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column II-10 アジア太平洋地域の保健分野に対する日本の貢献



 8,000名を超える感染者、700名を超える死者。2003年に猛威をふるったSARSのアジアにおける犠牲者の数字です。SARSの感染者と死亡者の9割以上をアジアが占めました。SARSの流行による直接的、間接的影響は計り知れず、経済的影響だけ見ても、数千億円を超えたとの推計もあります。日本は、WHOを中心とする国際機関と協力して感染の拡大防止作戦を展開しました。そうした努力もあって、現在、SARS流行は収まっていますが、なお楽観は許されません。グローバル化が進む今日、感染症は容易に国境を越え、世界全体に拡がる恐れがあります。地域間の緊密な連携と協力体制の構築が求められる所以です。
 世界が直面している最も深刻な脅威の一つにHIV/エイズがあります。アジアにおいても感染者が急増しており、20年以内には感染者・患者の絶対数がアフリカを超える可能性があります。感染は特に貧困層など社会的に脆弱な人々の間で広がっています。このことは世界全体の貧困人口の3分の2を抱えているアジアにおいて、貧困削減と健康問題に同時に取り組む必要があることを示しています。
 人々の健康を守ることは、貧困削減や開発の基礎となります。日本はODAにおいて、感染症をはじめとする保健分野の協力を重視し、自らの経験や技術を活かして貢献しています。例えば近代以降、乳幼児死亡率を激減させた日本の経験は、家族計画の推進や母子手帳の普及といった形で、インドネシアや東ティモールで役立っています。また戦後、地域住民や小中学校教師の参加を得て行われた寄生虫対策は、現在、ラオス、カンボジアといった国々の寄生虫対策として実施されています。しかも、こうした国々の寄生虫対策は、タイという、日本が支援を行ってきた国と日本との協力のもとに行われています。日本の経験がアジアへ、そしてアジアの経験が他のアジア諸国へ広がっています。日本は、こうした南南協力を自助努力に対する支援として重視してきました。多くの国や機関の間で経験を共有し、保健分野における国際協力体制の強化のもとに、効果的なアプローチを拡大していく必要があります。
 こうしたことを目的として、2005年6月21から22日に日本の呼びかけにより、「保健関連MDGsに関するアジア太平洋ハイレベル・フォーラム」が開催されました。会議では、世界の貧困削減や感染症の抑制、乳児死亡率の低減などを目指すMDGsの達成に向けて、地域内で連携と協力を強化していくことが確認されました。日本は引き続き保健分野での協力を推進し、アジア太平洋地域での保健MDGsの達成に貢献していきます(詳細については第II部第2章第1節2(ハ)も参照して下さい)。

「保健関連MDGsに関するアジア太平洋ハイレベル・フォーラム」の様子
「保健関連MDGsに関するアジア太平洋ハイレベル・フォーラム」の様子

出席したキルギス副首相と握手を交わす逢沢外務副大臣
出席したキルギス副首相と握手を交わす逢沢外務副大臣


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