、限られた有識者だけでなく世代を超えて拡大していくためにも、本セッションのような次世代を担う若者の交流の重要性が高く評価された。
(4)特別セッション:第7回会合で好評を博した「メディア・セッション」に引き続き、今次セミナーでも相互理解促進のためのメディアの役割に焦点を当てた特別セッションが行われ、有識者に加え数名のメディア関係者も参加し、メディアが作り上げるイメージ、市民にも理解できるテロリズムの概念とメディアで用いる際の留意点、メディアの果たす役割の可能性等が取り上げられ、活発な意見交換が行われた。
イスラム世界との文明間対話は、有識者間の自由な議論を通じて、日・イスラム世界間の相互理解を深めるもので、それは一定の成果をあげたと評価される。他方で、グローバル化が急速に進む中で、人々はその恩恵に預かりながらも、アイデンティティ喪失への不安、異文化との摩擦に常にさらされている。一般の人々が感じるこれらの不安や摩擦にどのように対処して、人類の平和と安全、様々な格差の問題に取り組んでいくのか、有効なメカニズムの構築が求められている。
ついては、本セミナーの主催者である日本国外務省は、有識者の直接対話方式で進めてきた従来の形での文明間対話セミナーを一旦ここに総括して終了することとし、来年以降については、新たな形態で対話を継続していくことをここに提言する。次回ホスト候補として、アラブ首長国連邦、マレーシア及びエジプトから申し出があり、今後調整していくこととしたい。新たな形態については、できるだけ早期に日本側有識者や関係イスラム諸国と相談して、実施態様を固めるものとしたい。