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(2)感染症

 現在でもHIV/エイズや結核といった感染症は、開発途上国国民一人ひとりの健康問題にとどまらず、今や開発途上国の経済・社会開発への重要な阻害要因となっています。また、感染症は、グローバル化の進展に伴い人の移動が容易になったことなどから、容易に国境を越えて、他国にも広まる可能性があり、地球的規模の問題として、国際社会が協力して対処することが求められる課題となっています。このような認識から、日本は、2000年7月のG8九州・沖縄サミットにおいて感染症の重要性を取り上げ、沖縄感染症対策イニシアティブ(IDI)を発表し、こうした流れが、国際的な感染症に対する関心を喚起し、2002年1月の世界エイズ・結核・マラリア対策基金(GFATM:Global Fund to Fight AIDS, Tuberculosis and Malaria:以下、世界基金)の設立につながりました。2003年のG8エビアン・サミットや2004年のG8シーアイランド・サミットで採択された行動計画においても感染症対策の重要性が謳われています。
 日本はIDIに基づいて、二国間・多国間の援助を通じた包括的な開発途上国の感染症対策を推進してきました。IDIでは2000年からの5年間で感染症対策として30億ドルを目途とする支援を行うこととしていますが、2003年度までの4年間で総額41億ドル以上の支援を行ってきています。
 また、世界基金への日本を含めたドナー国などによる拠出誓約額は、これまで総額約55億ドルの規模に達しており、2002年から2005年4月までに日本の拠出した3億2,740万ドルを含め既に33億ドルが拠出されています。これまで約130か国における総額30億ドルの協力案件が承認されており、その内訳を見ると、エイズが56%、マラリアが31%、結核が13%、地域的にはサブ・サハラ・アフリカが61%、アジア・中東・北アフリカが23%、東欧・中南米・カリブが16%となっています。これら承認案件の実施により、160万人のエイズ患者への抗レトロウイルス薬の投与、5,200万人へのHIV予防サービスの提供、3,500万人へのDOTS(Directly Observed Treatments, Short course:直接監視下治療)(注1)による結核治療、1億4,500万人へのマラリア治療薬の配布、1億800万の蚊帳の供給が可能となり、その成果が期待されています。また、2005年6月末に日本で開催された「九州・沖縄G8サミット世界基金構想5周年特別シンポジウム」において小泉総理大臣は世界基金への拠出を増額し、当面5億ドルの拠出を行うことを表明しました。
 さらに、日本は最近における重症急性呼吸器症候群(SARS:Severe Acute Respiratory Syndrome)対策や鳥インフルエンザといった新興感染症への対策においても、WHOFAOといった関係国際機関とも連携しつつ、様々な手段を講じて協力してきています。主な感染症の2004年度の具体的な取組状況は以下のとおりです(感染症以外の保健分野における取組については、第II部第2章第2節1.(2)を参照して下さい)。

(イ)HIV/エイズ
 HIV/エイズについては、2004年度末の時点で、世界で約4,000万人がHIVに感染またはエイズを発症(注2)していると推測されています。WHOと国連合同エイズ計画(UNAIDS:Joint United Nations Programme on HIV/AIDS)が公表した3by5イニシアティブ*1を達成するための具体的な計画には、10万人の医療従事者をトレーニングすることが掲げられ、HIV/エイズの治療と予防の拡大を支えるための医療従事者の養成が世界的に急務となっています。日本は、この分野の開発途上国支援において、若年者層とハイリスク・グループへのHIV/エイズの予防活動、自発的な検査とカウンセリング(VCT)活動、HIV/エイズ検査・診断体制の整備などに貢献しています。2004年度は、UNDPがタイにおいて実施する「出稼ぎ労働者の多いコミュニティにおけるHIV対策」に対して人間の安全保障基金による支援などを行い、11月には、東京にてASEAN各国からHIV/エイズ対策に携わる保健行政官とHIV/エイズのケア・治療並びに医療従事者の指導に携わる拠点病院の医師・看護師などを招へいしASEANエイズワークショップを開催しました。また、UNAIDSを通じ、世界のHIV感染状況の動向把握、ワクチン開発及び新治療薬開発の促進、各種予防対策などのガイドライン開発などを行いました。

HIV/エイズに対する理解と支援の象徴であるレッドリボンを現地の人々とともに作る協力隊員(マラウイ)(写真提供:JICA)
HIV/エイズに対する理解と支援の象徴であるレッドリボンを現地の人々とともに作る協力隊員(マラウイ)(写真提供:JICA

(ロ)ポリオ
 西太平洋地域(注3)ではポリオは根絶され、2000年にはWHOによる同地域におけるポリオ根絶宣言が出されるなど、全世界のポリオ根絶まであと一歩のところまで来ています。日本は、UNICEFやWHOと連携しつつ、まだポリオが根絶されていない南アジア地域及びアフリカ地域に対してポリオ・ワクチンの接種普及を積極的に支援しています。2003年のG8エビアン・サミットで、日本は、世界からのポリオ撲滅に向けて、2005年までの3年間に8,000万ドルを目標に支援を実施することを誓約し、2005年までの誓約額では米国に続き2番目の貢献を行っています。これまで、2003年度には約4,000万ドルを、2004年度には約3,000万ドルに相当する支援を行い、誓約額のほとんどを既に実施済みです。さらに、G8諸国と協調し、ポリオ撲滅支援に関する国際社会への働きかけも行いました。具体的案件例としては、エジプト、インド、パキスタンの「ポリオ撲滅計画」への支援(ポリオ・ワクチンの供与)、バングラデシュ、スーダン、コンゴ民主共和国、エチオピア、ガーナ、シエラレオネ、ナイジェリアの「小児感染症予防計画」への支援(ポリオと麻疹のワクチンの供与)などを行うとともに、専門家や青年海外協力隊の派遣などを行いました。

(ハ)結核
 日本はDOTS普及のため、抗結核薬や検査機材の供与をWHOの結核対象重点国など結核被害の深刻な国に対して重点的に実施しています。2004年度は中国などに対し、総額4億円を超える無償資金協力によって抗結核薬・機材を供与しました。また、カンボジアやアフガニスタンなどに専門家を派遣し、現地の結核対策プログラムや活動体制確立のための支援などを実施しており、これらの取組を通じてDOTSの拡大・普及に貢献しています。

(ニ)マラリア
 日本は、アフリカにおけるマラリア対策に貢献するため2007年までに1,000万帳の長期残効型薬剤浸漬蚊帳を供与することを発表しました。これによって、アフリカの16万人にのぼる子どもの死亡が予防できるといわれています。この一環として2004年度には、スーダンへの24万帳をはじめ、ガーナ、シエラレオネ、アンゴラなどに対し、殺虫剤処理をした長期残効蚊帳の供与を実施・決定しました(マラリア対策については、第I部第2章第3節3(ロ)も参照して下さい)。

調達された蚊帳、殺虫剤などのマラリア対策機材(セネガル)(写真提供:日本国際協力システム(JICS))
調達された蚊帳、殺虫剤などのマラリア対策機材(セネガル)(写真提供:日本国際協力システム(JICS))

column II-10 アジア太平洋地域の保健分野に対する日本の貢献

(ホ)寄生虫症
 日本は、タイ、ケニア及びガーナに設立した国際寄生虫対策センターにおいてマラリアを含む寄生虫症対策のための人材育成と研究活動を行っているほか、NGO支援や青年海外協力隊によるギニア・ワーム、フィラリア、土壌伝播寄生虫などの対策に取り組んでいます。特にギニア・ワームについては、日本は米国に次ぐ規模の貢献をしています。1986年には世界で約350万人いたギニア・ワーム感染者は、2002年には約5.5万人と98%低減しており、引き続きギニア・ワーム撲滅に向けて取り組んでいきます。フィラリア症については、WHOが1970年代にフィラリア症根絶に成功した日本のノウハウに基づいて世界フィラリア症根絶プログラムを始めました。同プログラムの一環として、例えば太平洋島嶼国において、2010年までに根絶を達成するプログラムを展開しています。また、2005年3月には「国際寄生虫ワークショップ2005」が東京で開催され、国際寄生虫対策構想(橋本イニシアティブ)の過去の5年間のレビューなどが行われ、学校保健の推進を通じた寄生虫対策の有効性が確認されました。

 以上のような取組を実施するにあたって、日本はUNICEF、WHO、UNAIDSなどの国際機関や、米国などの他の援助国との連携も積極的に行っています。さらに、国連の「人間の安全保障基金」、国際NGOであるIPPFの「HIV/エイズ日本信託基金」、UNESCOの「人的資源開発信託基金」及び「エイズ教育信託特別基金」、世界銀行の「日本社会開発基金」など日本が資金拠出して設置したそれぞれの基金によっても、HIV/エイズをはじめとする多くの感染症対策が実施されています。また、日本は世界基金への支援については、既に説明した資金的支援に加え、世界基金の最高意思決定機関である理事会の理事国として参加しています。
 一方で、日本ではHIV/エイズ、結核、マラリアの三大感染症に対する脅威についての認識は低く、世界基金に対する認知度が低いのが現状です。そこで世界基金の活動及び感染症に対する国民の理解を深め、特に感染症に関する東アジア諸国との協力を促進することを目的に、世界に先駆け2004年6月、森前総理大臣を会長として学識者、民間企業、NGO、政府関係者などの委員からなる世界基金支援日本委員会が設立されました。2005年6月には、同委員会の主催により、「九州・沖縄G8サミット世界基金構想5周年記念特別シンポジウム『三大感染症に対する東アジアの対応』」が開催され、東アジアにおける感染症の現状と、地域協力促進のための方策についても議論を行いました。日本は、同シンポジウムの機会に、小泉総理大臣より世界基金への拠出を増額し、当面5億ドルの拠出を行うことを表明しました。
 このほか、広域的な協力として、日本の感染症対策の経験が応用しやすいアジア地域において、HIV/エイズ、結核、マラリア・寄生虫を対象とする「ASEAN感染症情報・人材ネットワーク」を立ち上げ、ASEAN地域の感染症対策を推進しています。

図表II-18 沖縄感染症対策イニシアティブ(IDI)の実績(2000~2003年度)

図表II-18 沖縄感染症対策イニシアティブ(IDI)の実績(2000~2003年度)



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