I.日程概要
- (1) マンモハン・シン・インド首相は,コール夫人とともに,10月24日から26日まで公式実務訪問賓客として訪日。シン首相訪日にあわせ,インド経済界のリーダー9名が訪日。
- (2) 25日午前には,シン首相は前原外務大臣による表敬を受けるとともに,日印協会及び日印友好議員連盟との会合,経団連,日本商工会議所及び日印経済委員会共催の昼食会に出席した。25日午後には,宮中にて天皇皇后両陛下が御引見になられた。
- (3) 25日夕刻より菅総理と日インド首脳会談が行われ,政治,安全保障,経済,経済協力,地域的・国際的課題に関し幅広く意見交換が行われた。会談後,両首脳は「次なる10年に向けた日印戦略的グローバル・パートナーシップのビジョン」(「仮訳/英語)と題する共同声明及び「日印包括的経済連携協定締結に関する両首脳間共同宣言」(仮訳/英語)に署名し(両首脳立ち会いの下,別所外務審議官とラオ外務次官との間で査証手続の簡素化に関する日本国政府とインド共和国政府との間の覚書(仮訳/英語)に署名),25日午前に開催された第3回ビジネス・リーダーズ・フォーラム(BLF)の共同議長である米倉経団連会長,アンバニ・リライアンス会長から同フォーラムの報告書を受領した。会談に引き続き,日印政財界要人,有識者等を招いて菅総理夫妻主催夕食会が開催された。
- (4) 26日午前,大畠経済産業大臣による表敬を受けるとともに,谷垣自民党総裁,山口公明党代表及び渡辺みんなの党代表による表敬を受けた。
II.首脳会談概要
1.二国間関係
(1)安全保障
2009年12月に首脳レベルで合意された「行動計画」が着実に実施されていることを歓迎するとともに,安全保障分野において協力を強化することで一致。
(2)経済・経済協力
- 日インド包括的経済連携協定(CEPA):
交渉が成功裡に完了したことを歓迎。
- 閣僚級の経済対話:
我が国の閣僚級の経済対話新設の提案に対し,シン首相から賛意。
- 民生原子力協力:
民生用原子力協力に向けた協議の進展を歓迎。菅総理より,日本はインドによる「約束と行動」の実施を重視している旨発言。シン首相より,インドは唯一の被爆国である日本の思いを理解し,一方的な核実験モラトリアム宣言に加え,核軍縮・不拡散にも努力を払っている旨発言。
- インフラ整備:
菅総理より,日本として引き続きインドの経済成長及び持続的な発展に協力していく,インド貨物専用鉄道建設計画(DFC)及びデリー・ムンバイ間産業大動脈構想(DMIC)の進展を重視している旨発言。シン首相より日本のODAに対する謝意を表明。
- 資源・エネルギー:
エネルギー協力の分野における進展を観迎し,更なる協力で一致。レアアースの開発等についても協力を深化させることとなった。
(3)人の交流
日本はインド工科大学ハイデラバード校(IITH)及びインド情報技術大学ジャバルプル校(IIITDM・J)への支援継続を表明し,インド側から謝意が示された。両首脳は査証手続き簡素化の覚書への署名を歓迎。
2.地域情勢・国際的課題
(1)中国
菅総理から,温家宝国務院総理との懇談をきっかけに,日中関係は改善,大局的観点から「戦略的互恵関係」の推進に取り組む考えを表明。シン首相からも印中関係の現状につき説明があった。
(2)国連安保理改革
菅総理から,9月のG4外相会合を踏まえ,首脳レベルの協力を確認し,改革案を具体化していく旨発言。両国の協力強化で一致。その他,軍縮・不拡散,気候変動,生物多様性,アフガニスタン・パキスタンについて意見交換を実施した。
III.共同記者発表
(1)菅総理大臣の発言(ポイント)
- 今次会談を通じ,日印間の戦略的グローバル・パートナーシップの深化を互いに確認。「両国のこうした関係を妨げるものは,空(sky)しかない」というシン首相の言葉に,つまり,何も両国のそうした進展を妨げるものはないという言葉に,大変感銘を受けた。
- 具体的な成果として5点。
- 1) 日インドCEPAの交渉完了を確認する共同声明に署名し,早期発効を指示。
- 2) 日インド閣僚級経済対話の新設に合意。
- 3) 査証手続き簡素化に関する覚書を署名。
- 4) 民生用原子力協力に関し,特に我が国の核被爆国としての感情について改めて理解を得ながら,協定交渉の加速をすることで一致。
- 5) 国連安保理改革について,両国が緊密な連携のもと努力することを確認。
- 両首脳のみならず,両国の国民及び全ての政党が両国の関係強化に賛成。
(2)シン首相の発言(ポイント)
- 日印は定期的にハイレベル対話を実施しているが,この伝統こそ印日戦略的グローバル・パートナーシップを象徴。今次首脳会談は,民主主義,法の支配,基本的人権及び自由の尊重という共通の価値観に基づく確固とした土台の上に成り立つ印日戦略的パートナーシップのペースと方向性を定めている。
- CEPAはアジアで最大の経済力を持つ両国が今後経済的連携を進めていくという歴史的な成果。同協定は新しいビジネス機会を創出し,両国の貿易と投資の流れに飛躍的な増加をもたらすだろう。菅総理に対して,貨物専用鉄道建設計画(DFC)やデリー・ムンバイ間産業大動脈(DMIC)構想などの大型インフラプロジェクトの進展について両国が一層努力することを提案。同プロジェクトは両国を変容させるような(transformational)大きな影響をもたらすだろう。日本のODAに対する感謝の意を伝えるとともに,印日間のハイテク貿易の拡大の方策について協議。
- 民生用原子力エネルギーは印日双方にメリットとなり得る分野。ハイレベル・エネルギー対話を通じて印日は新エネルギーや再生可能エネルギーの利用や開発においても協力していく所存。
- 2009年12月の安全保障協力に関する行動計画の実施について再確認。
- 2012年に印日は外交関係樹立60周年を迎えるが,特に若者の交流,人と人の交流を拡大するなど60周年にふさわしい形で祝う方策について議論。国連改革,特に安保理改革について,印日二カ国又はG4を通じ更に協力を強化することに同意。
- 両国は,気候変動やドーハ・ラウンド貿易交渉,G20,EASといったグローバルな問題についても協力を継続。来年の年次首脳会談のため,菅総理を印へお招きし,デリーでお迎えすることを楽しみにしている。
IV.評価
- (1) 菅総理とシン首相は首脳会談及び夕食会を通じて率直な意見交換を行い,両首脳間の信頼関係を構築することができたことは今後の日インド関係の強化にとり重要な基盤となるもの。
- (2) 今次訪日を通じて,政治・安全保障面における日印協力の深化を確認するとともに,経済面においては,日インドCEPA交渉の完了を確認する共同宣言への署名及び早期発効の指示,日インド閣僚級経済対話の新設への合意をはじめとする,多くの具体的な成果があった。
- (3) また,人的交流,文化面においては,査証簡素化手続きに関する覚書への署名や,2012年の国交樹立60周年を適切な形で祝うことにつき両首脳が指示を出すなど,今次訪日は政治,経済面の関係強化と並行して,日印両国間の国民レベルの交流も更に深めていく契機となり,日印戦略的グローバル・パートナーシップの幅を広げるものであった。
- (4) 更には,国連安保理改革,気候変動,生物多様性,アフガニスタン・パキスタン等の国際的課題に関しても,日印間で協力していくことを確認することができた。