コラム⑥ 「アジアのデトロイト」の実現に向けて

〜官民連携プロジェクトで活躍するJICA専門家〜

日タイ官民の思いが一つ


運営委員会の様子(左正面、左から2番目が亀屋専門家)

アジアのデトロイトを目指そう―タイ政府はこのような強い熱意を持って自動車産業振興に取り組んでいます。2007年には年間129万台を生産し、世界第15位の自動車生産国になり、2011年までに年間生産台数を200万台まで引き上げ、世界のベスト10入りを目指しています。環境配慮を重視した“エコカー”生産にも乗り出すことになりましたが、ここでタイ人技術者の不足、人材育成の問題が浮き彫りとなりました。

1999年にタイで自動車生産拠点とする構想が議論され、その中で課題となったのが「裾野産業人材育成の必要性」です。これを受け、タイ工業省、タイ工業連盟(FTI)、日本貿易振興機構(JETRO)、盤谷日本人商工会議所(JCCB)自動車部会(中心メンバーは、トヨタ、日産、ホンダ、デンソーの4社(順不同))人材育成委員会および日タイの民間企業で検討を重ね、JETRO、JCCB、タイ工業省およびFTIで「自動車裾野産業人材育成」に関わる覚書を交わし、その後、日本の財団法人海外技術者研修協会(AOTS)も加わって、官民による現場の人材育成協力がスタートしました。

一方で、タイ政府は、現場の技術と技能検定などの制度を一体化した人材育成システムの構築が重要と考え、日本政府に対してシステム構築の技術協力の要請を行いました。こうして2006年12月政府開発援助(ODA)を含む日タイの官民連携による「自動車裾野産業人材育成プロジェクト(AHRDP)」が開始されました。政府開発援助で、日本の政府と民間、開発途上国の政府と民間が共にプロジェクトを推進することは珍しく、日タイ官民の4者の思いが一つになったケースです。


研修機材状況確認を行う亀屋専門家(左側)

このプロジェクトの中で、アドバイザーとして活躍しているのが、JICA専門家の亀屋俊郎さんです。亀屋さんは、かつて自動車メーカーの車両設計部門に在籍し、その後通商産業省(現経済産業省)へ入省した経歴の持ち主で、アドバイザーの適任者として派遣されました。

亀屋さんの役割は、日本の民間企業によって育成されたタイ人研修講師を活用して、裾野産業人材育成を継続的に行うための政策・資格制度についてタイ政府に助言することです。意思決定機関となるのはこのプロジェクトの運営委員会ですが、開始当初は、出席者の発言も少なく、あまり活発な議論が行われませんでした。そこで、亀屋さんは会議に出席しているだけでは、タイ側の考え方は十分理解できないと考え、タイの現地企業の集会や部品工場などを何度も訪問することにし、そこで得た情報やタイ側の考えなどを次の会議で紹介し、議論に反映するよう努めました。亀屋さんは、タイの関係者から「よくぞ言ってくれた」と感謝されました。

また、日本とタイでは人材育成の考え方が異なります。例えば、2007年に亀屋さんがタイの工業省や部品メーカーの関係者を日本の工場見学に連れて行き、現場の人々との交流の機会を持った際、「日本の社員は、人材育成事業によって技術をみがく機会が与えられてもなぜ転職しないのか。」としきりに質問されたこともあったそうです。このような日タイ双方の考え方の違いをよく理解している亀屋さんは、タイの人々の質問に丁寧にこたえ、タイへの良きアドバイザーとなっています。

今後も日タイの官民連携が進むことにより、タイが目指している「アジアのデトロイト」が現実となるよう亀屋さんはタイの人々が活躍することを確信しています。