前頁前頁  次頁次頁


column II-4 聖なる川に美しい水を



 インドの全人口の約80%を占めるヒンドゥー教徒の多くは、宗教上の慣習として、ガンジス川やその支流のヤムナ川などの「聖なる川」で沐浴を行ったり、「聖なる川」に死者を火葬した後の遺灰を流したりしています。その際に人々は、石鹸で身体を洗ったり、薪不足により十分に火葬されていない遺体を流したりすることから、「聖なる川」の汚染が深刻な問題となっています。加えて、インドでは近年工業化の進展にともない、都市部に急激に人々が流入しており、自然の浄化力をはるかに上回る汚水が河川に垂れ流されています。「聖なる川」は、地域の人々の生活を支える水源の役割も担っているため、地域住民に、汚染された水による下痢や肝炎などの健康被害が生じています。また、汚染された水は流域の悪臭の原因にもなっています。
 これらの問題に対処するため、インド政府は主要河川の水質浄化に取り組んでおり、日本は円借款を通じて支援を行っています。これまで、首都デリーや北部のウッタル・プラデシュ州などにおいて、ヤムナ川の水質浄化のために支援を行ってきました。注1)2004年度には、ヒンドゥー教徒にとっての最大の聖地であるガンジス川流域のバラナシ市において、衛生状況を改善するためのプロジェクト 注2)が開始されました。
 バラナシ市には、沐浴や観光を目的に年間100万人以上の人が訪れますが、当地を流れるガンジス川の水質は、インド政府の定める、沐浴に適した基準を著しく下回っており、衛生上の影響が懸念されています。聖なる川の汚染を食い止めて美しい水を取り戻すために、バラナシ市に対するプロジェクトでは、下水処理場と下水管を整備するだけでなく、ヤムナ川の水質浄化の経験から得られた、人々の生活習慣や意識を変えていくことの重要性を踏まえた取組を行っています。具体的には、地元のNGOや地域団体と連携して、公衆衛生に対する住民や政府関係者の意識向上を図るための啓発キャンペーン、スラムや沐浴場における200か所以上のトイレ建設等を行う予定です。その一環として、岡山県との連携により、「児島湖再生プログラム」をはじめとする岡山県の水質浄化に向けた取組を紹介するワークショップを開催し、日本の経験や知見の紹介も行いました。本プロジェクトを通じ、「生活排水を水路に流すとなぜ川が汚れるのか」、「なぜ下痢をするのか」という点について住民の理解が進み、「公衆トイレを使おう」、「ごみを川に捨てるのをやめよう」というメッセージが浸透することが期待されています。

ガンジス川で沐浴する人々(写真提供:JBIC)
ガンジス川で沐浴する人々 (写真提供:JBIC)

注1)ヤムナ川流域諸都市下水等整備計画(I)(1992年度、177億7,300万円)・(II)(2002年度、133億3,300万円)
注2)「ガンジス川流域都市衛生環境改善計画(バラナシ)」(111億8,400万円)


前頁前頁  次頁次頁