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(3)水と衛生

 WHOUNICEFが作成した「水と衛生におけるMDG達成に向けて-進捗状況の中間報告」(2004年8月)によれば、上水道や井戸などの安全な水を利用できない人口は2002年に世界全体で約11億人おり、そのうち、アジアが約7億人、アフリカが約3億人となっています。また、全世界で約26億人が下水道などの基本的な衛生施設を利用できない状況にあり、うちアジアが約19億人、アフリカが約5億人となっています。
 水と衛生の問題は人の生命に関わる重要な問題であり、WHOによれば、安全な水や下水道などの基礎的な社会サービスが利用できないために、1日約5,000人の幼い子どもの命が奪われています。このような状況を改善するために、国連は、MDGsの中で「2015年までに、安全な飲料水及び衛生施設を継続的に利用できない人々の割合を半減する」という目標を掲げるとともに、2005年から2015年までを「「命のための水」国際の10年」とするなど様々な取組を進めています。例えば、国連持続可能な開発委員会(CSD:UN Commission on Sustainable Development)は、2004年及び2005年に、水、衛生施設及び人間居住をテーマとして取り上げて集中的に討議しており、2005年4月に開催された第13会期において、議論・交渉の成果が「政策決定文書」として取りまとめられました。また、水と衛生に対する人々の意識を高め、プロジェクトに対する資金動員を支援し、新たなパートナーシップを推進していくことを目的とする国連「水と衛生に関する諮問委員会」の第1回会合が、2004年7月にニューヨークで開催され、日本の橋本元総理大臣が議長を務めました。
 日本は、水と衛生の分野では従来から大きな貢献をしています。1990年代から現在に至るまで、一貫してDAC諸国の中のトップドナーとなっており、2003年の水と衛生分野でのODA実績(DAC諸国の総額約23億ドル)のうち、実に4割以上に相当する約10億ドルを日本が担っています(OECD-DACの統計による)。
 2004年度は、水と衛生分野で、無償資金協力約201億円、円借款約2,040億円(円借款全体に占める割合約31.2%)を合わせた約2,241億円の協力を行いました。援助実績を目的別でみると、飲料水・衛生の割合が最も多く、60%を占めており、次いで、植林15%、防災、かんがいがそれぞれ12%などとなっています。
 また、国際的なパートナーシップの構築・強化に関しては、日本は、日米水協力イニシアティブ「きれいな水を人々へ」(注1)のもとで米国との連携を進めています。この関連では、インドネシア、インド、フィリピン、ジャマイカの4か国に対して、日本の有償資金協力とUSAIDの援助スキームを組み合わせた、地方上下水道インフラに民間資金を呼び込むための手法などについて検討を進めています。フィリピンでは、既存の円借款案件とUSAIDの保証制度を利用した融資スキームを形成したことに加え、新たな試みとしてPWRF(Philippine Water Revolving Fund)の創設により、公的資金と民間資金を組み合わせて上下水道インフラ整備事業を実施する可能性についても検討を行っています。
 さらに、2003年3月に京都で開催された第3回世界水フォーラム閣僚級国際会議の機会には「日本水協力イニシアティブ」を発表し、飲料水と衛生に加えて、水の生産性向上、水質汚濁防止、防災対策、水資源管理も含めた包括的な取組を進める方針を明らかにしました。
 日本水協力イニシアティブにおいて、特に積極的に取り組むとした3つの点についての2004年度の状況は以下の通りです。

(イ)貧困国・地域の飲料水・衛生ニーズへの支援
 2003年度に創設した「水資源無償資金協力」は、2004年度に「地球環境無償資金協力」との統合により「水資源・環境無償資金協力」と改称し、43件約200億円の無償資金協力を実施しました。
 例えば、アフリカ南部の内陸部に位置する低所得国の一つであるザンビアの「北部州地下水開発計画(第1期)」に対する協力を行いました。ザンビアでは給水・衛生サービスの普及が遅れており、特に農村部ではその普及率は30%程度に留まっています。十分な給水施設のない多くの村落では、生活用水を手掘りの浅井戸や村落から数km離れた涸れ川の溜まり水などに依存しており、その結果、水因性疾患の増加や女性の水汲み労働負担の増大などにより、住民の経済活動や教育といった様々な面で深刻な影響が及んでいます。このためザンビア政府は、国家水政策や貧困削減戦略文書(PRSP:Poverty Reduction Strategy Paper)(注2)において、給水及び衛生状況の改善を重要な施策の一つとして位置づけ、この問題に取り組んでいます。
 同計画は第1期と第2期の2年間を通じ、北部州の中でも給水及び衛生状況が劣悪で、他ドナーによる支援を受けていない、または支援が不充分である7郡175サイトを対象とした、給水施設の建設及び井戸掘削機材の供与を行っています。また現地の技術者への技術移転や維持管理能力、技術者養成能力向上を目指した共同作業も行っています。
 本計画の実施により、約4万人の対象地域住民が安全な水に安定的にアクセスできるようになり、また住民の主体的参加による給水施設の整備及び維持管理体制が確立され、これにより、衛生状況の改善や水因性疾患の減少、女性の水汲み労働の軽減などに対する貢献が期待されています。

(ロ)開発途上国の都市部を中心とした大規模資金ニーズへの対応
 2004年度には、植林及び水質汚濁防止関連などのプロジェクト計9件約830億円に対して、通常より低金利の円借款を供与しました。例えば、インドの「ガンジス川流域都市衛生環境改善計画(バラナシ)」では、インド北部ウッタル・プラデシュ州バラナシ市における下水道処理施設の建設・改修について、金利0.75%(償還期間40年、うち据置期間10年)という世界的に見ても極めて譲許的な条件を適用した支援を行うことでガンジス川の水質改善の促進に貢献します。

(ハ)開発途上国の自助努力、キャパシティ・ビルディングへの支援
 日本水協力イニシアティブでは、2003年度から5年間で上下水道分野において約1,000人の人材育成を実施する方針です。2004年度は上下水道分野において50人の専門家を18か国に派遣したほか、66か国776人の研修員に研修を実施しました。2003年度からの累計では、派遣した専門家97人、受け入れた研修生1,386人となり、既に目標を達成しました。引き続きさらなる人材の育成に向けた取組を進めていきます。

ポンプ修理工のトレーニングの様子(ザンビア「北部州地下水開発計画」)
ポンプ修理工のトレーニングの様子(ザンビア「北部州地下水開発計画」)

column II-4 聖なる川に美しい水を


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