第2節 課題別の取組状況

日本は、政府開発援助大綱において、貧困の削減、持続的な経済成長への支援、地球規模で広がる課題への取組、平和の構築といった各課題を掲げ、前節で説明した「目的」および「基本方針」に基づいて、重点的に取り組むこととしています。特に、開発途上国自身の自助努力支援、民間経済活動の活性化を通じて持続的な経済成長を図り、貧困の削減を図ることは、日本が援助を実施していく上で重要な課題の一つであり、東アジアにおける開発の経験にも示されています。本節では、上記各課題に対する最近の日本の取組について説明します。

1. 持続的成長

貧困削減を達成するためには、開発途上国の経済が持続的に成長し、雇用が増加することにより収入が増加し、生活の質も改善されることが不可欠です。日本は、開発途上国の持続的成長に向けた努力を積極的に支援しています。

(1)経済社会基盤(インフラ)

実績

2007年度の実績は以下のとおりです。

有償資金協力(円借款):約9,448億円(21か国)
運輸分野:約3,819億円
エネルギー分野:約1,298億円
無償資金協力:約276億円(40か国)
運輸分野:約190億円
エネルギー分野:約56億円
通信分野:約31億円

現状

貧困削減のためには、貧困層に直接影響を与えるような貧困対策や社会開発分野の支援のみならず、経済成長を通じた持続的成長が不可欠です。日本は従来、開発途上国の発展の基盤となる経済社会基盤(インフラ)整備を重視しています。都市と農村地域との交流拡大、災害からの安全確保や海外との貿易・投資を促進するための道路、港湾、空港といった運輸、通信などのインフラ整備、教育、保健、安全な水・衛生、居住の場の確保、病院や学校などへのアクセス改善のための基礎社会サービスの拡充に資するインフラ整備、そして、農水産物市場や漁港、農道など地域経済の活性化を目指す小規模インフラの整備などは、開発途上国が経済発展する上で非常に重要な役割を果たします。

日本の取組

日本の協力により建設されたホーチミン国際空港
日本の協力により建設されたホーチミン国際空港

日本のインフラ整備に関する取組としては、例えば、ベトナムとの間で2001年度、ホーチミン国際空港ターミナル建設のための円借款供与の署名を行い、2007年度、同空港が開港しました。これにより、年間700万人の旅客需要に対応できるようになりました。また、ウガンダに対しては、2007年度から、アフリカ開発銀行と協調し、アフリカ最大級の民活電力事業であるブジャガリ水力発電所に連結する送電線と変電所の新設および増設のための円借款計画を実施しています。これにより、この地域における電力不足の解消とともに、この発電所に対する民間の投資リスクを大幅に軽減する役割を担っており、地域の持続的成長を支援しています。無償資金協力では、2007年度、エルサルバドルとホンジュラスの国境橋(日本・中米友好橋)の建設の支援を決定しました(注11)。この協力は、2005年度から円借款によって建設されたラ・ウニオン港との相乗効果により、域内流通を活性化することが期待されています。

また、インフラを開発途上国における適切な開発政策に基づき整備し、持続的に管理・運営するためには、それらに対応しうる人材の育成が不可欠です。技術協力による支援では、国土計画や都市計画の策定、建設した施設を維持管理・運営する技術者の育成、維持管理・運営に必要な機材供与など幅広い協力を行っています。

ベトナム南部では、円借款により新規大水深港湾であるカイメップ・チーバイ港を整備しつつ、民間事業者がこれら港湾施設を効率的に運営するための技術協力を行っています。これは、援助手法間の連携の一例といえます。

(2)政策立案・制度整備

現状

開発途上国の持続的成長のためには、経済社会基盤の整備とともに政策立案、制度整備や人づくりといった観点からの支援が必要です。政府開発援助大綱は、開発途上国の発展の基礎となる人づくり、法・制度構築に対する支援を重要政策と位置付けています。これを受け、政府開発援助に関する中期政策では具体的な措置として、汚職の撲滅、法・制度の改革、行政の効率化・透明化、地方政府の行政能力の向上を支援する方針を定めています。

日本の取組


(写真提供:JICA

政策立案・制度整備支援の一環として、特定のプロジェクトではなく、途上国の財政に資金を投入する政策・制度改善支援を実施しています。例えば、日本は2004年度以降、インドネシアに対し、世界銀行やアジア開発銀行と協調して開発政策借款(DPL注12))を供与しています。開発政策借款では、インドネシア政府によるマクロ経済の安定化、投資環境の改善、公共財政管理、汚職撲滅などのガバナンス分野における改革推進や貧困削減などの改革努力を支援しています。また、2007年度は、インドネシアにおける自然災害への政策面での対応強化支援のための円借款(注13)も供与しました。さらに、2008年度の動向として、インドネシアに対し、「クールアース・パートナーシップ」に基づいた円借款として3億ドルの気候変動対策プログラム・ローンを実施しました。

「クールアース・パートナーシップ」については、こちらを参照してください。

このほかには、例えば、2008年度、ベトナムに対して貧困削減支援貸付の供与(第6次)を決定し、ベトナムの投資環境の改善や下水道の料金徴収制度の確立、国営企業改革、補助金削減による政府支出の改善といった政策面における制度改善を支援しています。

民主的発展のための支援も実施しています。これまでも法制度、司法制度、行政制度、公務員制度、警察制度などの各種制度整備や組織強化支援、選挙支援、市民社会の強化、女性の地位向上支援などの取組を行ってきました。行政支援としては、汚職の防止や統計能力の向上、地方行政能力の向上を図り、タイ、カンボジア、バングラデシュ、パキスタンといったアジア諸国のみならず、パラグアイ、ホンジュラスなど中南米やタンザニア、ザンビアなどアフリカ諸国への協力も行っています。例えば、ガーナでは、公務員制度の能力強化を行うため、2007年度から人事委員会に対して専門家を派遣し、実務研修などを行っています。

国内治安維持の要となる警察機関の能力向上については、制度づくりや行政能力向上への支援など人材育成に重点を置きつつ、日本の警察による国際協力の実績と経験を踏まえた知識・技術の移転と、施設整備や機材供与を組み合わせた支援を実施しています。2002年度以降、インドネシアにおける警察改革支援として専門家の派遣や研修員の受入を行っており、文民警察として国民に信頼される日本の警察の姿勢や事件捜査、鑑識技術の移転を目指しています。このほか無償資金協力により無線機器や交番、鑑識機材などを供与しており、無線通信網の整備により市民からの通報に迅速な対応が可能となり、また物証に基づく薬物捜査技術が向上するなど、市民生活の安全に貢献しています。

2007年度には、法の支配を確立するための社会基盤を整備することを目的として、ベトナム、カンボジア、中国、インドネシア、モンゴルなどの市場経済移行国を中心に法制度整備を支援しました。具体的には、法案起草・改正、立法化への支援および法曹人材の育成のための法整備の支援を行っています。カンボジアでは、民法・民事訴訟法の起草作業に対する支援を実施しました。民事訴訟法については、2006年の成立・公布を経て2007年7月に適用が開始され、民法についても2007年12月に成立・公布されました。これらの法律を適切に運用する人材を育成するため、カンボジア王立裁判官・検察官養成校に対し支援を実施し、カリキュラム・教材の改訂を行いました。今後は新カリキュラムで学んだ同校の卒業生がカンボジア各地で活躍することが期待されています。ベトナムでは、これまでの支援の中で成立・改正された民法や民事訴訟法をはじめとする法令の運用が適切に行われるよう、裁判実務の改善により焦点を当てて支援しています。また、ウズベキスタンでは、倒産法の解釈・運用の統一を目指し、作成の支援を行ってきた倒産法注釈書が2007年3月にロシア語で発刊され、ウズベク語、英語、日本語への翻訳が行われています。さらに中国では、独占禁止法や市場流通法など経済法分野や民事訴訟法など基本法分野の改正に向けた支援を実施しています。国連アジア極東犯罪防止研修所(UNAFEI注14))では、2007年10月から11月にかけて汚職防止刑事司法支援研修を実施し、アジア地域を中心とする開発途上国11か国から13名の参加を得て、汚職の現状および刑事司法上の対応に関する問題点と対策などの検討を行いました。

また、2008年1月の第13回海外経済協力会議では、「法制度整備支援について」との議題の下、途上国への法の支配の定着や持続的成長のための環境整備、日本との経済連携強化などの点で大きな意義を有する法制度整備支援を海外経済協力の重要分野の一つとして、戦略的に進めていくべきであることで一致しました。この会議では、重点地域・重点分野を選定した上で、関係省庁との連携の下、対象国、分野、支援方法、実施時期および今後のニーズ発掘などについて、基本的な計画を作成することとしています。日本政府は、中国、東ティモール、モンゴルでこれらについての現地調査を行いました。

(3)人づくり

実績

2007年度の実績は以下のとおりです。

技術協力(注15
研修員受入:31,015人(注16
専門家派遣:6,422人(注17
青年海外協力隊派遣:4,199人
その他ボランティア:1,295人

現状

「国づくりは人づくりからはじまる」といわれますが、人づくりへの支援は日本の援助の重要な柱の一つです。人づくりへの支援は、開発途上国の発展に直接寄与する人材育成のみならず、「人」と「人」との交流を通じた相互理解の促進や、開発途上国の将来を担う青少年や各界指導者との人間関係の構築を通じて、二国間関係の増進にも大きな役割を果たします。また、日本の援助の基本理念である開発途上国の自助努力(オーナーシップ)を強化する上でも極めて重要な要素です。

開発を担う人材の育成のためには、基礎教育のみならず、高等教育、技術教育、職業訓練、行政など実務の研修など様々な分野での支援を進めることが必要です。また、より低コストで質の高い協力を行うため、遠隔研修などを通じた情報通信技術を積極的に活用しています。

日本の取組

高等教育・職業技術訓練などにおける支援


(写真提供:JICA

高等教育分野での支援では、開発途上国の高等教育施設の整備、運営管理能力向上支援、教育・研究能力向上などを技術協力により行っています。例えば、東南アジア諸国連合(ASEAN)に対しては、一国を超えた地域内の高等教育機関のネットワーク化を実施し、教育・研究能力の向上を支援しています。職業技術訓練分野においては、職業訓練の質の向上や労働市場ニーズに適した訓練の実施を目的とした協力を行っており、2007年度はスリランカ、ルワンダ、トルコ、ガーナなどに技術協力を行いました。具体的には、スリランカに対しては情報通信、メカトロニクス、金属加工などの分野で、ルワンダに対しては、情報工学、通信工学、代替エネルギーの各分野の専門家を派遣し、現地での技術移転や日本もしくは第三国での研修員受入を行いました。さらに、アフガニスタン、スーダンなどの国々において、就業や起業を通じて生計の向上につながる、基礎的な技術訓練も行っています。

また、開発途上国の労働組合関係者や使用者団体関係者などに対して、労使協調などに関する研修やセミナーなどを開催しています。これらの事業を実施することにより、各国企業の長期的な労使関係の安定、各国企業と日本の事業者との取引の安定および経済連携のための人材能力の構築にも寄与しています。

貿易・投資人材および市場経済化支援


(写真提供:JICA

人づくりの一環として、人材育成を通じて貿易・投資環境を整備する支援を行っています。この分野では、中小企業の産業振興や鉱物資源開発のための人材育成を行っており、近年は産業基盤制度整備や生産性向上などの管理技術、さらに工業化に伴う環境・エネルギー関連の協力にまで及んでいます。このほかにも、日本貿易振興機構(JETRO注18))や海外技術者研修協会(AOTS注19))などを通じて、各分野の専門家派遣や研修員受入、セミナーの開催などを実施しているほか、知的財産権保護や基準・認証、物流効率化、環境・省エネルギー、産業人材育成などの制度整備、「アジア標準」の構築に向けた支援も行っています。

また、東南アジアや中央アジアなどの市場経済移行期にある国に対しては、市場経済化への改革努力に対する支援の一環として、「日本人材開発センター(通称:日本センター)」を設置し、企業経営や起業知識などの日本の知見や経験を教える場として活用しています。これまでに、カンボジア、ベトナム(ハノイ、ホーチミン)、ラオス、モンゴル、ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、ウクライナにおいて事業を実施中です。

世界に支持されている日本方式

日本が持つ技術には、飽くことなき品質向上へのこだわりやユーザー第一主義、時間や約束の厳守、作業工程の改善のための自己努力、安全や環境に対する配慮などといった日本の価値観があります。これらの価値観は、開発途上国においても新たな標準として受け入れられている場合があります。例えば、日本の円借款で建設されたインドのデリー地下鉄では、日本式の工事現場における安全確保の取組や工事の時間管理の技術が現地に伝えられました。その結果、今では、インドの地下鉄関係者の間では「ノウキ(納期)」という言葉が使われています。

日本の様々な組織の現場では、現場で働く人たちによるミーティングを通じて、日々、改善に向けた努力が行われています。この「改善」という考え方についても、開発途上国に受け入れられています。モンゴルでは、「モンゴル日本人材開発センター」のビジネスコースの受講者が、自発的に「カイゼン協会」を設立し、企業の改善を推進し、具体的な売上げの向上や新製品の開発などの成果を上げています(注20)。1961年に設立され、日本に本部を置いている国際機関であるアジア生産性機構(APO注21)においても、各加盟国の生産性本部のネットワークを通じた「カイゼン」や「5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ/習慣化)」の概念を加盟国に普及させる活動を実施しているほか、これらの概念を踏まえた生産性向上 のための様々な取組が行われています。

(4)情報通信技術(ICT注22))

実績

2007年度の実績は以下のとおりです。

無償資金協力:約31億円(5か国)
技術協力
研修員受入:449人(注23
専門家派遣:113人(注24
協力隊員等派遣:3人

現状

ICTの普及は、産業の高度化、経済の生産性の向上などを通じて持続的な経済成長の実現に寄与します。また、ICTの積極的な活用は、政府の情報公開の促進や、放送メディア設備支援などを通じた民主化の土台となるガバナンス改善、利便性・サービス向上による市民社会の強化といった面でも重要な意義を持っています。

この反面、ICTを活用可能な人々とそうではない人々との格差が顕在化してきています。この格差は、先進国・開発途上国間の経済的格差を一層増幅させるだけではなく、国内における経済格差をさらに助長してしまう可能性を秘めています。近年その格差の解消を図ることがきわめて重要な課題となっています。

日本の取組

パソコンの操作方法をアドバイスする青年海外協力隊員(パプ アニューギニア)
パソコンの操作方法をアドバイスする
青年海外協力隊員(パプアニューギニア)
(写真提供:JICA

ICT部門は基本的に民間主導で発展する分野です。そのため、政府開発援助による協力は、情報格差が引き起こす貧困問題などの拡大回避や自由な情報取得による民主的社会づくり支援のため、開発途上国における通信・放送インフラなどの構築およびそのための法整備や人材育成など、民間部門には馴染まない分野を中心としています。

2007年度は、いまだ民族別の教育システムを用いているボスニア・ヘルツェゴビナにおいて、情報教育分野での共通カリキュラムの導入を促し、ひいては、民族融和を促進するための技術協力を開始しました(注25)。また、フィジーに本部を置く南太平洋大学に対し、情報通信技術に関する研究・教育・訓練を行うための施設などを供与しました。

(5)貿易・投資の円滑化

現状

開発途上国の持続的な経済成長のためには、民間セクターの主導的な役割が鍵となるため、貿易・投資などの民間活動が活性化されることが重要です。しかし、民間投資を呼び込むための環境整備において、途上国政府が実行しなければならない政策は膨大であり、多くの場合、自力での対処が困難です。そのため、二国間や多国間による支援が必要となります。

日本の取組

政府開発援助やそれ以外の公的資金(OOF注26))などを活用して、開発途上国のインフラ整備、制度構築、人材育成などの支援を行っています。また、貿易も相手国の発展にとって重要です。例えば、先進国の市場へのアクセスに関しては、特に開発途上国の産品の輸入時において一般の関税率よりも低い税率を適用する一般特恵関税制度(GSP注27))が重要な役割を果たしており、同制度を通じた開発途上国の輸出能力・競争力の向上が国際的に重視されています。特に、後発開発途上国(LDC)の貿易・投資の円滑化や市場アクセスの確保のため、様々な取組を実施しています。

多角的自由貿易体制の強化に向けた協力

多角的自由貿易体制の維持・強化を目的とした世界貿易機関(WTO注28))では、150か国を上回る全加盟国のうち、約5分の4が開発途上国です。経済活動を貿易に依存している日本のみならず、開発途上国にとっても、グローバル化による貿易・投資を通じた経済成長の機会が飛躍的に増大しています。2001年に立ち上げられた「WTOドーハ・ラウンド交渉(ドーハ開発アジェンダ)」では、多角的自由貿易体制への参画による開発途上国の開発促進を重視しています。

2007年度には約5,000万円をWTOに設けられた信託基金に拠出し、開発途上国のWTO協定履行・交渉参加能力向上などを支援しています。また、WTOを含む6国際機関が設立した「統合フレームワーク(IF注29))」に参加し、後発開発途上国の貿易関連の技術支援を行っています。さらに、主に途上国の民間セクター支援という観点から、国際貿易センター(ITC注30))信託基金に対し、2007年度に新たに約800万円を拠出しました。

開発イニシアティブ

現在、WTO、世界銀行、OECDなどの様々な国際フォーラムにおいて、「貿易のための援助(AFT注31))」に関する議論が活発化しています。このような流れの中で、日本は、貿易の促進を通じての開発途上国の開発を目指し、2005年に「開発イニシアティブ」を発表し、貿易を構成する「生産」、「流通・販売」、「購入」の各局面で、後発開発途上国(LDC注32))の産品の市場アクセスの改善や政府開発援助を組み合わせ、総合的かつきめ細やかな協力を実施しています。その例としては、LDC諸国に対する無税無枠措置の拡充や一村一品運動への支援が挙げられます。2007年に日本から「開発イニシアティブ」ハイレベル・ミッションが派遣されたマダガスカル・ケニア・ザンビアの3か国では、先方の大統領や閣僚などの政府関係者から日本の取組について一様に高い評価と感謝の意の表明がなされ、このイニシアティブが開発途上国の期待によくこたえるものであることが改めて確認されました。LDCに対する無税無枠の市場アクセスの推進は、MDGsLDC行動計画などの国連の場でも議論されています。日本は、2007年にLDCに対する無税無枠措置の対象品目を8,859品目まで拡大させた結果、品目数では約98%、貿易額では99%超が無税無枠での輸入が可能となり、2005年の香港閣僚宣言で当面の目標としていた97%を達成しました。

経済連携の推進

近年、日本が積極的に推進している経済連携協定(EPA注33))は、伝統的なモノの貿易に加え、投資ルールの整備、サービス貿易の自由化、自然人の移動、政府調達、知的財産権の保護、競争政策、ビジネス環境整備などの幅広い分野における取組を包括的に扱っています。これによって、日本と相手国の経済連携が進むだけでなく、相手国の経済成長を促すという重要な意義があります。そこで、政府開発援助に関する中期政策では、日本が経済連携を推進しているアジア地域をはじめとする開発途上国の各国・地域に対し、経済連携による効果を一層引き出すために、政府開発援助を戦略的に活用し、貿易・投資環境や経済基盤の整備を支援していくこととしています。

具体的には、貿易・投資に関連する諸制度の整備や人材育成支援、知的財産保護や競争政策などの分野における国内法制度構築支援、税関の能力強化支援、ITC、科学技術、中小企業、エネルギー、農業、観光、環境といった分野の支援など、様々な分野における協力を行っています。2007年11月に発効したタイとの経済連携協定との関係では、同国の優先育成産業である自動車・部品産業について、自立的に裾野産業の人材育成に取り組むことができるように、日・タイ官民四者で、研修実施体制整備のプロジェクトを進めています。JICAJETROなどの連携の下、プロジェクト全体の運営管理、機材供与、政府への助言のために専門家を派遣するほか、現地日系企業を中心として、タイ人の指導者育成、技能検定制度の整備を行います。

このプロジェクトの詳細は、コラム6も参照してください。

また、両国の農協間の協力を推進しており、タイの農産物の品質改善にかかる研修や、農村における指導者の育成を支援しています。

(6)そのほかの公的資金や民間部門との連携

現状

最近の国際的援助潮流においては、日本が従来から主張してきた「成長を通じた貧困削減」が重視されるようになっています。2008年に開催されたG8開発大臣会合や第4回アフリカ開発会議(TICAD IV)、G8北海道洞爺湖サミットにおいても途上国の経済成長の重要性およびその促進のための民間セクターの役割の重要性が確認されました。民間企業の投資は、経済成長にとって不可欠であるのみならず、雇用創出や税収増加といった政府開発援助だけでは得られない開発効果をもたらすことから、途上国の首脳からも政府開発援助のみならず、日本企業からの投資への期待が多く寄せられています。東アジアなどでは、日本の政府開発援助などによるインフラ整備や人材育成が民間セクターによる事業展開や投資を促進させ、これらの地域の経済成長を牽引する要因の一つとなってきました。

一方、民間企業が開発途上国において事業の展開を図る場合、しばしば基礎インフラや法制度の未整備、優秀な現地労働者の安定的確保の困難、戦争・内乱・政治不安などの困難に直面します。

これらの困難を軽減するために、政府開発援助やその他の政府資金で民間の活動を側面支援し、民間企業による事業展開(直接投資)と政府開発援助などとの連携(官民パートナーシップ)を強化し、途上国の持続的経済成長に官民一体となって取り組むことが求められています。

官民連携への期待

外務大臣からの諮問を受け開催されている「国際協力に関する有識者会議」が2008年1月に発表した中間報告、日本貿易会が同年3月に発表した「わが国の国際協力のあり方について」の意見書、さらに日本経済団体連合会が同年4月に発表した提言「今後の国際協力のあり方について―戦略的視点の重視と官民連携の強化―」などにおいて、政府開発援助が日本の重要な外交手段であり、グローバル化が進む中で日本の経済成長にも貢献することが述べられるとともに、途上国の開発、成長のための官民連携の必要性と有効性について高い期待が寄せられています。

官民連携の推進

政府は、経済団体などからの各種提言を踏まえ、経済界と連携して官民連携促進の具体策の検討を行い、2008年4月、政府開発援助などと日本企業との連携強化の新たな施策「成長加速化のための官民パートナーシップ」を発表しました。この施策では、官民双方に有意義なパートナーシップを構築し、重要な対外政策を共有し、途上国の開発に官民一体となって取り組むことを目的としており、具体的には、①官民連携に関する民間からの提案案件の採択、実施(官民連携相談窓口を外務省、財務省、経済産業省、JICAに設置)、②政府開発援助関係省庁およびJICAなど実施機関と経済界との定期的な政策対話の実施、③途上国における官民連携の促進(現地日系企業が参画する「拡大現地ODAタスクフォース」の設置)を柱としており、既に実施されています。

民間企業との連携については、内外の援助関係者との連携も参照してください。

なお、JICAでは、民間、特に、NGOなどの民間団体が有するノウハウを活用するため、技術協力のプロジェクト形成段階において調査内容について広く提案を募集する「民間提案型」プロジェクト形成調査を2007年度に開始しました。このほか、民間の活力を積極的に活用するため、新規に45件の技術協力のプロジェクトを民間団体に委託しています。ほかにも、NGOなどへ委託するケースも見られるようになり、多様な団体のノウハウの活用が進んでいます。

(7)債務問題への取組

現状

開発途上国が債務として受け入れた資金を有効に利用し、将来的に成長が実現するなど、返済能力が確保される限りにおいては、債務は経済成長に資するものです。しかし、返済能力が乏しく過剰に債務を抱える場合には、債務は開発途上国の持続的成長の阻害要因となり、大きな問題となります。

債務の問題は、債務国自身が改革努力などを通じて自ら解決しなければならない問題ですが、過大な債務が開発途上国の発展の足かせになってしまうことは避けなければなりません。2005年のG8グレンイーグルズ・サミットでは、重債務貧困国(HIPCs注34))が国際通貨基金(IMF注35))、国際開発協会(IDA注36))およびアフリカ開発基金に対して抱える債務を100%削減するとの提案に合意がなされました(注37)。最貧国の債務問題に関しては、これまでに33か国のHIPCsが拡大イニシアティブ(注38)の適用を受けていますが、経済・社会改革などへの取組が一定の段階に達した結果、2007年度末には、そのうち23か国で包括的な債務削減が実施されています。

また、重債務貧困国以外の低所得国や中所得国についても、重い債務を負っている国があり、これらの負担が中長期的な安定的発展の足かせとならないように適切に対応していく必要があります。2003年、パリクラブ(注39)において、「パリクラブの債務リストラに関する新たなアプローチ」(エビアン・アプローチ)が合意されました。エビアン・アプローチでは、重債務貧困国以外の低所得国や中所得国を対象に、従来以上に債務国の債務持続可能性に焦点を当て、各債務国の状況に見合った措置が個別に検討されます。債務の持続可能性の観点から見て、債務負担が大きく、支払い能力に問題がある国に関しては、一定の条件を満たした場合、包括的な債務救済措置がとられることになりました。

日本の取組

開発途上国で債務問題が発生することがないよう十分配慮して援助を行うとともに、債務問題が発生している国については、債務国自身の努力により中長期的な成長が達成され、債務返済能力が回復することが必要であるとの立場を基本としながら、国際的な枠組の中で問題解決に取り組んでいます。例えば、パリクラブにおける合意を受けた債務の繰延(注40)、免除、削減などの措置によって、債務救済措置に協力しています。また、G8グレンイーグルズ・サミットにおける拡大イニシアティブに基づき、2003年度以降、約5,000億円の債務免除を行っています。2007年度は、シエラレオネに対して約39億円の円借款の債務免除を行いました。日本は、債務免除が債務国の貧困削減などに有益なものになるよう貧困削減戦略文書(PRSP注41))の下で、モニタリングを行うこととしています。

(8)文化復興・振興

実績

2007年度の実績は以下のとおりです。

無償資金協力
一般文化無償資金協力:約17.9億円
(14件、14か国)
草の根文化無償資金協力:約2億円
(35件、27か国)
技術協力
研修員受入:19人(注42

現状

開発途上国では、その国の文化の振興に対する関心が高まっており、多くの国では、文化の側面を含めた国づくりの努力がなされています。また、歴史的な文化遺産は、未来に向けて保護していかなくてはなりません。文化遺産の保存は民族の誇りなどを育むほか、世界的に貴重な文化遺産を観光資源などに有効活用することによって、住民の所得向上の効果が期待されます。しかし、多くの開発途上国においては、既存の文化施設や遺産の保全・修理に容易に予算を割くことができない状況にあり、このような遺産の保全状態は必ずしも良好とはいえません。これらの文化遺産は、開発途上国のみならず、人類全体にとってかけがえのないものであり、国際社会全体の課題として取り組む必要があります。

日本の取組

開発途上国の文化振興や歴史的遺産の保全のため、様々な取組を実施しています。国際的にもあまり例を見ない文化を対象とした文化無償資金協力では、開発途上国の文化や高等教育の振興のための協力を行っており、世界各国で高い評価を得ています。例えば、2007年度、モンゴルの自然史博物館に展示および視聴覚機材整備のための資金を供与しました。また、トルコにおいては考古学博物館建設のための資金供与を行い、この地域の遺跡保護や観光資源としての活用が期待されます。このほかにも、草の根文化無償資金協力を通じてエルサルバドル工科大学の人類学博物館展示機材整備やギニア国立博物館の修繕を行うなど、民族の歴史や伝統文化に対する探求心と自尊心を育む支援を行いました。

また、十分な保存や修復が実施されていない途上国の文化遺産への協力として、国連教育科学文化機関(UNESCO)に文化遺産保存日本信託基金を設立し、2007年度までに約5,340万ドルを拠出しています。この基金では、文化遺産の保存・修復作業、そのために必要な専門家の派遣や機材供与、事前調査、人材育成などを行っており、例えば、カンボジアのアンコール遺跡やチリのイースター島におけるモアイ像をはじめとする32件の遺跡の保存・修復を実施してきました。一方、民族などの舞踊や伝統芸能、伝統工芸、口承文芸などの無形文化財についても、UNESCOに無形文化財保存・振興日本信託基金を設立し、継承者の育成や記録保存などの保存・振興事業を行っています。この基金への拠出は1,257万ドルとなっており、2007年度末で、45件のプロジェクトが実施されています。