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(4)農業・農村開発

 貧困層の約7割が農村地域に居住し、生計を主に農業に依存している開発途上国の状況を踏まえると、貧困削減のためには農業・農村開発が不可欠です。MDGsは、「2015年までに飢餓に苦しむ人口の割合を1990年の水準の半数に減少させる」など貧困削減及び飢餓の撲滅を主要目標に掲げています。特にアフリカ地域の状況は深刻で、サブ・サハラ・アフリカにおける人口のおよそ4分の1にあたる2億人以上が飢餓に苦しんでいると言われており、この問題を解決するためには持続的に食料を供給できるような体制を整備することが必要です。このため、2004年6月のG8シーアイランド・サミットでは、飢餓は予防可能であるとの認識のもと、開発途上国、援助国、国際機関、民間セクター、NGOなどが連携することにより、食料不足に苦しむ地域の農村開発の推進及び農業生産性の向上に対応するために、3つの新たなイニシアティブ(注)に着手することが合意されました。さらに、2005月7月のG8グレンイーグルズ・サミットでは、日本の強い主張によりアフリカ開発に関する共同文書において、農業生産性の向上、都市と農村の連携強化、貧困者の能力向上につき開発途上国の主導のもと包括的に支援することが盛り込まれました。
 日本は食料不足に直面している開発途上国に対して、危機回避のための短期的な取組として食糧援助を行うとともに、飢餓を含む食料問題を生み出している原因の除去及び予防の観点から、開発途上国の農業生産性の向上に向けた努力を中長期的に支援する取組も平行して進めています。農村地域の発展のためには、農業生産性の向上が重要であることから、日本は、農業関連政策立案支援、かんがい施設や農道などのインフラ整備、アフリカにおけるネリカ稲(NERICA:New Rice for Africa)などの生産技術の普及及び研究開発、住民組織の強化について支援する方針です。具体的には、肥料及び農業機械などの供与から研修まで含めた「貧困農民支援」(2005年度より「食糧増産援助」の名称を変更)、かんがい施設の整備や流通システム改善などに資する無償資金協力や円借款による支援、農業技術向上などのための研修員受入や専門家・青年海外協力隊の派遣による技術協力、さらにはNGOなどを通じた小規模かつコミュニティ・レベルで行われる活動に対する草の根・人間の安全保障無償資金協力を通じた支援など、様々な形態による支援を実施しています。こうした日本の農業分野における援助量は、世界的に見て高い水準にあります。OECD-DACの統計によると、日本の2003年度の農業分野における援助額はDAC加盟国中で最大であり、同分野全援助額の約40%を占めています。

図表II-15 農林水産分野の地域別供与実績

図表II-15 農林水産分野の地域別供与実績


 2004年度は、農業分野に関し、ベトナムやニカラグアにおいて都市と農村の流通促進のための地方道路整備など約24億円の無償資金協力を実施しました。また、インド、インドネシア、バングラデシュにおけるかんがい整備や地方道路整備など約827億円の円借款を実施しています。
 特徴的な取組を紹介すれば、日本は、安定的な農業用水の確保及び効率的な水利用を図るため、低コスト・節水型のかんがい施設の整備とその維持管理を農民自身が行うための、農民の組織化に対する支援を実施しています。2004年度は、カンボジアなどの小用水路の整備が不十分な水田地域を対象としてハード・ソフト両面からの協力を実施し、かんがい施設の整備と農民の組織化に協力しました。タイにおいては、既に日本の協力により土地改良区を参考にした農民水管理組織が設立され、農民主体の運営が開始されており、効率的な水利用が図られています。
 また、農村の開発計画の策定や末端用水路、農道などのインフラ整備に地域住民も参加する「村づくり協力」を国際機関と連携して進めています。具体的には、農民参加による土地や水利用に関する計画の策定、施設管理や農機具共同利用のための農民組織の設立・強化、必要資材をドナー側が提供することを前提とした農民の賦役による末端用水路や農道などの整備、施設の維持管理のためのストック・ファンドの創設といったハード及びソフト両面の取組を日本人の専門家が農民に対して直接支援しています。このような「村づくり協力」は、協力の効果が直接農家に届くだけでなく、地方政府や農民の自助努力を誘発・促進させる協力手法としてとても有用であり、2004年度は、チリの内陸乾燥地域における小流域の土壌・水保全に係る環境保全計画への支援などを実施しています。
 アフリカの多くの国では、米の需要が伸びている中で、生産が追いつかずに輸入が増加していることから、ネリカ稲の研究開発に対する支援を行うだけでなく、ネリカ稲の普及をより一層推進し、米の生産量を増加させることが重要となっています。日本は農業分野におけるアジアの経験をアフリカに活かすとの観点から、高収量のアジア稲と病気・雑草に強いアフリカ稲を交配し、耐病性に優れた高収量の品種であるネリカ稲の開発に協力しています。そのために、ネリカ稲の開発拠点であるアフリカ稲センター(Africa Rice Center、(WARDA:West Africa Rice Development Association))に対し拠出金を支出するとともに、UNDPを通じた普及事業への支援も行っています。これらネリカ稲に関係する事業への日本の支援実績は、ネリカ稲の支援を開始した1997年から2004年までに総額640万ドルに及んでいます。その結果、ギニアやコートジボワールでは、ネリカ稲栽培は大規模に広がるとともに、小規模農家にまで普及が進んできています。また、ネリカ稲の効果的な普及を図ることを目的としてWARDAの下部機構として設立されたARI(African Rice Initiative)の活動を支援するため、栽培および種子増殖に関する専門家を2005年3月より2名派遣しました。今後とも日本は、ネリカ稲の普及を促進しアフリカ諸国の米の生産量を拡大するとともに流通を改善し、アフリカ地域の食料安全保障に貢献できるように国際機関、NGOなどと協力していきます。
 日本は、国連食糧農業機関(FAO:Food and Agriculture Organization of the United Nations)、国際農業開発基金(IFAD:International Fund for Agricultural Development)、国際農業研究協議グループ(CGIAR:Consultative Group on International Agricultural Research)、WFPなどの国際機関を通じた農業分野への支援も行っています。
 水産分野においては、漁港や魚市場などのインフラ整備、漁業職業訓練センターへの調査機材などの供与、漁業・養殖業などに係る技術協力のほか、草の根・人間の安全保障無償資金協力により地域漁業団体を通じた零細漁民の生活向上のための支援などを実施しています。また、地域国際機関を通じた協力として、東南アジア漁業開発センター(SEAFDEC:Southeast Asian Fisheries Development Center)によるASEAN域内の小規模漁業・養殖業開発を支援しており、ASEAN各国から高い評価を得ています。

column II-5 ウガンダのネリカ稲裨益者


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