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(2)保健医療・福祉

 多くの開発途上国においては、先進国であれば日常的に受けることができる基礎的な保健医療サービスを依然として受けることができずに、多くの人が苦しんでいます。MDGsでは、保健医療分野の目標として、乳幼児死亡率の削減、妊産婦の健康の改善、感染症などのまん延防止の3つが掲げられており、こうした目標は貧困削減にも関連するものとして重視しています。日本は、母子保健、感染症対策、保健医療システムの整備を保健医療分野の重点課題として援助を行うとともに、保健分野の支援及び分野横断的取組、例えば、ジェンダー平等のための支援、教育分野における取組、安全な水の供給、インフラ整備支援なども行い、この分野での協力に主導的な役割を果たしています。
 2005年6月には、日本政府はADB、世界銀行、世界保健機関(WHO:World Health Organization)との協力のもと、「保健関連MDGsに関するアジア太平洋ハイレベル・フォーラム」を開催しました。この会議には、アジア太平洋地域の24か国から11名の閣僚を含む保健または財務・開発省関係の高官、またドナー国・国際機関・NGOの参加を得て保健に関連するMDGs実現に向けた現状と課題などについて協議しました。さらに、日本政府は、同会議で保健MDGsの達成に、より焦点をあてた「「保健と開発」に関するイニシアティブ」を推進する旨表明しました(同ハイレベル・フォーラムについては第II部第2章第1節2(ハ)、同イニシアティブについては囲み II-5を参照して下さい)。
 ここでは、保健医療体制の基盤整備に関する支援、母子保健に関する支援、国際協調について、日本の取組を説明します(感染症対策については、第II部第2章第2節3.(2)を参照して下さい)。

(イ)保健医療体制の基盤整備に関する支援
 国際的には、抗ウィルス薬の患者への提供を通じたHIV/エイズ対策など、直接的な疾病対策に焦点が当てられる傾向にあります。一方、日本としては、直接的な疾病対策とともに、開発途上国内における公衆衛生の確立が疾病予防のために極めて重要な役割を果たすと認識しています。このため日本は、より多くの人々へ平等に基礎的な保健医療サービスを提供するという、「プライマリー・ヘルス・ケア」の視点に立った地域保健医療及び予防活動の強化、また、開発途上国の実情に即した保健医療制度の構築、保健医療に携わる人材の育成及び保健医療インフラの整備といった、国全体の保健医療システムの整備及び改革を支援しています。こうした支援として、2001年度より、セネガルの保健医療従事者教育の量の拡大と質の向上を目的とした「保健人材開発促進プロジェクト」を実施しています。

(ロ)母子保健に関する支援
 母子保健を取り巻く問題は、医療サービス、医療制度、公衆衛生から、母親となる女性を取り巻く社会環境まで多岐にわたっています。開発途上国においては、特に後発開発途上国(LDC:Least Developed Countries)においては、妊産婦の健康の改善、乳幼児の死亡・疾病の低減、性感染症・HIV/エイズへの対策が急務となっています。
 妊産婦の健康の改善については、日本の母子手帳の経験を応用したインドネシアにおける「母と子の健康手帳普及プロジェクト」や、助産師・看護師など母子保健サービスに従事する人材の育成、緊急産科ケアの体制整備、緊急産科ケア施設への物理的・社会的アクセスの確保(インフラ整備やジェンダーの平等、女性のエンパワーメントなど)に対する支援を実施しました(母子手帳への支援については、第I部第2章第3節3も参照して下さい)。そのほか、望まない妊娠の低減については、家族計画の教育・情報提供、避妊法・避妊具(薬)へのアクセス改善、思春期人口への教育の推進などを支援しています。
 乳幼児の死亡・疾病の低減については、乳幼児の死亡原因となりうるポリオ、麻疹、破傷風などの疾病に対する予防接種を支援しています。これらは、比較的安価な介入により予防可能なものが多いことから、ワクチン接種の普及を支援しています。また、小児下痢症に対し経口補液の普及を図ったり、プライマリー・ヘルス・ケア・サービスの整備も実施しています。
 性感染症やHIV/エイズへの対策としては、予防の側面と治療・ケアの側面から取り組まなければなりません。保健サービスや情報へのアクセスを考慮し、例えばリプロダクティブ・ヘルス・サービス(性と生殖に関する健康)(注1)の中に、性感染症対策や自発的な検査とカウンセリング(VCT:Voluntary Counseling and Testing)活動を導入するなど、多方面からの配慮と包括的なアプローチで支援を行っています。

column II-3 ドミニカ共和国の「Hospital de los japoneses(日本人の病院)」

ヘルスセンターで妊娠シュミレーターを着け、家族計画などリプロダクティブ・ヘルスについて学ぶ男性(写真提供:家族計画国際協力財団(JOICFP))
ヘルスセンターで妊娠シュミレーターを着け、家族計画などリプロダクティブ・ヘルスについて学ぶ男性(写真提供:家族計画国際協力財団(JOICFP))

 日本は、UNICEF主導による緊急産科医療サービスの整備への協力や国連人口基金(UNFPA:United Nations Population Fund)、国際NGOである国際家族計画連盟(IPPF:International Planned Parenthood Federation)との連携などを通じた支援を行っています。2004年度には、アルメニアにおける安全な出産の促進と新生児の救命率向上を目的とした「産科業務改善計画」、UNICEFが東ティモールの医療機関における初期小児疾病及び出産前後に対応するための「母子保健改善計画」などに対して支援を実施しました。

(ハ)国際協調
 日本は、保健分野の援助に関して様々なパートナーとの間で政策対話、事業の計画から実施、評価・モニタリングの各段階において連携を進めています。NGOとの間では、外務省と日本の関係NGOが定期的に懇談会を開催して意見・情報交換を行っているほか、援助の実施に資するための各種調査をNGOに委託しています。UNICEFとの間では、1990年代初頭からポリオ根絶のための協力を継続しており、近年は、麻疹、破傷風などの小児感染症のワクチン接種、マラリアの治療薬や蚊帳の配布、安全な水の供給といった分野にも協力が広がっています。米国との間では、2002年6月に「保健分野における日米パートナーシップ」(注2)を発表し、米国国際開発庁(USAID:United States Agency for International Development)との間で開発途上国の保健医療水準を向上させるための協力を進めています。具体的には、ケニアにおけるVCT、タンザニアにおける国境地帯でのHIV予防活動などアフリカ、アジア、中南米の各地域における事業で連携しており、JICAとUSAIDとの間で人事交流も行っています。
 またASEANとの間では、2003年11月に東京にて、アジア諸国の福祉と医療分野での人づくりを目的とした「ASEAN+日本社会保障ハイレベル会合」をASEAN事務局及びWHOの協力を得て開催しました。同会合には、ASEAN10か国から福祉政策と保健・医療政策を担当するハイレベルの行政官を招へいし、各国の福祉・医療サービスにおける人づくりの役割を議論し、今後も定期的に議論を重ねていくことで合意しました。さらに2004年8月には、横浜にて第2回「ASEAN+日本社会保障ハイレベル会合」を開催しました。同会合では、アジア地域で近い将来共通する社会問題となり得る高齢化の問題と、それを支える福祉と医療の人づくりとの関わりを議論し、高齢化を支える福祉と医療の人づくりに必要な枠組みの構築、政策立案者が考慮すべき行動や第3回会合では障害者保健福祉・母子保健福祉を議論することなどが提案されました。
 既に述べてきたとおり、MDGs達成に向けた協力において日本は積極的に貢献しています。2003年5月に、世界銀行、カナダ、英国の共催で開かれた「保健・栄養・人口に関するMDGsについての調和行動会合」で、日本は、[1]開発途上国政府自身のオーナーシップとリーダーシップがより一層必要とされること、[2]保健医療システムの構築や保健行政改革などが必要なことから国別のアプローチが基本となること、また、[3]感染症は国境を越える問題であるため、地域全体としての取組や南南協力の推進が重要であること、[4]各国・各地域の実情に即した多様な援助方法の活用が重要であること、の4点を基本として調和行動の枠組みを策定すべきであるとの考え方を主張しました。さらに、2004年1月にジュネーブにおいて開催された「保健MDGsに関するハイレベル・フォーラム」では、日本は、援助資金を有効に活用するための現場の対応能力を向上させていくこと、とりわけ、少なくとも10年以上の長期的な計画にのっとって保健分野の人材育成を推進していくことの重要性を強調しました。2004年12月にナイジェリアの首都アブジャにおいて開催された、第2回「保健MDGsに関するハイレベル・フォーラム」では、保健医療分野における南南協力の重要性を強調しました。2005年6月の「保健関連MDGsに関するアジア太平洋ハイレベル・フォーラム」では、これまでの日本による保健医療分野における協力に対する評価・謝意表明がなされるとともに「保健と開発」に関するイニシアティブのもとでの保健MDGs達成に向けた一層の取組の強化・拡充に対する強い期待感が表明されました。(「保健関連MDGsに関するアジア太平洋ハイレベル・フォーラム」については第II部第2章第1節2(ハ)も参照して下さい。)


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