2. 社会開発への支援

開発途上国の貧困削減のためには、持続的成長に向けた経済的な取組に加え、教育や保健などの基礎社会サービスを受けられないことや、性別による社会的格差(ジェンダー格差)、意思決定過程への参加機会がないことに対する社会的、政治的な取組を行っていく必要があります。世界共通の開発目標であるミレニアム開発目標(MDGs)でも、初等教育の普及、保健の改善やジェンダー平等の推進などが8つの目標の中に掲げられ、国際社会は2015年までの達成を目指して努力しています。以下では、日本の社会開発分野での支援について説明します。

(1)教育

実績

2007年度の実績は以下のとおりです。

有償資金協力(円借款)
146億円(1か国)
無償資金協力
約145億円(28か国)
技術協力
研修員受入:1,447人
専門家派遣:496人
協力隊員等派遣:317人

現状

教育は、それぞれの国の経済社会開発において重要な役割を果たすとともに、一人ひとりが自らの才能と能力を伸ばし、尊厳を持って生活することを可能にします。しかし、世界には、様々な理由から、今なお学校に通うことのできない子どもたちが7,200万人以上もおり、そのうち女子が約6割を占めています。また、最低限の識字能力を持たない成人も7億7,400万人にのぼり、その3分の2は女性です(注43)。

このような状況の改善に向け、国際社会は、1990年以降、すべての人に基礎的教育の機会を提供する「万人のための教育(注44)」の実現に取り組んでいます。2000年に採択されたダカール行動枠組みの一部(初等教育の完全普及の達成およびジェンダー平等)は、ミレニアム開発目標(MDGs)にも盛り込まれており、国際社会全体がこれらの目標達成のために努力しています。

日本の取組

日本は、従来から「国づくり」と「人づくり」を重視し、開発途上国における基礎教育、高等教育および職業訓練の拡充に向けた支援に加え、日本の高等教育機関への留学生受入などを通じた幅広い分野における人材育成支援に取り組んでいます。留学生の受入については、2008年1月、福田康夫総理大臣(当時)の施政方針演説において「留学生30万人計画」が表明され、政府として留学生交流を拡大するための具体的な取組を進めていくこととしています。

また同月、ダボス会議にて、福田総理大臣(当時)は、人間の安全保障の観点から、G8北海道洞爺湖サミットでの重要議題の一つとして「開発・アフリカ」を取り上げ、「保健・水・教育」に焦点を当てて取り組むことを発表しました。これを踏まえ、2008年4月、高村外務大臣(当時)は「万人のための教育―自立と成長を支える人材育成のために―」と題する政万人(うちアフリカで10万人)の理数科教員の能力向上、③アフリカ1万校の学校運営改善を通じた1策演説を行い、「万人のための教育」およびMDGs達成のためには、質・量両面における基礎教育のさらなる充実、基礎教育を超えた多様な教育段階の支援強化、教育と他分野との連携、内外を通じた全員参加型の取組を重視すべきとのメッセージを発信しました。その具体的な取組として、2008年からの5年間で、①アフリカで約1,000校、約5,500教室の建設、②全世界で約3000万人以上の生徒の学習環境改善に取り組むことを表明しました。

日本の教育分野におけるアフリカ支援についてはこちらを参照してください。

基礎教育における取組

日本は「万人のための教育」の達成に向けた努力を支援しています。2002年に日本が発表した「成長のための基礎教育イニシアティブ(BEGIN注45))」に基づき、教育機会の確保、質の向上、そしてマネジメント改善の三点を重点項目として、学校建設などのハード面の支援と教員養成などのソフト面の支援を組み合わせた支援を実施しています。また、EFAダカール行動枠組みの達成に困難を抱える低所得国を支援するため、教育分野(留学生支援、職業訓練などを含む)2,500億円以上の支援を実施してきました。2007年度には、マリにおいて低就学率の原因となっている教育環境の不備を改善するため、教室やトイレの建設を無償資金協力で行いました(注46)。また、バングラデシュにおいて、小学校の理数科教育の強化のため、算数や理科の教師用指導書の開発や当該指導書を活用した小学校教員などへの研修を行いました。この教師用指導書は、その有効性が認識され、バングラデシュ全国の小学校に配付されることとなりました。

また、「2015年までの初等教育の完全普及」などを目指す国際的な支援枠組みであるファスト・トラック・イニシアティブ(FTI注47))では、日本は、多くの開発途上国に対して二国間援助や国際機関を通じた支援を実施するとともに、FTIの関連基金に対して拠出を行っており、2007年度については、計240万ドルを拠出しました。また、日本は、2008年1月からG8議長国としてFTI共同議長国を務め、FTIの議論に深く関与しており、4月には東京においてFTI実務者会合および関連会合を1週間にわたって開催しました。

自立と発展につながる教育

日本は、基礎教育のみならず、技術教育や高等教育を通じて、その国の経済を支える人材の育成や社会基盤の底上げ支援を行っています。例えば、現地の雇用状況に合った技術教育の実施、産業界との効果的な連携、女性の自立に向けた小規模融資と組み合わせた職業訓練の支援を行っています。高等教育分野でも、その量・質の拡充とともに、近年では、国境を越えた高等教育機関のネットワーク化の推進や、一国のみならず周辺地域各国との共同研究、研修・留学などの多様な制度を通じて途上国の人材育成を支援しています。

理数科・理工系教育支援

青年海外協力隊員として理数科教育を行う現職教員(マラウイ)
青年海外協力隊員として理数科教育を行う現職教員(マラウイ)
(写真提供:柿良樹)

理数科教育は、開発途上国が科学技術の進歩や経済・社会の発展を実現するために不可欠です。また、人間の探究心や論理的思考、創意工夫・発明力を創造することによって、豊かな人間性を育む役割も担っています。日本は、明治以降の教育の近代化とともに、科学技術振興に向けた理数科教育による人材育成によって発展してきました。こうした経験に基づき、開発途上国の理数科・理工系教育の質の改善に積極的に取り組んでいます。また日本の理数科教育支援は、アフリカにおける理数科教育強化のための域内連携ネットワーク(SMASSE-WECSA注48))、中南米における算数大好きプロジェクト(注49)など、各地域での広域協力へと発展しています。

紛争終結後の国づくりにおける教育への支援

紛争終結後の国づくりにおいて、教育は復興の基盤となるばかりでなく、相互理解を促進し平和の礎ともなるものです。また、個人の能力開発を行うことにより、個人が外部の脅威から自らを守る力をつけるという、人間の安全保障を推進する観点からも重要です。例えばアフガニスタンでは、2005年度から識字教育や除隊兵士の社会復帰のための技能訓練などを支援しています。2007年度にも、紛争予防・平和構築無償資金協力としてアフガニスタンにおける識字教育体制を整備するため、UNESCOを通じ、識字教材開発・制作、識字用教員トレーナーの育成などの支援を行いました。また、スーダン、エリトリア、ルワンダなどの紛争終結国においても、基礎的な職業訓練などを通じて貧困層の人々の生計向上を支援しています。

教育研究関係者の知見および現職教員の活用

日本は、国内の大学が持つ「知」(研究成果や高度人材育成機能)を国際協力に役立てることで、開発途上国の持続的発展に貢献することを目指す「国際協力イニシアティブ」を推進しています。主な取組として、日本の教育研究関係者が持つ知見をもとに国際協力に有用な教材やガイドラインなどを作成し、それらを広く活用できるよう公開しています。また、日本の教育経験を活かした国際協力を進める上で、現職教員が途上国において協力活動に従事することは非常に有益です。このため、「青年海外協力隊現職教員特別参加制度」(注50)により現職教員の青年海外協力隊への参加を促進しています。2002年度以来、累計511名の現職教員が派遣され、開発途上国での教育協力活動の場で活躍しています。また、帰国後には、国内の教育現場でその経験を活かしています。

さらに、2008年度の動向として、2008年4月、開発途上国における科学技術に関する知見の蓄積と人材育成を促進するため、政府開発援助の一部を活用し、途上国側との国際共同研究を促進させる取組が開始されました。この取組では、環境・エネルギー、防災、感染症対策などの地球規模課題の克服のため、外務省が文部科学省と協力し、日本と途上国の大学や研究機関との国際共同研究を促進する仕組みを立ち上げました。

(2)保健医療・福祉

実績

2007年度の実績は以下のとおりです。

感染症に関する日本の実績については、こちらを参照してください。

無償資金協力
約133億円(36か国)
技術協力
研修員受入:4,619人(注51
専門家派遣:757人
協力隊員等派遣:316人

現状

多くの開発途上国の人々は、先進国であれば日常的に受けられる基礎的な保健医療サービスを依然として受けることができずに苦しんでいます。予防接種制度や衛生環境などが整備されていないために、感染症や栄養障害、下痢症などの回避可能な原因によって、毎日2.5万人以上の子どもが5歳未満で命を落としています。また、助産師などの専門技能者による緊急産科医療にかかれないために、毎年50万人以上の妊産婦が命を落としています(注52)。ミレニアム開発目標(MDGs)では、保健医療分野の目標として、乳幼児死亡率の削減、妊産婦の健康の改善、感染症などのまん延防止の3つが掲げられています。

感染症については、こちらを参照してください。

日本の取組

日本は従来から国際保健分野において様々な取組を行ってきました。2000年のG8九州・沖縄サミットでは、サミット史上初めて途上国の感染症問題が主要議題の一つとして取り上げられました。2000年度から2004年度には、包括的な感染症対策支援として、「沖縄感染症対策イニシアティブ(IDI)」が発表され、日本は、総額約58億円を拠出しました。このG8九州・沖縄サミットを契機に、感染症問題への国際社会の関心が高まり、2002年には、「世界エイズ・結核・マラリア対策基金」が設立されました。日本はこれまでに約8億5,000万ドルを拠出するなど、三大感染症対策に貢献しています。さらに、2005年に開催された「保健関連MDGsに関するアジア太平洋ハイレベル・フォーラム」にて日本は、「『保健と開発』に関するイニシアティブ(HDI注53))」を発表し、2005年度から2009年度までの5年間に50億ドルの支援を行うことを表明しました。このイニシアティブの下、人間の安全保障の視点を重視しつつ、三つの保健関連MDGsへの直接的な対策に加えて、保健医療システムの整備のほか、ジェンダー平等のための支援、教育、水と衛生、病院施設などのインフラ整備などの分野横断的取組を行うことによって、包括的な保健医療支援を実施しています。

開発途上国における保健医療支援では、直接的な疾病に対する支援のみならず、保健医療の基盤強化も重要です。この考え方に基づき、開発途上国の実情に即した保健医療制度の構築、地域保健医療の強化、予防活動の強化、保健医療に携わる人材の育成、保健医療インフラの整備などを支援しています。例えば、タンザニアでは、モロゴロ州をモデル地区として選定し、地域の実情を踏まえた計画策定やモニタリング評価にかかる保健行政官の能力向上を支援しました(注54)。モロゴロ州での成果は、タンザニアの地方保健行政システムにおける障害となっている州保健行政の運営能力を高めることに成功した好事例として、タンザニア政府から高い評価を受けました。現在はこの経験を踏まえて、タンザニア全土に対象を拡大し、州保健行政の能力強化に取り組んでいます(注55)。

母子保健に関する支援

母子保健を取り巻く問題は、医療サービス、医療制度、公衆衛生から、母親となる女性を取り巻く社会環境まで多岐にわたっています。開発途上国、特に後発開発途上国(LDC注56))においては、妊産婦の健康の改善、乳幼児の死亡・疾病の低減、性感染症・HIV/エイズへの対策が急務となっています。2008年5月の第4回アフリカ開発会議(TICAD IV)の横浜行動計画では、今後日本が1,000か所の病院および保健センターの改善を支援していくことが発表されました。、2007年度、アフリカのベナン最大の母子病院であるラギューン母子病院において適正かつ衛生的な医療活動が可能になることを目的として、病院施設および機材の強化を行いました(注57)。

妊産婦の健康の改善については、助産師・看護師など母子保健サービスに従事する人材の育成、緊急産科の体制整備、緊急産科施設への物理的・社会的アクセスの確保(道路の整備や、女性が適切な産科診療を受けることのできる社会環境づくりなど)に対する支援を実施しているほか、望まない妊娠の低減のために、家族計画の教育・情報提供、避妊法・避妊具(薬)の普及、思春期人口への教育の推進などへの支援にも取り組んでいます。

日本の保健分野におけるアフリカ支援については、こちらを参照してください。

乳幼児の死亡・疾病の低減については、乳幼児の死亡原因となりうるポリオ、はしか、破傷風などの疾病に対する予防接種や、蚊帳の配布などのマラリア対策を支援しています。また、小児下痢症に対し経口補水液の普及を図った基礎医療サービス支援も実施しています。深刻なHIV/エイズの母子感染の対策として、保健サービスや情報へのアクセスを考慮し、例えば妊娠・出産にかかわる健康管理のため、性感染症対策や自発的な検査とカウンセリング(VCT注58))活動を行うなどして、多方面からの配慮と包括的なアプローチで支援を行っています。例えば、2006年度以降、シリアのアレッポ県において、妊産婦の健康の状況を改善するための支援を行っています。

関係機関との連携

ユニセフが支援するアツア病院で患者と対話する御法川信英外務大臣政 務官(ガーナ)
ユニセフが支援するアツア病院で
患者と対話する御法川信英外務大臣政務官(ガーナ)

日本は、2002年以降、「保健分野における日米パートナーシップ」に基づき、米国国際開発庁(USAID注59))との間で、効率的・効果的な援助実施のため、人事交流や合同での調査、評価などを行っています。セネガルでは、2005年度からJICAとUSAID、国連人口基金(UNFPA注60))、NGOとの連携を通じて、青年カウンセリングセンターの設置、啓発活動を全国で展開(注61)しています。また、政府は保健分野に知見を有するNGOとの連携を進めています。

2007年8月、東南アジア諸国連合(ASEAN)事務局および世界保健機関(WHO)などの協力を得て、ASEAN10か国から社会福祉および保健・医療政策を担当する行政官を招へいし、第5回ASEAN・日本社会保障ハイレベル会合を開催しました。この会合では、地域における高齢者の福祉および保健サービスの提供、福祉と保健の連携、人材育成、地域開発に焦点を当てて、各国の状況、対応策、モデル事例といった情報・経験が共有され、今後のASEAN諸国の取組に向けて建設的な提言が行われました。

(3)水と衛生

実績

2007年度の実績は以下のとおりです。

有償資金協力(円借款)
2,543億円(10か国)
無償資金協力
約246億円
技術協力
研修員受入:257人
専門家派遣:127人

現状

水と衛生の問題は人の生命にかかわる重要な問題です。世界保健機関(WHO)と国連児童基金(UNICEF)(注62)によれば、上水道や井戸などの安全な水を利用できない人口は2006年に世界で約10億人います。さらに水と衛生の問題により年間約150万人の幼い子どもの命が奪われています。また、世界で約25億人が下水道などの基本的な衛生施設を利用できない状況にあり、うちアジアが約18億人、サブ・サハラ・アフリカが約5億人となっています。

このような状況を反映し、国連はミレニアム開発目標(MDGs)の中で「安全な飲料水および基本的な衛生施設を継続的に利用できない人の割合を2015年までに半減する」という目標を掲げるとともに、2005年から2015年を「『命のための水』国際の10年」として様々な取組を進めています。例えば、国連持続可能な開発委員会(CSD注63))は、水、衛生施設および人間居住を特定テーマとして取り上げ集中的に討議してきました。また、国連「水と衛生に関する諮問委員会」での第4回世界水フォーラム(2006年3月)の機会に「橋本行動計画(Hashimoto ActionPlan)」(注64)を発表しました。また、G8北海道洞爺湖サミットでは、2003年のG8エビアン・サミットで策定された水に関するG8行動計画を再活性化することが宣言されました。

日本の取組

日本は、水と衛生の分野では、従来から国際社会の中でも最大規模の支援を行うなど、大きな貢献をしています。2003年の第3回世界水フォーラムでは「日本水協力イニシアティブ」を発表し、水分野の支援における包括的な取組を表明しました。また、2006年の第4回世界水フォーラムでは、水と衛生分野で国際機関、ほかの援助国、内外のNGOなどとの連携を強化し、一層質の高い援助を追求するため、「水と衛生に関する拡大パートナーシップ・イニシアティブ(WASABI注65))」を発表しました。

国際的なパートナーシップの強化のため、日本は、「きれいな水を人々へ」イニシアティブに基づき米国との連携を進めています。現在、インドネシア、インド、フィリピン、ジャマイカの4か国において、米国国際開発庁(USAID注66))との間で試験的な協力が行われています。フィリピンでは、USAIDと協調して技術協力を行っているほか、円借款により支援を受けたフィリピン開発銀行による融資とUSAIDの保証制度を組み合わせた事業を「地方自治体・上水道事業計画」として実施し、水・衛生事業への民間投資の促進を図っています。

WASABIの下では、水利用の持続可能性の追求のため、治水・利水をはじめ統合的に水を管理していくための総合的な取組を推進しています。例えば、インドのオリッサ州では、下水道施設や雨水排水施設の整備などを行い、貧困層を含む住民の衛生・生活環境の改善を図るための円借款供与(注67)を行っています。また、同州では、上下水道事業の運営・維持管理業務を州政府から地方自治体に移管(権限委譲)するなどのセクター改革が進められており、このための行動計画がUSAIDの支援によって策定されています。

水の防衛隊

TICAD IVにおいて、福田総理大臣(当時)は、「水の防衛隊」構想を発表しました。この構想は、安全な水を安定的に供給することができないアフリカ諸国などに日本の技術者などを派遣し、より多くの人々が生活水を安定的に入手できるようにすることを目的としています。具体的には、地下水掘削、ポンプ技術、配水管管理などの分野に関し、青年海外協力隊やシニア海外ボランティア、調査団により技術者を派遣することが想定されています。2008年8月、タンザニア、エチオピア、セネガルに「水の防衛隊」を具体化するための調査団が派遣されました。同調査団は、各国における上水道の現状やこれまで日本が実施してきた技術協力などに関して調査を行い、関係政府機関などから情報を収集し、さらに、具体的な協力の内容について協議・検討を行いました。今後、この構想に基づいた具体的なプロジェクトの始動を目指しています。

(4)農業・農村開発/水産

実績

2007年度の実績は以下のとおりです。

有償資金協力(円借款)
約756億円(6か国)
無償資金協力:約155億円(29か国)
貧困農民支援:約57億円
水産無償資金協力:約46億円
技術協力
研修員受入:5,116人(注68
専門家派遣:1,110人(注69
協力隊員等派遣:274人

現状

開発途上国の貧困層は4人のうち3人という割合で農村地域に居住しており、生計を主に農業に依存しています(注70)。ミレニアム開発目標(MDGs)は、「2015年までに飢餓に苦しむ人口の割合を1990年の水準の半数に減少させる」など貧困削減および飢餓の撲滅を主要目標に掲げており、持続可能な経済成長を通じた貧困削減のためには、農業や農村開発が不可欠です。特にアフリカ地域の飢餓状況は深刻で、サブ・サハラ・アフリカの人口の3分の1にあたる約2億人が飢餓に苦しんでいるといわれています(注71)。この問題を解決するためには、開発途上国が持続的に食料を生産・供給できるような体制の整備が必要です。また、持続可能な食料確保のための水産業の振興支援も課題の一つとなっています。

日本の食料分野におけるアフリカ支援については、こちらを参照してください。

日本の取組

日本は食料不足に直面している開発途上国に対して、危機回避のための短期的な取組として食糧援助を行っています。また、飢餓を含む食料問題を生み出している原因の除去および予防の観点から、開発途上国の農業生産性の向上に向けた努力を中長期的に支援する取組も並行して進めています。

日本の農業分野における援助量は、国際的に高い水準にあります。日本の過去5年間(2002年〜2006年)の農林水産分野における援助額は、DAC加盟国の中でも最大であり、この分野における全援助額の約29%を占めています。

日本の知見を活かした取組としては、効率的な水利用と農民の自助努力の促進のため、農民の組織化に対する支援を実施しています。これは、日本の農民参加型水管理組織(土地改良区制度)を参考に、安定的な農業用水の確保および効率的な水利用を図るため、低コスト・節水型の末端かんがい設備の整備手法の技術移転を行いながら、維持管理を農民自身が行うことを目指しています。2007年にはベトナム(注72)、フィリピン(注73)などをはじめとするアジアモンスーン地域の水田地帯において、農民参加型水管理組織の育成や能力強化に関する技術協力を実施しました。タイにおいては、既に日本の協力により農民水管理組織が設立され、農民主体の運営が開始されており、効率的な水利用が図られています。

また、国際機関との連携も進めており、国連食糧農業機関(FAO注74))、国際農業開発基金(IFAD注75))、国際農業研究協議グループ(CGIAR注76))、国連世界食糧計画(WFP注77))、世界銀行などの国際機関を通じた農業分野への支援も積極的に行っています。

日本の食料支援については、こちらを参照してください。

農業分野における砂漠化対策

急速な人口増加や貧困問題などによって家畜の過放牧や過耕作、干ばつの頻発などにより、乾燥地域の土地が劣化し、農業生産性が低下、水資源が不足する土地の急激な砂漠化が進行しています。日本は、これまで、マリ、ブルキナファソ、ニジェール、エチオピア、モンゴルなどに対して、砂漠化の進行状況の把握や原因分析、砂漠化の進行が著しい現地の実証圃場での試行を通じて、農業・農村開発に向けた協力を行ってきました。2007年度には、中国の新彊ウイグル自治区において、過放牧により天然草地の85%が砂漠化の危機にひんしている状況を改善するため、牧畜民への有効な水利用技術、栽培技術、畜舎飼育技術などの技術普及体制を整備する協力(注78)を開始しました。これらの協力を通じ、牧畜民の生計向上による貧困削減や草地の持続可能な管理を目指しています。

ネリカ稲の開発・普及

農業試験場において作業指導をするJICA専門家(ウ ガンダ)
農業試験場において作業指導をするJICA専門家(ウガンダ)
(写真提供:JICA

アフリカにおける農業生産性向上の具体的な取組の一つに、高収量のアジア稲と病気・雑草に強いアフリカ稲を交配し、病気に強く高収量の品種であるネリカ稲(NERICA注79))の開発・普及支援があります。日本は、ネリカ稲の開発拠点であるアフリカ稲センター(WARDA注80))の活動を支援しているほか、UNDPFAOを通じて普及事業に対する支援を行っています。また、ウガンダやベナンへのネリカ稲普及のための専門家の派遣、アフリカ各国で実施するネリカ栽培試験への支援などを通じて、2007年度末までに18か国でネリカ稲の普及も進めています。その結果、ギニアやウガンダにおいて、農家レベルでのネリカ稲栽培が広がっており、周辺国でもネリカ稲栽培が始まっています。

ネリカ稲の普及支援を強化するためには精米所の不足といった収穫後処理、稲作関係者の人材育成、干ばつ対策としての補助かんがい方法の確立、優良種子や肥料へのアクセスの向上などに取り組むことが重要となります。

水産分野での取組

日本は、漁業面における日本との友好関係の強化と開発途上国の水産業の発展に貢献するため、水産分野での支援も実施しています。これまでに、水産業に関係するインフラ整備や漁業訓練センターへの訓練機材などの供与を行っているほか、漁業・養殖業などの技術協力、地域漁業団体を通じた零細漁民の所得向上のための支援を行っています。ガボン政府からの要請に基づき、2005年度から2007年度末にかけて、ガボン内陸部住民への十分なたんぱく質の供給のため、テラピア魚の養殖技術向上のための協力を行いました。このプロジェクトでは、財団法人海外漁業協力財団(OFCF Japan(注81))を実施団体とし、機材供与や専門家を派遣しました。また、2006年度および2007年度に無償資金協力により、中南米のセントビンセントおよびグレナディーン諸島のオウイア湾において漁業の安全性確保、水揚げ作業の効率化のため、防波堤の整備などを支援しました(注82)。オウイア湾は、波浪条件が厳しく、ハリケーンの襲来地帯でもあり漁業活動の基本施設が整備されていない状況でしたが、この支援により、水揚げ量の増加、漁業者の労働環境の改善が期待されています。

(5)社会的性差(ジェンダー)

現状

開発途上国における社会通念や社会システムは、一般的に、男性の視点に基づいて形成されていることが多いため、女性は様々な面でぜい弱な立場に置かれています。さらに、世界の貧困層の約7割は女性であるといわれています。開発途上国の持続的な開発を実現していくためには、男女の均等な開発への参加と受益を図る必要があります。

日本の取組

男女共同参画の重要性を踏まえ、二国間および多国間の枠組みにおいて、開発途上国の女性の地位向上のための様々な取組を行っています。

2005年、1995年に策定されたWomen inDevelopment( WID:開発と女性)イニシアティブを抜本的に見直しGender and Development(GAD:ジェンダーと開発)イニシアティブを新たに策定しました。このイニシアティブでは、女性の教育、健康、経済・社会活動への参加のみならず、男女間の不平等な関係や、女性の置かれた不利な経済社会状況、固定的な男女間の性別役割・分業の改善などを含む、あらゆる分野においてジェンダーの視点を反映することを重視しています。また、「開発におけるジェンダー主流化」(注83)の推進のため、政策立案、計画、実施、評価のすべての段階にジェンダーの視点を取り入れるための方策を示しています。

また、日本が国連開発計画(UNDP)内に設立した日・UNDPパートナーシップ基金では、例えば、主に女性によって無報酬で担われている「ケア」(育児、介護、食事の支度など、人のケアにかかわる労働)を経済学的にあらわしたケア・エコノミーという概念を用いて、ジェンダーの課題を洗い出し、政策提言を行うことを目指しています。さらに、ケア労働について、国際機関や研究機関と協働で調査・分析、シンポジウムなどを通じた政策提言や広報活動を展開しています。こうした取組を通じて、マクロ経済・国際金融政策の中でケア労働が国家経済や貧困削減にどのように貢献しているかを正当に評価することを目指しています。2007年からナイジェリアにおいて、貧困層女性の生活向上のための調査研究や研修、職業訓練事業を行っている女性開発センターへの協力を行っています。この技術協力プロジェクトでは、貧困層女性の生活向上のための十分な現状把握、識字や衛生、保健教育、収入向上といった貧困女性のニーズにあわせた活動、女性がそれらを学ぶことに対する家族の理解を得るための啓発活動などを実施するため、専門家の派遣や研修員の受入を行っています。