column II-3 ドミニカ共和国の「Hospital de los japoneses(日本人の病院)」
カリブ海の島国であるドミニカ共和国のルイス・アイバール国立病院は、1946年、首都サント・ドミンゴに設立されて以来、低所得者を対象に無料で医療サービスを提供し、貧困層の健康改善に貢献することが期待されてきました。ところがその実情は、下痢などの消化器疾患が幼児死亡率のトップという状況にもかかわらず、治療のための医療器材も医師も不足し、長年にわたって内視鏡(胃カメラ)1台、医師も4人しかいないといった有り様でした。このため、医療器材を使用した検査は、1日に2人程度しか実施できませんでした。
こうした問題を解決するため、日本は、1989年より同病院に対して支援を行ってきました。具体的には、消化器疾患センターや専門医養成のための医学教育センターを無償資金協力で建設し、専門家を派遣して画像診断技術などの技術指導を行いました。消化器疾患センターが完成し、日本人専門家が活動し始めると、来院する消化器疾患患者の数が急増し、患者情報の管理システムの強化が課題として浮上しました。それまでは、患者名と番号のみを記載したノートで多数の患者を同時に扱っていたため、個々の患者の情報管理が十分でなく、急増する来院者に対して満足に対応できないという問題が生じたのです。そこで、技術協力により、日本では当然に行われている患者情報管理システムを参考として1患者1番号1カルテ方式を導入し、来院する患者の情報を機能的に整理できるようにしました。
こうした努力により、現在のルイス・アイバール病院の1週間の患者数は、日本が協力を始める前の1年間の患者数に匹敵するほどに増大しました。民間病院以上の質の高い診察を受けられることから、低所得層や地方部からの患者が増え、国民全体の受診機会も広がりました。この国の全人口は約900万人ですが、同国の厚生省とルイス・アイバール病院の統計によれば、消化器疾患センターでは、他病院から依頼される検査もあわせれば、1994年から2004年までの11年間で延べ470万人ほどに対する診察・検査が行われています。また、日本からの技術移転の結果、同病院は画像診断や疫学分野では中米・カリブ地域でトップレベルの医療技術を持つようになり、他のカリブ諸国からも患者が来訪するまでになりました。
現在では、ルイス・アイバール病院は、ドミニカ共和国における日本の経済協力の象徴的な存在となっています。患者がタクシーで同病院へ行く場合、「Hospital de los japoneses(日本人の病院)」といえば運転手に通じてしまうほどです。ルイス・アイバール病院は、将来的にはドミニカ共和国のみならず、中米・カリブ地域の医療機関のモデルとなることが期待されています。

消化器疾患センター

中米カリブでトップレベルとなった画像診断技術の移転